イオン入射角分布とは
イオン入射角分布とは、ウェーハへ飛び込むイオンの進行方向が垂直からどれだけ傾いているかの分布です。 シースで加速されるのは基板に垂直な向きだけなので、横向きの速さはそのまま持ち込まれます。その残りが、孔の深さと競う量になります。
なぜ数度の傾きが響くのでしょうか。アスペクト比40の孔で孔底まで抜ける傾きは、当サイトの計算で約1.4度です。実際の拡がり4度と比べると、外側の成分は途中の側壁へ当たります。プロセス担当が動かせるのはバイアスと圧力と密度の3つで、そのどれも角度と速さを反対向きに引きます。
名古屋大学の石川健治氏と名城大学の竹田圭吾氏がプラズマ・核融合学会誌に載せた解説は、孔の入り口に到達するイオンが、シース突入時の基板平行方向にはそのときの熱速度を初速として分散を持ち、基板垂直方向に加速されてシースを通過する、としています。そして、シース厚にして1mm以下で数kVに加速されているイオンでも入射角度分布は4度程度に拡がってしまう、として、孔底に集中して輸送できる新たな手段の開発が望まれる、と述べています。2021年時点の見積もりです。
この4度が競う相手は孔の見通し角です。キオクシアの大村光広氏らが同じ小特集に載せた解説は、3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比が既に40を超えており、さらなる大容量化ではアスペクト比が100を超えると予想される、としています。深さと径の比が40の孔なら、開口の一方の縁から入って反対側の縁で孔底に届く傾きは逆正接で約1.4度です。この角は当サイトで計算した値です。4度の拡がりのうち、孔底までまっすぐ抜ける成分はその内側の一部にとどまります。
つまみは、バイアスと圧力と密度が絡み合います
Section titled “つまみは、バイアスと圧力と密度が絡み合います”大村氏らの同じ解説は、容量結合型のエッチングプラズマが通常数Pa程度の圧力下で2種類以上の異なる周波数のRF電源から数kWから数10kWの高パワーを印加して形成される、として、おもに低い周波数側のRFパワーでシースへ高い電圧を立て、ウェーハへ高エネルギーのイオンを入れており、その最大エネルギーは数1000eV以上と見ている、としています。同解説は、イオンの温度をガスの温度と同じ程度に見積もると入射イオンの角度の散らばりはごく狭くなり、アスペクト比の高い部分までイオンが届いて穴底の加工が進む、と述べています。
同じつまみが逆向きにも働きます。同解説は、シースへ高い電圧をかけるとシースが厚くなり、イオンが中性粒子とぶつかる回数が増えて入射角の散らばりが広がる場合もある、として、プラズマ密度の制御も併せて考える必要がある、としています。バイアス電力を上げれば加速のぶんは縦へ働きますが、シースが厚くなると横へ蹴られる回数が増えます。厚さを縮めるには密度を上げることになり、密度を上げれば解離が進んでエッチング選択比の側が動きます。
圧力も同じ列にあります。名古屋大学の関根誠氏が同誌に載せた解説は、1Torrから数百mTorrであったガス圧力を下げて表面を衝撃するイオンの方向性を良くすると同時に、プラズマ密度を高めることで高速の加工を目指した、としています。1980年代中頃の枚葉化の局面での記述です。圧力を下げれば角度はそろい、密度で補うぶんが要ります。
何を測って判断するのか
Section titled “何を測って判断するのか”角度分布そのものを量産装置で測る道は、ごく限られます。ソニーの辰巳哲也氏が同誌に載せた解説は、イオンのエネルギーがプラズマ電位・シース厚さ・RF電界の周波数・イオンの質量に応じて変化するバイモーダル分布を持つ、として、イオンエネルギー分布を直接測るには基板電極内へイオンエネルギーアナライザーを組み込む、としています。同解説は、量産設備で実際に応用されている機器が少なく、観測窓の外の光ファイバによる簡易的なOESと基板のRF供給系の一部分の電位、基板電極の温度など極めて限られた範囲に留まる、とも述べています。2007年時点の記述です。
