バイアス電力とは
バイアス電力とは、ウェハを載せた側の電極へ高周波を送り、プラズマの中のイオンをウェハへ引き込んで加速するための電力です。 プラズマそのものを作る電力とは受け持つ役が別で、削る速さと下地の残り方を別々に選ぶための取っ手になります。
ドライエッチングのチャンバには、ガスと、そのガスから作ったプラズマが入っています。プラズマの中では、電気を帯びたイオンと、電気的に中性のラジカルが混ざっています。ラジカルは向きを持たずに飛び回るため、そのままではウェハの上も横も同じ調子で削ります。細い溝を垂直に彫りたいのに、横へ広がってしまいます。
ここでウェハ側の電極へ高周波を入れると、イオンだけがウェハへ向かってまっすぐ引き込まれます。アルバックは技術ページで、基板側へバイアスを印加してプラズマ中の反応性イオンを基板表面へ引き込むことでエッチングが促進され、マスクのパターンをより速く、異方性をもって薄膜へ転写できる、としています。バイアスを切ったチャンバでは、この「まっすぐ」が失われます。速さが落ち、さらに溝の断面が丸くふくらんで、寸法が設計から離れます。
電力を入れると、なぜイオンが加速されるのか
Section titled “電力を入れると、なぜイオンが加速されるのか”プラズマ・核融合学会誌の小特集は、プラズマに晒した電極へ高周波を印加したときに直流のバイアスが立つ仕組みを図で示しています。電子はイオンよりはるかに動きやすいため、高周波の1周期のあいだに電子のほうが先に電極へ多く到達し、電極が負に帯電します。負に帯びるほど電子は電極へ到達しにくくなり、電子の電流とイオンの電流が釣り合うところで落ち着きます。このとき電極に残る直流の負電圧が自己バイアスです。同誌の用語解説は、反応容器の内壁を含む接地側の面積が大きいため、高周波を印加する側に大きな自己バイアス電圧が発生し、この電圧でイオンが加速されてウェハ表面の反応が進む、と記しています。
操作しているのは電力ですが、イオンを叩きつけているのは、その結果として立つ電圧です。この二段構えを踏まえると、後の調整のしかたが読めます。
二つのつまみを別に持つ理由
Section titled “二つのつまみを別に持つ理由”同誌の用語解説は、2周波CCPを、プラズマ生成に27〜100 MHz、バイアス発生に400 kHz〜2 MHzの2種類の周波数を使い、プラズマの密度と、イオンが持つエネルギーとを、たがいに独立して制御できる方式として示しています。同誌の装置開発史の章にも、プラズマの密度とバイアス電圧のそれぞれを独立して操作できる3電極方式が1980年代に提案された経緯が記されています。
つまみが1本の装置では、速く削ろうとして電力を上げた瞬間に、イオンのエネルギーまで一緒に上がります。すると下地も一緒に削れ、深いところまで傷が入ります。ソース側とバイアス側を分けた装置なら、数はソース側で稼ぎ、エネルギーはバイアス側で低く抑える、という組み合わせを選べます。サムコは公式製品ページで、ICPエッチング装置では平行平板型のRIE装置に比べてプラズマ密度が1000倍になる高密度プラズマが得られ、プロセスマージンを大きく広げられる、としています。同社製品についての記述です。
何を測り、どう動かすのか
Section titled “何を測り、どう動かすのか”現場が見ているのは、投入した電力の数字よりも、その結果として基板に立つ電圧です。プラズマ・核融合学会誌の講座は、基板表面へのイオン入射エネルギーを、プラズマ電位と基板ステージの直流自己バイアス電圧から決まる量として示しています。SEAJの半導体製造装置技術ロードマップは、プラズマを使っている場合には基板にかかるバイアスのモニタも重要な管理項目になる、としています(2012年版の記述です)。同ロードマップは、低中密度のプラズマでエッチングに要るイオンエネルギーの制御範囲が広いことを、今後も続く改良点として挙げています。
同講座は、ICP装置を用いた塩素プラズマによるシリコンのエッチング実験(エッチング時間2分)の結果を載せています。イオン入射エネルギーを上げると、シリコンと酸化シリコンのどちらのエッチング速度も上がり、シリコンの酸化シリコンに対する選択比は下がりました。表面のあらさは250 eV付近で鋭いピークを示し、それより高いエネルギーでは急に小さくなりました。同じ実験系で時間を追うと、220 eV程度までの低いエネルギーではあらさが20分にわたり増え続けたのに対し、470 eV程度では0.3 nm程度にとどまりました。エッチング前のシリコン基板は0.15 nmです。
上げるほど差し出すもの
Section titled “上げるほど差し出すもの”差し出すものは選択比のほかにもあります。プラズマ・核融合学会誌の2021年の小特集は、窒化シリコンの平坦膜を対象にした加工シミュレーションで、同じ500 Vでも、連続放電では高いエネルギー側のピークを含むためダメージ量が最も大きくなり、最表面から深さ2 nmにかけて分布した、としています。イオンのエネルギーをそろえた条件では、直流500 Vのときに深さ1 nmにわたって分布していたダメージが、直流80 Vへ下げることで量が1桁減り、深さも原子1〜2層まで浅くなりました。計算結果としての記述です。
同誌はまた、ダメージを減らす目的でバイアス電力を下げるとイオンのエネルギー分布が低いほうへ移り、エッチングイールドのしきい値を超えたイオンだけが削る仕事に加わる、とも述べています。下げる側にも壁があります。
高アスペクト比の孔という例外
Section titled “高アスペクト比の孔という例外”深い孔を彫るときは、事情が一段複雑になります。同じ2021年の小特集は、絶縁物の高アスペクト比の孔では孔の内部が電気的に絶縁されているため、正イオンが当たった孔内の表面で電荷の中和が追いつかなければ電荷がたまり、電位が残る、としています。するとシースで加速したイオンは、加工面へ届くまでにその電位のぶんだけ減速します。同誌は、高周波電源の技術が進んだこともあり、この低下を補うために基板へ印加するバイアス電圧が年々増大している、と記しています。
強く加速したイオンにも、横へ拡がる成分がついてきます。同誌は、シース厚1 mm以下で数kVまで加速されたイオンでも、シースへ入るときの熱速度が横方向の初速として残るため、入射角度の分布は4度程度に拡がる、としています。孔の底へ集中して運ぶ新しい手段の開発が望まれる、というのが同誌の見立てです。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”バイアス電力とは何ですか?
