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TIS(装置起因シフト)とは

TIS(装置起因シフト)とは、重ね合わせ検査装置そのものが持つ非対称さが、測定値へ載せてしまう偽の位置ずれ成分です。 ウェーハの上で起きたずれと別枠の量で、測る側が作ります。そのため、同じマークの向きを変えて二度測ると、二つの量へ分離した値が得られます。

キヤノンが2002年に出願した公開特許公報は、TISをTool Induced Shiftの略とし、装置要因の誤差を意味する語としています。同公報によれば、この語は歴史的に重ね合わせ検査装置について先に使われはじめ、後から露光装置のアライメント誤差についても同じ範疇の内容へ同じ言葉を当てるようになりました。

パナソニックが2008年に出願した公開特許公報は、同じ量を光学側から書いています。同公報によれば、TISは光学系の光軸が傾くことに由来し、ずれ量の測定値へ混じり込む誤差の成分です。照明光が基板へ斜めに入る、あるいは対物レンズの左右で光路に差があると、下層の外側ボックスと上層の内側ボックスの見かけの中心が同じ側へ移り、その差がずれ量として出力されます。

測り方は、同じ点を向きを変えて二度測ることです。キヤノンの同公報によれば、計測マークを0度と180度へ回して二回測り、二つの値の差を半分にした量を使うやり方がTIS補正法で、二つの値を足して半分にした量のほうは装置の性能を示す数字として各社が仕様へ書き込んでいます。パナソニックの同公報も、ノッチを上向きにして基板を180度回した姿勢で同じ測定マークを測り、二つのずれ量の和の半分を方向を持つベクトル量として算出する手順を示しています。

向きを変えて二度測ると、装置の分と本当のずれを別々に取り出せます
0度の姿勢面内に180度回した姿勢測定値 M(0°)測定値 M(180°){M(0°)− M(180°)}÷ 2装置の分を落とした層間の位置ずれ{M(0°)+ M(180°)}÷ 2TIS 値、装置の非対称さ同じ点を二度測るため、測定の時間は二倍になります
同じマークを0度と180度で測り、二つの値の差の半分を層間の位置ずれ、和の半分をTIS値として取り出します。装置の非対称さは向きを変えても同じ側へ出るため、和では生き残り、差では消えます。

TIS を残したまま流すと何が起きますか

Section titled “TIS を残したまま流すと何が起きますか”

重ね合わせ検査装置へ要求される精度は、露光そのものより一桁厳しい水準です。キヤノンの同公報は、アライメントの要求精度が回路パターンの1/3以下と言われるとし、0.18μmルールの1GビットDRAMでは60nm以下のオーバーレイ精度が要り、それを測る重ね合わせ検査装置にはその1/10の6nm以下が要るとしています。同公報が挙げるTIS値は数nm、装置仕様としては2〜3nmです。6nmの枠のうち2〜3nmを、装置由来の偽の成分が占める勘定になります。以上は2002年出願時点の記述です。

JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会が公開しているITRS2007年版メトロロジの日本語版は、この配分を表の形で示しています。2007年欄では、ウェーハの重ね合わせ制御が13nm、その工程へ返す計測の不確かさがP/T比0.1として1.1nm(3σ)です。ダブルパターニングの欄では、二重露光とエッチングの工程レンジ9.19nmに対して不確かさ0.8nmが並びます。以上は2007年版の要求値です。

残った分は、そのまま露光装置へ渡ります。ニコンの公開している技術資料は、露光の前にウェーハの歪みを測り、その結果をフィードフォワードして露光の工程で補正する仕組みを示し、そこへLitho BoosterやiAS(inline Alignment Station)という名前を挙げています。オーバーレイ計測の結果は次ロットの露光装置の補正量になるため、TISが残っていると、装置は誤った方向へ補正量を振ります。APCのループへ偽の入力を送る形になります。

なお、SEAJの半導体製造装置用語集は、同一露光装置でのアライメント精度をDedicated Chuck Overlay、異なる露光機間の精度をMatched Machine Overlayと呼び分けています。二台を比べる作業でも、検査装置のTISが両方へ同じだけ載っていれば差で消えますが、検査装置を替えた瞬間に、その差そのものが測定値へ載ります。

ウェーハ側の非対称さと重なると面内でばらつきます

Section titled “ウェーハ側の非対称さと重なると面内でばらつきます”

TISが一枚の中で一様なら、平均値を一つ引けば済みます。その一様さを崩すのが、ウェーハ側の非対称さです。キヤノンの同公報によれば、ウェーハ側のプロセスに起因する誤差、すなわちWIS(Wafer Induced Shift)が乗った一枚では、わずかなTISとの掛け合わせ、いわゆるTIS-WIS Interactionが大きな計測誤差を生みます。同公報が挙げる例は、メタルCMPなどの平坦化を通ったあとで重ね合わせ検査マークの断面が左右で揃わなくなり、検出の精度が落ちる場面です。