そこで現場は形から逆算します。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏と伊澤勝氏が同じ小特集に載せた解説は、Ar/C₅F₈/O₂の混合ガスを使い、ボーイングが出た高さでの寸法のずれから孔の間口での寸法のずれを引いた差をボーイング量として測り、ボーイング発生位置のアスペクト比がホール径に依らず約4でほぼ一定である、としています。同解説は、側壁堆積膜が途切れる位置のアスペクト比も約3でほぼ一定であった、として、マスクの肩やネック部で跳ね返ったりチャージアップで向きを変えたイオンが散乱し、それが側壁を削り進める、と述べています。手当ても同解説にあり、ホール中間部の堆積に寄与するCF₂ラジカルフラックスを増やすためのAr流量の最適化と、ホール上部に付きやすいCラジカルの付着係数を下げるための電極温度の高温化を組み合わせ、ホールのトップ寸法を維持したままボーイング量を56.3nmから15.2nmへ低減できた、としています。
深い側にも目印があります。大村氏らの解説は、エッチング時間を50秒から700秒まで伸ばした断面観察で、ストライエーション下端のアスペクト比がどの時間でも約23になっている、としています。同解説はここでのアスペクト比を、カーボンマスク膜厚とエッチング深さの和をカーボンマスクのネック部寸法で割った値として取っています。そして、垂直から85度という角度で800eVのArイオンビームをSiO₂・Si₃N₄・フルオロカーボンのブランケット膜へ照射する実験を行い、フルオロカーボン膜では照射後に鮮明なストライエーションが観測されてその方向がArイオンビームの入射方向と平行であった、と述べています。斜めに当たるイオンが周期的な凹凸を作る、という筋です。
斜めに当たる粒子の正体も同解説にあります。同解説は、ストライエーションが観測されたような高アスペクト領域では等方的なラジカルのフラックスが減少し、イオンやホットニュートラル、すなわちイオンがホール側面に入射して電荷を失うことで生成される高速粒子といった高エネルギー粒子が反応を支配していると予想される、としています。同解説は、ストライエーションが観測されたホール上部のフルオロカーボン膜の膜厚が約3nmで、側壁が平滑であったより深い領域よりも厚かった、とも述べています。同社の測定です。
同解説が挙げる高アスペクトホールエッチングの課題には、マスク選択比の不足、間口寸法が縮むネッキング、間口の閉塞を指すクロッギング、ホール下部のテーパ形状、下地選択比の不足に加えて、プラズマシースの傾きに起因したエッチング形状の傾き、すなわちチルティングと、アスペクト比に依存したエッチングレートの低下であるRIE-lagが並びます。角度の幅は孔の中だけの話に収まらず、シースそのものの傾きとしてウェーハ面内へも出ます。
電子の側は、向きがばらつきます
Section titled “電子の側は、向きがばらつきます”角度の幅は、電子の側にも相手があります。SEAJの半導体製造装置用語集は、電子シェーディング効果を、イオンが試料へ垂直に入るのに対して電子はあらゆる向きから飛び込むため、レジストのパターンが陰を作る狭いスペースの底へ届く電子の量が減る現象、としています。同用語集は、パターンの無い場合と比べるとレジストの側壁が負に、アスペクト比の高いパターンの底が正に帯電する、として、そうして溜まった荷電粒子でゲート絶縁膜が静電破壊に至ることを電子シェーディングダメージと呼んでいます。イオンの角度がそろうほど、電子とのそろい方の差が孔の中で電位差として積み上がります。
石川氏らの解説も同じ側へ触れています。同解説は、絶縁物の高アスペクト比孔加工では孔内部が電気的に絶縁されており、正イオンが照射された孔内表面で電荷的な中和が進むかどうかが電荷蓄積の均衡を左右する、として、蓄積が不均衡に進むとシース加速されたイオンのエネルギーは加工面に到達するまでにその電位分を減速してしまう、と述べています。同解説は、近年は高周波電源の技術開発の発展により被加工基板に印加するバイアス電圧が年々増大しており、このイオンエネルギーの低下を補っている、ともしています。バイアスを上げる動機は、角度と電荷の両方から来ています。
