流動性CVDとは
流動性CVDとは、流れる性質を持つ膜をCVDで作り、その流れで狭い隙間を底から埋める成膜のやり方です。 積む向きを手放すかわりに、固まったあとに残る応力と、下流の工程の作り直しを引き受けます。
CVDで溝を埋めるとき、最初に戦う相手は幾何です。原料は気相から来るので、溝の入口の角にいちばん多く着きます。角が育つほど開口は狭まり、狭まった開口は奥への供給をさらに絞ります。JEITAが公開するITRS 2013年版配線章の日本語版は、この詰まりをピンチオフと呼び、コンタクトホール上部でのピンチオフがタングステンの埋め込みを困難にしていること、ALDのTi/TiNを使うとそれを解消できてタングステンの埋め込み性能の向上が期待できることを記しています。開口が閉じきれば、中に残った空間はボイドになります。
流動性CVDは、この順番を入れ替えます。膜のほうに流れる性質を持たせておき、溝の中で下へ降りてから形が決まるようにします。同資料は、CVDをベースにしたギャップフィル技術への関心を新たにするものとして、炭素フリーの流動しやすいCVD膜が提案されていると述べています。同資料はまた、三次元に積んだNANDフラッシュではメモリセル領域と周辺回路領域のあいだに大きな段差ができ、その表面をボイドなく絶縁膜で埋めてから各ゲート電極へコンタクトホールを開ける必要があるため、通常のCVDよりはるかにギャップ埋め込み性のよい塗布絶縁膜(SOD)が必須になるとしています。
流すという発想そのものには歴史があります。同資料は、CMPが入る前の絶縁膜の平坦化手段として、ウェーハにRFバイアスをかけながら成膜するバイアスCVD法、TEOSとO3のような流動性を持つ熱CVD法、スピン塗布のSOG法を並べています。金属側でも、アルミを成膜したあとに加熱して流す方法が使われていました。流動性は、平坦化のための古い道具が、埋め込みのための道具として戻ってきたものです。
埋め残しは、その先の工程を止めます
Section titled “埋め残しは、その先の工程を止めます”STIは、埋め残しが後続の工程に及ぶ順を追いやすい例です。SEAJの半導体製造装置技術ロードマップ「ウェーハプロセス」2012年版は、STIの形成を、初期酸化、LPCVD窒化膜、リソグラフィ、エッチング、熱酸化、ギャップフィルCVD酸化膜、CMP、アニール、窒化膜除去の順に並べ、狭いギャップをボイドフリーで埋めるCVDと塗布絶縁膜のプロセスと装置の開発をSTI形成の技術課題として挙げています。同資料は、バルク基板のSTI深さが2011年に335nm、2014年に316nmと求められるとしたうえで、フラッシュメモリでは微細化に伴ってアスペクト比が増大の一途をたどり、2011年のNANDで要求される22nm世代には解決策があるものの、2014年のNANDで要求される17nm世代以降はギャップフィル法の提案までにとどまり、具体的な解決策は未定のままとしています。ここに挙げた年と世代は、いずれも同資料の2012年版時点の見通しです。ITRS 2011年版フロントエンドプロセス章の日本語版も、フラッシュメモリでワード線方向の微細化を続けるとトレンチ深さを保った場合のアスペクト比が上がり、STI酸化膜の埋め込みが課題になるとしています。
埋まったかどうかは断面で測ります。ITRS 2013年版配線章の日本語版は、既に確立した長距離PVD、イオン化PVD、CVDが、DRAMの高アスペクトコンタクトをキーホールなしでタングステンで埋めるために継続的に改良されるとし、タングステンをCVDで埋めたTSVでは中心部のシーム状ボイドが断面の特徴になるとしています。断面観察で入口の残り幅と中心の縫い目を測ることが、合否判定そのものになります。
現場が動かすつまみは三つあります
Section titled “現場が動かすつまみは三つあります”一つ目は、埋め方そのものです。日本半導体歴史館は、0.35μm世代以降の深い溝のために高密度プラズマの装置が要るようになり、微細化した溝の埋め込みのために高密度プラズマとバイアス電圧を応用したCVD装置が提案され、1995年にラムリサーチがECR方式のCVDを発売するなど各社が応用を試みたと記しています。同館は、バイアス電圧によるスパッタエッチ効果を使った埋め込みCVDが、山型の独特な堆積形状による埋め込み特性で従来のリフロー式CVDを凌駕し、広く使われたとしています。積みながら削る側へ振れば緻密な膜で開口を保てるかわりに、同館が記すように高密度プラズマCVDは高真空を要し、大型で高負荷に耐えるターボ分子ポンプの開発を促しました。流す側へ振れば装置の負担は軽くなるかわりに、後述の応力が回ってきます。
