ディッシング(CMP)とは
ディッシングとは、CMPで広い配線の中央が皿状にへこむ現象です。 埋め込んだ金属が周囲の絶縁膜より削れやすい場合に、配線の幅が広いほど深くなります。
ディッシングの原因は、研磨パッドが変形することにあります。東京エレクトロンの公式用語集は、CMPを、研磨パッドで覆われた回転テーブルへウェーハを押し当て、その間へスラリーを供給する方式として記述しています。押し当てる以上、パッドはウェーハ表面の形状に沿ってわずかに変形します。
変形が形状のずれへつながるのは、材料ごとに削れる速さが異なるときです。配線として埋め込んだ金属が周囲の絶縁膜より柔らかく削れやすい場合、金属が露出している領域でパッドが沈み込みます。配線の幅が狭ければ、両側の硬い絶縁膜がパッドを支えるため沈み込みは小さく収まります。幅が広いほど支えが遠くなり、中央が深くへこみます。
へこみは配線の断面積を減らします。断面積が減れば抵抗が上がり、その量が面内でばらつけば回路の遅延にもばらつきが出ます。さらに、へこんだ表面の上へ次の層を作れば、平坦化のやり直しが要ります。したがってディッシングは、CMPの条件だけでなくレイアウト設計とも合わせて抑えます。
どこまでが「ローカル」か ── 10μm の区切り
Section titled “どこまでが「ローカル」か ── 10μm の区切り”SEAJ(日本半導体製造装置協会)の半導体製造装置用語集は、平坦性の指標は段差緩和性(Step Height Reduction Ratio)で、研磨前後の段差の差を研磨前の段差で割った SHR(Step Height Ratio)という比で表すと記述しています。同用語集は、基準値以上の領域における平坦性をグローバル平坦性、基準値以下をローカル平坦性とし、領域の一般的な基準値を 10μm としています。ディッシングは、この 10μm より内側で起きる形状のずれであり、面内の傾きや反りとは別に、1本の配線の内側で起きる落ち込みです。
同用語集はまた、理想的な研磨面を越えて研磨され膜全体が薄くなる状態をシンニング、研磨で生じたウェーハ表面の傷をスクラッチと分けて記述しています。ディッシングの規格を守るために研磨量を絞り込むと、こんどは金属の残りとしてエロージョンやスクラッチの判定条件へ跳ね返るため、3つの規格を同時に満たす窓がプロセスウィンドウになります。
沈み込みを左右する2つ ── 選択比とパッドの硬さ
Section titled “沈み込みを左右する2つ ── 選択比とパッドの硬さ”同用語集は、選択比を、同一スラリーで異なる材料を研磨したときのレート比とし、材料AとBのレートをa、bとすればA基準で 1:b/a と書くと記述しています。金属側のレートが絶縁膜側より大きいほど、金属が露出した領域だけが先に落ち込みます。JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会によるITRS 2013 配線章の和訳は、タングステンのCMPについて、絶縁膜での低選択性スラリーの適用が平坦性改善の手段になると書いています。選択比を下げる方向が平坦性側へ働くという関係です。
もう一方の因子はパッドです。ニッタ・デュポンのIC1000™データシートは、50mil Type A6 の規格として厚み 1.17〜1.37mm、圧縮率 0.5〜4.0%、硬度 Shore-D 52〜62、密度 0.77〜0.83g/cm³ を公開しています。圧縮率が沈み込み量の素性で、硬度が支えの強さです。同社の研磨パッド製品一覧は、機能(課題)の絞り込みとして 8 項目(ウェーハ欠陥低減、ウェーハ端部平坦性、ウェーハ端部形状追従性、コスト低減、バッチ間安定性、低エロージョン、段差解消性、高研磨レート)を挙げており、項目数は当サイトで数えました。低エロージョンと段差解消性がパッドの選択項目として並ぶ理由は、パッドの変形量がそのまま局所の落ち込み量になるためです。CMPパッドを硬い側へ替える判断は、ディッシング対策の第一手になります。
表面保護剤 ── 凹部と凸部を選り分ける化学
Section titled “表面保護剤 ── 凹部と凸部を選り分ける化学”フジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説(トライボロジスト 第70巻 第5号、2025年、263〜270ページ)は、研磨における化学作用が時に凹部の過研磨を引き起こすとし、凸部を研磨している間に凹部も溶けてしまう点を挙げています。対策として、水溶性ポリマー、界面活性剤、防食剤といった表面保護剤の添加が有効だとし、これらの添加剤が界面へ吸着して凹部を薬液の攻撃から守り、凸部では砥粒やパッドの摩擦で剥離するため、砥粒の機械作用と薬液の化学作用が釣り合って進むと述べています。銅配線と層間絶縁膜の同時研磨のように、耐薬品性の異なる複数の材料を削る場面で要る機能です。