角度を動かすと、面が荒れます
Section titled “角度を動かすと、面が荒れます”京都大学の斧高一氏らが同誌に載せた解説は、Cl₂プラズマによるSiエッチングの3次元シミュレーションで、基板表面に対するイオン入射角度に依存して表面ラフネスの様相が異なる、としています。同解説によれば、0度の垂直入射ではランダムな凹凸が発達し、45度の斜め入射では5秒あたりからイオン入射に直交する方向へ伸長する凸構造が立ち上がって時間とともに波状の周期構造になり、75度ではより早い1秒あたりからイオン入射に平行な方向へ伸長する細かい構造が立ち上がります。同解説は、0度が平坦基板の表面や微細パターンの上面・底面に、45度や75度がパターン側壁表面の状況に対応する、としています。Cl⁺の入射エネルギーを100eVとした計算条件です。同解説は、二乗平均ラフネスが5秒ほどの誘導時間の後に発達し、0度では20秒、45度では60秒でほぼ定常になる一方、75度の斜入射では120秒以降もまだ増大する、としています。角度が寝るほど、荒れは長い時間かけて育ちます。
その大きさも同解説にあります。45度・100eVの条件で、リップルの波長は約13nm、振幅は約6.5nmのpeak-to-peakで、リップルは約5.2nm/sの速さでイオン入射方向へ進行し、これはエッチング速度の260nm/min、すなわち約4.3nm/sよりやや速い、としています。ラインエッジラフネスとして測っている量の一部は、この斜入射が作る周期構造です。
同解説にはもう1つ重い一文があります。同解説は、こうしたラフネスやリップル構造がイオン入射角度分布に依存する一方で、イオン入射エネルギー分布への依存はほとんど無い、としています。エネルギーの幅を詰めても側壁の荒れは動かず、動かすのは角度の幅の側になります。ドライエッチングの条件出しで側壁の荒れが残るときは、エネルギーの単色化より先に角度の勘定へ戻る筋道です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”イオン入射角分布とは何ですか?
ウェーハへ飛び込むイオンの進行方向が、垂直からどれだけ傾いているかの分布です。シースで加速されるのは基板に垂直な向きだけなので、シースへ入るときに持っていた横向きの速さがそのまま残り、分布に幅が生まれます。
拡がりはどのくらいですか?
名古屋大学の石川健治氏と名城大学の竹田圭吾氏の解説は、シース厚にして1mm以下で数kVに加速されているイオンでも入射角度分布は4度程度に拡がってしまう、としています。2021年時点の見積もりです。
その4度は何と競うのですか?
孔の見通し角です。キオクシアの大村光広氏らの解説は、3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比が既に40を超え、さらなる大容量化では100を超えると予想される、としています。深さと径の比が40なら、開口の縁から入って反対側の縁で孔底に届く傾きは逆正接で約1.4度になります。この角は当サイトで計算した値です。
角度分布が広いと現場で何が起きますか?
側壁が削れます。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏と伊澤勝氏の解説は、マスクの肩やネック部で跳ね返ったりチャージアップで向きを変えたイオンが散乱し、それが側壁を削り進める、として、ボーイング発生位置のアスペクト比がホール径に依らず約4でほぼ一定であった、としています。
角度をそろえるつまみは何ですか?
バイアス電圧と圧力とプラズマ密度です。大村氏らの解説は、イオンの温度をガスの温度と同じ程度に見積もると入射角の散らばりはごく狭くなる、としつつ、シースへ高い電圧をかけるとシースが厚くなってイオンが中性粒子とぶつかる回数が増え、散らばりが広がる場合もあるため、プラズマ密度の制御も併せて考える、としています。
量産では角度分布を測れますか?