二つ目は、埋める前の溝の形です。ITRS 2013年版配線章の日本語版は、ドライエッチングの形状制御について、一般には垂直な加工形状が望まれる一方で、次工程での微細パターンへのメタル埋め込み性能を考えるとテーパ形状やボーイング形状への調整が要り、この二つが相反する要求になると述べています。垂直へ寄せれば寸法の要求に近づき、テーパへ寄せれば埋め込み性能に近づきます。ITRS 2011年版フロントエンドプロセス章は、STIのトレンチ先端のコーナーが分離用酸化膜の堆積前の熱酸化で丸められること、この曲率半径が増えると寄生トランジスタのしきい値電圧が上がってId/Vg特性のこぶが小さくなること、一方で新しいプロセスが入るまでは素子のスケーリングが曲率半径を減らす方向へ働くことを記しています。
三つ目は、温度です。KOKUSAI ELECTRICは、デバイスの微細化と複雑化に伴って低温での成膜需要が高まっており、成膜後にプラズマや熱を加えて膜中の不純物を取り除き粒子を安定させるトリートメント技術が、低温環境で膜質を改善する手として需要を伸ばしていると公表しています。同社は、反応種を豊富に供給するプロセスによって200層以上の深孔を持つ3D-NANDでもステップカバレッジに優れたトリートメントを提供し、主要メモリメーカーに採用されているとしています。同社の公表内容です。低温側へ振れば熱予算を守れるかわりに、膜質を後から整える工程が付いてきます。サムコも、プラズマを使うCVDは熱や光と違って比較的低温で細い溝の中へ成膜できるとし、対象の膜厚を10nmから1000nm程度と記しています。
取引は、応力と下流の工程で払います
Section titled “取引は、応力と下流の工程で払います”ITRS 2011年版フロントエンドプロセス章の日本語版は、埋め込み酸化膜をHDPからHARPへ替えたときのように、インテグレーションの方法を変えるとSTIのCMPに大きな影響が出ると記しています。断面形状も段差も酸化膜表面の実効パターン密度も変わり、特に間隔の狭いパターン領域で影響が大きいため、STI CMPプロセスの調整や再開発が必要になったとしています。埋め方を替える判断は、そのまま研磨レシピを作り直す判断になります。
応力も付いてきます。SEAJの2012年版は、埋め込み酸化膜の形成では埋め込み性能と並んで応力の制御がプロセス上の大きな課題になるとし、応力起因の結晶欠陥への配慮が従来以上に要ること、歪みを使ってトランジスタ性能を上げる方向とSTIの応力がどう干渉するかがデバイス開発と密接に関わることを挙げています。同資料がギャップフィルの別解としてスピンオン法を挙げた理由も、低ストレス性でした。合否は断面に出ますが、代金は応力と下流の工程で払います。
塗布側にも条件が付きます。ITRS 2013年版配線章の日本語版は、SODにCMPによる平坦化への耐性が要るとし、通常とは異なる比較的大面積の部分を埋めるための塗布条件が検討されていると記しています。
溝の深さそのものを下げる選択も並びます。SEAJの2012年版は、完全空乏型SOI基板ではSTIの深さがSi薄膜の厚さと同じでよく、バルク基板と比べて1桁以上浅くて済むため、アスペクト比も0.6程度になるとしています。同資料の2012年版の記述です。埋め方を磨く道の隣に、埋める仕事そのものを軽くする道があります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”流動性CVDとは何ですか?
流れる性質を持つ膜をCVDで作り、その流れで狭い隙間を底から埋める成膜のやり方です。気相から積み上げる方式と比べると、膜が動く順番が逆になります。JEITAが公開するITRS 2013年版配線章の日本語版は、CVDをベースにしたギャップフィル技術への関心を新たにするものとして、炭素フリーの流動しやすいCVD膜が提案されていると記しています。
普通のCVDで狭い溝が埋まりにくいのはなぜですか?
原料が気相から来るため、溝の入口の角にいちばん多く着き、角が育つほど開口が狭まるからです。同資料は、コンタクトホール上部でのピンチオフがタングステンの埋め込みを困難にしていること、ALDのTi/TiNを使うとそのピンチオフを解消できることを記しています。開口が閉じきると、中に残った空間がボイドになります。
流動性CVDと塗布絶縁膜(SOD)はどう違いますか?
膜を入れる手段が違います。同資料は、三次元に積んだNANDフラッシュでできる大きな段差をボイドなく埋めるには、通常のCVDよりはるかにギャップ埋め込み性のよい塗布絶縁膜が必須になるとし、その塗布絶縁膜にはCMPによる平坦化への耐性が要るとしています。そのうえで、CVDベースのギャップフィルへの関心を新たにする流動しやすいCVD膜が提案されているとしています。
高密度プラズマのCVDとどちらが先に広まりましたか?