ウェハを載せた側の電極へ高周波を送り、プラズマ中のイオンをウェハへ引き込んで加速するための電力です。アルバックは技術ページで、基板側へバイアスを印加することでプラズマ中の反応性イオンを基板表面へ引き込み、エッチングを促進する、としています。
プラズマを作る電力とは何が異なるのですか?
受け持つ役が別です。プラズマ・核融合学会誌の用語解説は、2周波CCPを、プラズマ生成に27〜100 MHz、バイアス発生に400 kHz〜2 MHzの2種類の周波数を使い、プラズマの密度と、イオンが持つエネルギーとを、たがいに独立して制御できる方式として示しています。
なぜ電力を入れるとイオンが加速されるのですか?
電極に直流の負電圧が立つためです。同誌は、プラズマに晒した電極へ高周波を印加すると、電子とイオンの動きやすさの差から電極が負に帯電し、電子の電流とイオンの電流が釣り合うところで直流バイアスが発生する、と示しています。
現場では何を見て調整するのですか?
基板に立つ電圧です。同誌の講座は、基板表面へのイオン入射エネルギーを、プラズマ電位と基板ステージの直流自己バイアス電圧から決まる量として示しています。SEAJの技術ロードマップは、プラズマを使っている場合には基板にかかるバイアスのモニタも重要な管理項目になる、としています。
バイアスを上げると何が良くなりますか?
削る速さと形の垂直さです。プラズマ・核融合学会誌の講座は、ICP装置を用いた塩素プラズマによるシリコンのエッチング実験で、イオン入射エネルギーを上げるとシリコンと酸化シリコンのどちらの速度も上がった、と報告しています。
上げすぎると何が起きますか?
選択比が下がり、下地のダメージが深くなります。同じ実験で、イオン入射エネルギーを上げるとシリコンの酸化シリコンに対する選択比は下がりました。2021年の小特集では、窒化シリコン平坦膜の計算で、直流500 Vから80 Vへ下げるとダメージ量が1桁減り、深さも原子1〜2層まで浅くなる結果が示されています。
高アスペクト比の孔ではどうなりますか?
孔の中に電荷がたまると、加速したイオンが加工面へ届くまでに減速します。2021年の小特集は、この低下を補うために基板へ印加するバイアス電圧が年々増大している、としています。同誌は、シース厚1 mm以下で数kVまで加速したイオンでも、入射角度の分布は4度程度に拡がる、とも記しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- RIE(反応性イオンエッチング)とは ── バイアスで加速したイオンを使う代表方式
- ICP(誘導結合プラズマ)とは ── プラズマの密度をソース側で稼ぐ方式
- 選択比(エッチング)とは ── バイアスを上げたときに減る量
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- アルバック「ドライエッチングとは」技術ページ(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 基板側へのバイアス印加が反応性イオンを引き込み、異方性をもって速く転写できること
- プラズマ・核融合学会「材料プロセス用フルオロカーボンプラズマ 現状と展望」2007年4月号 小特集(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 自己バイアスが立つ仕組み、2周波CCPの周波数と二つの独立した制御軸、3電極方式の経緯
- プラズマ・核融合学会「プラズマエッチングのシミュレーション」2014年7月号 講座(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── イオン入射エネルギーと自己バイアス電圧の関係、速度と選択比とあらさの実測
- プラズマ・核融合学会「先端デバイス構造を実現する超絶ドライエッチング技術の最前線」2021年9月号 小特集(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── バイアスとダメージ深さの計算結果、高アスペクト比の孔での帯電と入射角度の拡がり
- SEAJ「半導体製造装置技術ロードマップ ウェーハプロセス」2012年版(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 基板にかかるバイアスのモニタが管理項目になること、イオンエネルギーの制御範囲への要求
- サムコ「ICPエッチング装置」公式製品ページ(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 平行平板型RIEと比べたプラズマ密度とプロセスマージン