シースとは
シースとは、プラズマと固体が接するところにできる、電子が減ってイオンが余る薄い層です。 ドライエッチングで穴や溝がまっすぐ掘れるのは、この層がイオンをウェーハへ垂直に加速するためです。
成蹊大学の中野武雄氏が日本真空学会の会誌に載せた講座「プラズマの基礎」は、プラズマを正負の電荷が自由に動く電気導体とみなせるとして、そのため内部の電場が0になり、プラズマ全体が決まった電位(プラズマ電位)を持つ、と述べています。同講座は、そこへ電位の異なる壁を接触させると壁の近くで電子とイオンの密度が食い違い、正味の空間電荷が残る領域が生じる、として、この領域をシースと呼んでいます。さらに、実用の上で影響するのは電子が欠乏してイオンが過剰になるイオンシースである、としています。
電子が減る理由は、速さの差です。東洋大学の岡本幸雄氏が同じ会誌に載せた講座「プロセスプラズマの基礎」は、プラズマの電子温度がイオン温度より高いため、軽くて速い電子によって固体表面の電位がプラズマに対して負になる、と述べています。同講座は、この電位がイオンを加速するとともに電子を減速または反射するため、空間電荷の層がイオンの過剰なイオンシースになる、としています。プラズマ内部の中性を保つように、負電荷の電流密度と正イオンの電流密度が釣り合う電界が、この層に立ちます。
ソニーの辰巳哲也氏が応用物理学会の会誌に載せた解説は、同じ様子を坂で表しています。プラズマが固体と接すると、高速で流入する電子に対しては上り坂、ゆっくり運動するイオンにとっては下り坂となる直流電界が、固体の表面へ自然に発生します。同解説は、シース電界によって正の電荷を持つイオンが基板に対して垂直に加速され、被加工材料の表面へ衝突して表層を加熱する、として、このイオンの垂直性とエネルギーを制御することでパターンマスクどおりに垂直へ加工する異方性加工が実現し、エネルギーに応じて変化する加工速度の材料間の差を使って選択比も制御できる、と述べています。
ドライエッチング装置は、シースを制御する装置です
Section titled “ドライエッチング装置は、シースを制御する装置です”辰巳氏の同じ解説は、ドライエッチング装置を4つの働きでまとめています。1つ目はプラズマを発生させて活性種やイオンを作ること、2つ目はシースを制御してイオンを加速し基板の表面へエネルギーを与えること、3つ目はFやBrなどの適切な活性種を材料と反応させて生成物を排気すること、4つ目が異方性と高い選択比の加工を実現することです。装置の役割としての記述です。
サムコのプラズマを技術に活かすも、プラズマドライエッチングについて、基板にイオンを衝突させてプラズマに含まれる物質との化学反応を促進させる化学的物理的なエッチング技術である、と述べています。イオンを当てる働きを担うのがシースです。この2つ目が崩れると、削れ方は横へも回ります。ドライエッチングやRIEで問われるアスペクト比は、この層の出来ばえに乗っています。
厚さは、電子温度と電子密度で決まります
Section titled “厚さは、電子温度と電子密度で決まります”岡本氏の講座は、イオンシースの厚さがデバイ長の数倍程度になるとして、Ar⁺の場合にデバイ長の3.5倍という値を挙げています。同講座は、シースの厚さが電子温度が高いほど、また電子密度が低いほど厚くなる、とも述べています。壁の電位についても、Ar⁺で電子温度の5.2倍、Cl⁺で5.1倍にあたる値を挙げています。
そのデバイ長の大きさは、中野氏の講座に例があります。電子温度1eV、電子密度1×10¹⁶/m³のとき、デバイ長は7.4×10⁻⁵mです。シースの厚さはその数倍ですから、桁としては0.1mmのあたりに落ちます。ウェーハの上のパターンが数nmから数十nmという寸法であることと比べると、イオンはパターンの寸法より4桁ほど長い距離を加速されてから飛び込んでくることになります。この桁の比較は、両者の値から当サイトで計算したものです。
現場で回すつまみは、バイアスと圧力と面積比です