面内の分布にも形があります。同公報によれば、メタルCMPやPVDを通す工程では、ショットごとのTIS値をウェーハの面内でマップにしたとき、極座標的なばらつきの分布になります。原因は、これらの工程のプロセス誤差そのものが極座標的に出ることです。同公報は、ショット間でのこのばらつきにTIS Variabilityという呼び方があることも書き添えています。パナソニックの同公報は、TIS値が基板面内でばらつく要因を、層間絶縁膜やフォトレジストなどの基板面内の膜厚ばらつきによるところが大きいとしています。

ターゲットの側も動いています。ITRS2007年版メトロロジの日本語版によれば、平坦化に使うCMPがターゲットの構造を痛めており、重ね合わせをより厳しく抑えたいという要求へ応えるため、配線のアライメントターゲットではラインの縁をぎざぎざの形へ変えています。同版は、多孔質のLow-k材が製造へ入ってくると重ね合わせをさらに難しくする、とも述べています。

TIS の大きさは、一枚の中で場所ごとに動きます
装置だけの非対称メタル CMP や PVD を通した後どのショットも同じ向き、同じ大きさ中心は小さい外周ほど大きいTIS 平均値を一つ引けば落ちます面内の 3σ が値として出ます ── TIS Variabilityマーク自体の非対称さ(WIS)と重なると、TIS の値は場所ごとに変わります
装置だけの非対称であれば、TISは面内で同じ大きさに出るため、平均値を一つ引けば落ちます。メタルCMPやPVDを通した層ではマーク自体が非対称になり、TISの値がウェーハの中心からの距離で変わります。この分は面内の3σとして測定値へ載ります。

第一のつまみは、測定マークへ合わせる光学顕微鏡の焦点位置です。パナソニックの同公報によれば、従来の手法は焦点位置を段階的に動かして基板面内のTIS平均値を計算し、それが最小になる焦点位置を最適としてきました。同公報はここに落とし穴を挙げています。X軸とY軸の面内TIS平均値の二乗和平均平方根が最小になる焦点位置と、繰り返し測定再現性の二乗和平均平方根が最小になる焦点位置がずれるという実測を示し、単一の指標だけで重ね合わせ測定精度を上げることは困難としています。そこで同公報は、焦点位置決定値を「−(相関係数)+(基板面内TISの3σ)+(繰り返し測定再現性)」と定めた上で、これが最小になる焦点位置を選ぶ方法を示しています。相関係数は、走査型電子顕微鏡で測長した層間の位置ずれとの相関で、CD-SEMを基準側へ据える使い方です。面内TISの3σは、基板上20箇所以上の測定マークから計算します。同公報は規格値を装置自体の実力値の70%以下、具体例として2.8nm以下へ設定し、その範囲内で最小を選ぶ手順を書いています。以上はパナソニックの同公報の記述です。

第二は、照明の波長と検出のしかたです。キヤノンの同公報は、波長λ1、λ2の光源を切り替えて計測し、残差成分が最小になる波長を次回以降へ選ぶ方法を示しています。輪帯形状のアパーチャを使う暗視野検出と、垂直落射照明による明視野検出のどちらを使うかも、同公報はパラメータとして挙げています。波長を替えると、その層の膜厚での干渉条件も一緒に動きます。波長は層ごとに選び直す作業になります。

第三は、像から中点を求める演算の側です。同公報は、光電変換信号へスライスレベルを設け、信号との交点から二つのマーク像の中点を求める方式を示し、スライスレベルを段階的に変えたときの残差成分が、露光装置のステージ精度aの√2倍という基準の数値以下へ収まるものを候補として記憶し、その中で最小のものを次回以降の検査へ使う手順を書いています。対称性マッチング法を使う場合は、演算ウインドウの位置と幅が同じ役割のつまみになります。

第四は、マークの側です。同公報は、Box in Box型とBox in Bar型を挙げ、線幅の異なるマークを複数用意して残差成分が最小になる線幅を選ぶ方法を示しています。マークの断面形状もパラメータです。フォトマスクの側で線幅を決め直す作業になるため、次のリビジョンまで待つことになります。

渡すものの第一は、測定の時間です。0度と180度で同じ点を二度測るので、測定点あたりの時間が二倍になります。全点で二度測る運用は、サンプリングの点数を削るか、スループットを削るかの二択になります。

第二は、補正値の鮮度です。パナソニックの同公報は、あるデバイス品種を初めてラインへ流す前に最適焦点位置と面内TIS平均値を決めておき、そのデバイスの決まった二つのフォトマスク層の間の重ね合わせ測定については以後その値のまま使う、と運用を書いています。同じ値のままなら測定は一回で済みますが、ウェーハ側の非対称さが動いたときには補正量が許容範囲を超えます。

第三は、規格を厳しくしたときの自由度です。パナソニックの同公報が示すように、TISの3σの規格値を実力値の70%へ絞ると、規格を満たす焦点位置の範囲そのものが狭くなります。緩めれば選べる焦点位置は広がり、そのぶん面内の3σが大きいまま測定値へ載ります。

第四は、レシピの数です。最適なパラメータは層ごと、マークごとに動くため、版が増えます。複数台の検査装置を使う量産では、台ごとにTIS値が異なるため、装置マッチングの作業がここへ重なります。

TIS(装置起因シフト)とは何ですか?