日本半導体歴史館は、微細化した溝の埋め込みのために高密度プラズマとバイアス電圧を応用したCVD装置が提案され、1995年にラムリサーチがECR方式のCVDを発売するなど各社が応用を試みたと記しています。同館は、バイアス電圧によるスパッタエッチ効果を使った埋め込みCVDが、山型の独特な堆積形状による埋め込み特性で従来のリフロー式CVDを凌駕し、広く使われたとしています。
埋め方を替えると何が動きますか?
下流の研磨が動きます。ITRS 2011年版フロントエンドプロセス章の日本語版は、埋め込み酸化膜をHDPからHARPへ替えたときのように、インテグレーションの方法を変えるとSTIのCMPに大きな影響が出るとし、断面形状も段差も酸化膜表面の実効パターン密度も差が出るため、STI CMPプロセスの調整や再開発が必要になったと記しています。
流動性を上げる代償は何ですか?
応力です。SEAJの半導体製造装置技術ロードマップ「ウェーハプロセス」2012年版は、埋め込み酸化膜の形成では埋め込み性能と並んで応力の制御がプロセス上の大きな課題になるとし、応力起因の結晶欠陥への配慮が従来以上に要ることを挙げています。同資料は、ギャップフィルの別の手として、低ストレス性を考えてスピンオン法が使われることもあると記しています。
埋まったかどうかはどこで合否判定をしますか?
断面を測ります。ITRS 2013年版配線章の日本語版は、既に確立した長距離PVD、イオン化PVD、CVDが、DRAMの高アスペクトコンタクトをキーホールなしでタングステンで埋めるために継続的に改良されるとし、タングステンをCVDで埋めたTSVでは中心部のシーム状ボイドが断面の特徴になるとしています。入口の残り幅と中心の縫い目が合否判定の対象になります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- コンフォーマリティとは ── 形に沿って積む度合いで、流動性CVDはそれを崩す側の手です
- ステップカバレッジとは ── 上面と側壁と底の膜厚比という測り方
- CVD(化学気相成長)とは ── 流動性CVDの母体になる成膜方式
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 電子情報技術産業協会(JEITA)半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS 2013年版 配線」日本語版(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 炭素フリーの流動しやすいCVD膜がCVDベースのギャップフィルへの関心を新たにしていること、三次元スタックNANDの段差をボイドなく埋めるために塗布絶縁膜が必須でCMP耐性が要ること、CMP以前の平坦化手段としてのバイアスCVD法とTEOSとO3のような流動性を持つ熱CVD法とSOG法、ALDのTi/TiNによるコンタクトホール上部のピンチオフ解消、キーホールなしのタングステン埋め込みとTSVの中心部シーム状ボイド、エッチング形状で垂直とテーパ・ボーイングが相反すること
- SEAJ 半導体製造装置技術ロードマップ「ウェーハプロセス」2012年版(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── STI形成の工程順とギャップフィルCVD酸化膜の位置、狭いギャップをボイドフリーで埋めるCVDと塗布絶縁膜が技術課題になっていること、低ストレス性を考えたスピンオン法、STI深さ335nm(2011年)と316nm(2014年)、NANDの22nm世代と17nm世代以降の見通し、埋め込み酸化膜の応力制御と応力起因の結晶欠陥、完全空乏型SOIでのSTI深さとアスペクト比0.6程度
- 電子情報技術産業協会(JEITA)半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS 2011年版 フロントエンドプロセス」日本語版(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── フラッシュメモリのワード線方向の微細化とSTIアスペクト比の増加、埋め込み酸化膜をHDPからHARPへ替えたときのSTI CMPへの影響とプロセスの調整・再開発、STIトレンチ先端コーナーの熱酸化による丸めと曲率半径がしきい値電圧とId/Vg特性のこぶへ与える影響
- 日本半導体歴史館(半導体産業人協会)「1990年代前半 HDPエッチ&CVD(ECR、ICP)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 0.35μm世代以降の深溝と高密度プラズマ、1995年のラムリサーチECR方式CVD発売、バイアス電圧のスパッタエッチ効果を使った埋め込みCVDが山型の堆積形状で従来のリフロー式CVDを凌駕したこと、高密度プラズマCVDが高真空と大型ターボポンプの開発を促したこと
- KOKUSAI ELECTRIC「KOKUSAI ELECTRICの強み」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 低温での成膜需要の高まりとトリートメント技術による低温での膜質改善、反応種を豊富に供給するプロセスによる200層以上の深孔を持つ3D-NANDでのステップカバレッジ、ステップカバレッジが段差被覆性とも呼ばれること
- サムコ「CVD装置とは」半導体製造装置入門(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── プラズマを使うCVDが熱や光と比べて比較的低温で細い溝の中へ成膜できること、対象の膜厚が10nmから1000nm程度に及ぶこと