Section titled “現場で回すつまみは、バイアスと圧力と面積比です”岡本氏の講座は、シースへ掛かる電圧の作られ方を示しています。基板がブロッキングコンデンサによってフローティングの状態にあるとき、電子電流とイオン電流が等しくなる電位で平衡し、基板の電位に負の直流成分が生じます。これがセルフバイアスです。同講座は、プラズマの電位とセルフバイアスの和がシースへ掛かり、この電圧で加速されたイオンの衝撃を基板が受ける、としています。
圧力も左右します。同講座は、高周波電力が一定のとき圧力の低下とともに電子温度が上がって密度が減るため、シースの厚さが増えて容量が減り、その結果シース電圧が圧力の減少とともに単調に増大する、と述べています。そして、これがエッチングの異方性とレートに密接に関係する、としています。圧力を1つ動かすと、密度も電子温度もシース電圧もいっしょに動きます。
電極の面積比も左右します。同講座は、両方の電極を流れるイオン電流密度が等しくシース中の衝突を無視できる場合、2つの電極に掛かる電圧の比が面積比の4乗になる、として、小さい電極である基板側に大きい電圧が掛かり、そのぶんイオンの衝撃を受ける、と述べています。
つまみを独立させるための工夫が2周波方式です。同講座は、プラズマ生成用の高周波電源(通常13.56MHz)とは別に、基板へバイアス専用の高周波電源(10MHz以下)を持たせてイオンシースを制御する方式が実用化されている、としています。アルバックもプラズマ発生方法のページで、2枚の電極基板それぞれに異なる高周波電源を備えたDual frequency CCPを、同社が採用する放電方式の1つとして挙げています。装置はRF電源・整合器を2系統持ち、片方でプラズマを、もう片方でシースを担当させる形になります。
何を測っているのかを確かめます
Section titled “何を測っているのかを確かめます”中野氏の講座は、プラズマへ電気的なプローブを挿し、印加する電圧とプローブを流れる電流の関係を調べると、電子密度・電子温度・プラズマ電位が得られる、と述べています。これがラングミュアプローブです。同講座は、絶縁体の壁をプラズマに接触させたときの表面電位を浮遊電位と呼び、そこでは壁へ流れ込む正味の電流が0になる、とも示しています。シースを見積もる材料は、この3つの量です。
ただし量産の装置では、そこへ手が届く場面が限られます。辰巳氏の解説は、こうした計測技術のほとんどが不純物の混入やプラズマの変動、異常放電といった安定性の課題やコストのために、量産設備での採用がごく一部にとどまる、として、実際に得られるのは加工の終点検出に使う発光分光分析と、電源からの高周波信号のピーク値であるVppなど限られた情報である、としています。2016年時点の記述です。現場でシースを推し量る代理の指標がVppになるのは、この事情によります。
エネルギーを上げるほど、下地へ届きます
Section titled “エネルギーを上げるほど、下地へ届きます”イオンを強く加速すれば、速く深く掘れます。差し出すものは下地です。辰巳氏の解説は、Si電極の加工でイオンのエネルギーが300eVだとすると、HBr/O₂プラズマ中で生成されたHイオンの侵入深さが10nm程度と計算される、と述べています。下地のゲート絶縁膜が1.4nmの場合、この侵入深さは膜厚よりずっと深い値です。同解説は、選択比が100以上得られて一見良好に加工できているように思えても、イオン侵入が原因の欠陥は基板の中に残る、としています。
残った傷は、後の工程で形になって出てきます。同解説は、ダメージを受けたゲート酸化膜の直下のSiが容易に酸化するため加工後の後処理洗浄で削れ、Siリセスと呼ばれる形状異常が発生する、と述べています。手当ても同じ解説にあり、イオンがゲート酸化膜を通り抜ける手前で止まる値までイオンのエネルギーを下げると、下地のSiに発生するダメージが抑えられる、という実験例を挙げています。同解説が示す例としての記述です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”シースとは何ですか?
プラズマと固体が接するところにできる、電子が減ってイオンが余る薄い層です。成蹊大学の中野武雄氏による日本真空学会の講座は、プラズマへ電位の異なる壁を接触させると壁の近くで電子とイオンの密度が食い違い、正味の空間電荷が残る領域が生じる、として、この領域をシースと呼んでいます。
シースはなぜできるのですか?