直接測る道はごく限られます。ソニーの辰巳哲也氏の解説は、量産設備で実際に応用されている機器が少なく、簡易的なOESと基板のRF供給系の一部分の電位、基板電極の温度など極めて限られた範囲に留まる、としています。2007年時点の記述です。現場はボーイングやストライエーションが出る位置のアスペクト比から逆算します。
イオンエネルギー分布との違いは何ですか?
作用する先が異なります。京都大学の斧高一氏らの解説は、表面ラフネスやリップル構造がイオン入射角度分布に依存する一方で、イオン入射エネルギー分布への依存はほとんど無い、としています。エネルギーの幅を詰めても側壁の荒れは動かず、動かすのは角度の幅の側になります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- イオンエネルギーとは ── エネルギーの幅を持つ側で、荒れへの作用が異なります
- シースとは ── 角度の幅が決まる場所そのものです
- エッチング選択比とは ── 密度と解離を動かしたときに一緒に動く側です
- アスペクト比とは ── 4度が競う相手を与える寸法です
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- プラズマ・核融合学会誌 97巻9号 石川健治・竹田圭吾「6. おわりに」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── シース突入時の基板平行方向の熱速度が初速として残ること、シース厚1mm以下で数kVに加速されても入射角度分布が4度程度に拡がること、絶縁物の高アスペクト比孔での電荷蓄積とイオンエネルギーの減速、バイアス電圧の増大でそれを補っていること
- プラズマ・核融合学会誌 97巻9号 大村光広ほか「5. 反応性プラズマを用いた高アスペクトホールエッチングプロセス」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── メモリホールのアスペクト比が40を超え100超が予想されること、数Pa・数kWから数10kWの容量結合型と最大数1000eV以上のイオン、イオン温度がガス温度付近なら角度分散が狭くなること、シース厚の増加と衝突頻度による分散のブロード化、ストライエーション下端のアスペクト比約23、垂直から85度・800eVのArイオンビーム照射実験
- プラズマ・核融合学会誌 90巻7号 斧高一ほか「5. プラズマエッチングにおけるナノスケール表面形状揺らぎ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── イオン入射角度0度・45度・75度でのラフネスとリップルの差、45度と75度がパターン側壁に対応すること、Cl⁺100eVでの波長約13nmと振幅約6.5nm、リップル進行速度5.2nm/sとエッチング速度260nm/min、ラフネスがイオン入射角度分布に依存しイオン入射エネルギー分布への依存がほとんど無いこと
- プラズマ・核融合学会誌 83巻4号 根岸伸幸・伊澤勝「4. フルオロカーボンプラズマのエッチングメカニズム」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ボーイング量の取り方とボーイング発生位置のアスペクト比約4、側壁堆積膜が途切れる位置のアスペクト比約3、マスクファセット部やネッキング部で散乱されたイオンによる側壁エッチング、Ar流量と電極温度の最適化によるボーイング量56.3nmから15.2nmへの低減
- プラズマ・核融合学会誌 83巻4号 関根誠「2. プラズマエッチング装置技術開発の経緯、課題と展望」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 1Torrから数百mTorrであったガス圧力を下げてイオンの方向性を良くしつつプラズマ密度を高めた経緯
- プラズマ・核融合学会誌 83巻4号 辰巳哲也「3. フルオロカーボンプラズマのモニタリング」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── イオンエネルギーがプラズマ電位・シース厚さ・周波数・イオン質量で変化するバイモーダル分布であること、イオンエネルギーアナライザーによる実測、量産設備で使える計測が簡易的なOESとRF供給系の電位、電極温度に留まること
- SEAJ「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 電子シェーディング効果の中身とレジスト側壁が負・高アスペクト比パターン底部が正にチャージアップすること、電子シェーディングダメージ