重ね合わせ検査装置そのものの非対称さが測定値へ載せてしまう、偽の位置ずれ成分です。キヤノンの公開特許公報は、TISをTool Induced Shiftの略とし、装置要因の誤差を意味する語としています。

なぜウェーハを180度回して測るのですか?

装置由来の偏りとウェーハ上の本当のずれで、向きを変えたときのふるまいが逆になるためです。キヤノンの同公報は、計測マークを0度と180度で二回計測し、二つの計測値の差の半分を補正後の値、和の半分をTIS値とする手順を示しています。

TISの値はどれくらいですか?

キヤノンの同公報は、当時市販されていた重ね合わせ検査装置の仕様でTIS値を2〜3nmと記しています。2002年出願時点の記述です。

WISとは何が異なりますか?

誤差を作る側が異なります。キヤノンの同公報は、WIS(Wafer Induced Shift)をウェーハ側のプロセスに起因する誤差とし、メタルCMPなどの平坦化を通ると重ね合わせ検査マークの断面が左右で揃わなくなる例を挙げています。TISは装置側、WISはウェーハ側です。

TIS補正をすると装置由来の誤差はどこまで落ちますか?

面内で一様な分は落ちます。キヤノンの同公報によれば、WISが乗ったウェーハではわずかなTISとの掛け合わせが大きな計測誤差になり、メタルCMPやPVDを使う工程ではショットごとのTIS値を面内でマップにすると極座標的なばらつきの分布になります。

TISはどのつまみで動きますか?

測定マークへ合わせる光学顕微鏡の焦点位置、光源の波長と照明条件、像から中点を求める演算のスライスレベルとウインドウ、マークの線幅と形です。パナソニックの公開特許公報は焦点位置を、キヤノンの同公報は波長・照明・信号の演算・線幅を、それぞれ最適化の対象として挙げています。

TIS補正の代償は何ですか?

測定の時間です。0度と180度で同じ点を二度測るため、測定点あたりの時間が二倍になります。パナソニックの同公報のように品種投入前に最適焦点位置と面内TIS平均値を決めて同じ値を使い続ける運用は一回測定で済みますが、ウェーハ側の非対称さが動くと補正量が許容範囲を超えます。

この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。

  • 特許庁 公開特許公報「JP2004119477A 重ね合わせ検査方法及び装置(出願人 キヤノン)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TISがTool Induced Shiftの略で装置要因の誤差を指すという記述、0度と180度で二回計測し差の半分を使い和の半分をTIS値とする手順、TIS値が装置仕様で2〜3nmという水準、WISとの相互作用、メタルCMPやPVD工程での極座標的なばらつき分布とTIS Variability、スライスレベル・波長・照明・線幅・フォーカス位置というパラメータ、検査装置へオーバーレイ精度の1/10が要るという記述
  • 特許庁 公開特許公報「JP2009270988A(出願人 パナソニック)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TISが光軸ずれ起因の誤差成分であるという記述、ノッチを180度回して測り和の半分をベクトル量として算出する手順、面内TIS平均値が最小の焦点位置と繰り返し再現性が最小の焦点位置が離れるという実測、焦点位置決定値の式、規格値を実力値の70%以下・2.8nm以下とする例、20箇所以上の測定マーク、面内ばらつきの要因が膜厚ばらつきであるという記述、品種投入前に決めて同じ値を使い続ける運用
  • JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS2007年版 メトロロジ 日本語版」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 2007年欄の重ね合わせ制御13nmと計測の不確かさ1.1nm(3σ、P/T比0.1)、ダブルパターニングの工程レンジ9.19nmと不確かさ0.8nm、CMPがターゲット構造を劣化させているという記述、配線のアライメントターゲットのラインエッジ、多孔質Low-k材の影響
  • SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── アライメント(重ね合わせ)精度の決め方、Dedicated Chuck OverlayとMatched Machine Overlayの呼び分け
  • ニコン「露光から計測・検査まで 半導体製造における露光装置と計測・検査装置の基礎知識」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 露光前にウェーハの歪みを測り、その結果をフィードフォワードして露光の工程で補正する仕組みと、Litho Booster・iASという同社の技術名
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