電子とイオンの速さの差が原因です。東洋大学の岡本幸雄氏による日本真空学会の講座は、プラズマの電子温度がイオン温度より高いため、軽くて速い電子によって固体表面の電位がプラズマに対して負になり、その電位がイオンを加速して電子を減速または反射する、と述べています。
シースは何の役に立ちますか?
イオンに垂直な向きを与えます。ソニーの辰巳哲也氏による応用物理学会の解説は、シース電界によってイオンが基板に対して垂直に加速され、この垂直性とエネルギーを制御することでパターンマスクどおりに垂直へ加工する異方性加工が実現する、と述べています。
シースの厚さはどのくらいですか?
岡本氏の講座は、イオンシースの厚さがデバイ長の数倍程度であるとして、Ar⁺の場合にデバイ長の3.5倍という値を挙げています。中野氏の講座は、電子温度1eV・電子密度1×10¹⁶/m³のときデバイ長が7.4×10⁻⁵mになる例を示しています。
シースの厚さは何で増えますか?
岡本氏の講座は、シースの厚さが電子温度が高いほど、また電子密度が低いほど厚くなる、としています。同講座は、高周波電力が一定のとき圧力の低下とともに電子温度が上がって密度が減るため、シースの厚さが増えてシース電圧が単調に増大する、とも述べています。
2周波方式とは何ですか?
プラズマを作る電源とイオンを加速する電源を分ける方式です。岡本氏の講座は、プラズマ生成用の高周波電源(通常13.56MHz)とは別に、基板へバイアス専用の高周波電源(10MHz以下)を持たせてイオンシースを制御する方式が実用化されている、としています。アルバックも、2枚の電極基板それぞれに異なる高周波電源を備えたDual frequency CCPを同社の採用する放電方式の1つに挙げています。
イオンのエネルギーを上げると何を差し出しますか?
下地へのダメージです。辰巳氏の解説は、イオンのエネルギーが300eVのときHBr/O₂プラズマ中のHイオンの侵入深さが10nm程度と計算され、下地のゲート絶縁膜が1.4nmであればこの侵入深さは膜厚よりずっと深い、として、選択比が100以上得られていてもイオン侵入が原因の欠陥は基板の中に残る、と述べています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- プラズマとは ── シースができる元になる、器の中身の側です
- RIE(反応性イオンエッチング)とは ── シースで加速したイオンと化学反応を重ねる方法です
- ドライエッチングとは ── シースの制御が形になって出てくる工程です
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- 日本真空学会「真空」57巻8号 中野武雄「講座 プラズマの基礎」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── プラズマ電位とシースが指す範囲、イオンシースが実用の上で影響すること、デバイ長7.4×10⁻⁵mの計算例、ラングミュアプローブで得られる量、浮遊電位
- 日本真空学会「真空」59巻7号 岡本幸雄「講座 プロセスプラズマの基礎」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 電子温度がイオン温度より高いことによる表面電位の形成、シース厚さがデバイ長の数倍でAr⁺は3.5倍であること、壁電位のAr⁺5.2倍とCl⁺5.1倍、電子温度と電子密度による厚さの向き、圧力低下でシース電圧が単調に増大すること、電極面積比の4乗則、セルフバイアス、2周波方式
- 応用物理学会「応用物理」85巻9号 辰巳哲也「解説 半導体デバイス加工におけるプラズマ制御技術」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 電子には上り坂でイオンには下り坂となるシース電界、イオンの垂直加速と異方性加工、ドライエッチング装置の4つの働き、300eVでのHイオン侵入深さ10nmとゲート絶縁膜1.4nm、Siリセス、イオンエネルギーを下げるダメージ抑制、量産設備での計測採用の限界とVpp
- アルバック「3. プラズマ発生方法」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 2枚の電極基板それぞれに異なる高周波電源を備えたDual frequency CCPを採用していること
- サムコ「半導体製造装置入門 プラズマを技術に活かす」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 基板にイオンを衝突させて化学反応を促進する化学的物理的なエッチング技術であること