東亞合成のグループ研究年報 TREND 2025 第28号は、この選り分けを圧力の側から数字にしています。同号は、CMP後の膜平坦性を上げるには、研磨量に対して圧力が1乗より大きく影響する非プレストニアン性を示す添加剤が有効だとし、圧力応答性を高圧条件 6kg と低圧条件 1kg の研磨速度比として示しています。研磨条件は Engis製 EJ-380CH-Y、研磨盤回転数 60rpm、研磨時間 2min、パッド IC1000/SUBA400、対象は SiO2 膜と SiN 膜、ウェハサイズ 30mm×30mm、スラリーは高純度コロイダルシリカの一次粒径 80nm、シリカ 10wt%、ポリマー 0.05wt%、pH 11 です。分子量分布の狭いリビング重合品が圧力応答性で有利になった、というのが同号の実測です。
現場のつまみと、その両側
Section titled “現場のつまみと、その両側”選択比 を、金属側のレートを絶縁膜側より下げる方向、つまり1へ近づける方向へ動かすと、金属の落ち込みが浅くなります。差し出すのは金属除去のレートと、金属の残りに対するマージンです。上げる側では金属を速く落とせますが、ディッシングとリセスを差し出します。ITRS 2013 配線章の和訳は、リセスとエロージョンが同時に進んで膜厚の制御を失う状態が、多層の配線を使うロジックとメモリでいっそう重い課題になったと書いています。
研磨圧力 を下げると凸部と凹部の圧力差が小さくなり、パッドの沈み込みも減ります。差し出すのはレートとスループットです。上げるとレートは上がりますが、パッドの変形量が増えて広い配線の中央がさらに落ちます。森永氏の解説は、研磨中の加工面が摩擦熱で数十度加温されることが珍しくなく、活性化エネルギーが 51kJ/mol の反応であれば 10℃ の加温で化学作用が2倍程度促進されるとしており、圧力を上げた分の熱が化学側を強めて凹部の溶解も進めます。
表面保護剤の量 を増やすと凹部が守られ、段差緩和性と選択性が上がります。差し出すのはレートと、洗浄で落としにくい残留です。同解説は、保護剤の選定にあたり、膜へ吸着しやすいことと、洗浄で落としやすいことの両方を満たす必要があると述べています。減らすとレートと洗浄性は楽になりますが、凹部の過研磨を差し出します。
レイアウト側のダミーパターン は設計側の手です。広い配線の中へダミーの絶縁パターンを入れて実効的な幅を下げると、パッドの支えが近づいて中央の沈み込みが浅くなります。差し出すのは配線の実効断面積と、レイアウト設計の自由度です。ダマシン法で埋め込む幅そのものが、CMPの規格に合わせて決まります。
取引:抵抗と設計へ跳ね返ります
Section titled “取引:抵抗と設計へ跳ね返ります”ITRS 2013 配線章の和訳は、45nm 世代を境に配線系が回路全体の性能を左右する主要な要素になったとし、ローカル配線やインターミディエート配線では幅が数十ナノメートルの領域へ入り、寸法のわずかな変動が抵抗と容量の大きなばらつきへ拡大すると書いています。リソグラフィ、エッチング、CMPの製造ばらつきが合わさると、配線の幅、間隔、高さ、断面形状、バリアと銅の比率がそれぞれ振れるとも述べています。
同章はさらに、配線寄生素子のモデリングについて、断面を理想的な直角と仮定する代わりに、CMPのディッシングとエロージョンで付いたテーパーのある実形状を用いるべきだとしています。ディッシングは、CMPの工程内で完結する形状のずれを超えて、配線抵抗とRC遅延の抽出値へ入り込む量です。平坦さを買うために選択比とレートを差し出し、レートを買うためにディッシングを差し出す、という2方向の取引がCu-CMPの設計点を決めます。CMPスラリーの配合とパッドコンディショニングの頻度も、この設計点の一部です。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- CMP(平坦化)の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- 歩留まり・欠陥解析の工程ページ ── 欠陥と歩留まりの側の指標
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ディッシングとは何ですか?
CMPで広い配線の中央がへこむ現象です。埋め込んだ金属が周囲の絶縁膜より柔らかく削れやすい場合、配線の幅が広いほど中央でパッドが沈み込み、皿状にへこみます。
なぜ広い配線で起きるのですか?
研磨パッドがわずかに変形するためです。東京エレクトロンの公式用語集は、CMPが研磨パッドで覆われた回転テーブルへウェーハを押し当てる方式だと述べています。押し当てる以上パッドは変形し、柔らかい材料が広く露出している領域ではパッドが沈み込みます。幅が狭ければ両側の硬い絶縁膜がパッドを支えます。
ディッシングとエロージョンの違いは何ですか?
へこむ範囲が異なります。ディッシングは1本の広い配線の内側がへこみます。エロージョンは、細い配線が密集した領域が絶縁膜ごと全体的に低くなります。前者は配線幅、後者はパターン密度で決まります。
ディッシングが起きると何が困りますか?
配線の断面積が減って抵抗が上がります。設計値からのずれが面内でばらつくため、回路の遅延にもばらつきが出ます。さらに、その上へ次の層を作るときの平坦さも損なわれます。
どうやって抑えますか?
削る材料と下地の選択比を上げる方向でスラリーを選び、機械的な削りを抑えます。設計側では、広い配線の中へダミーの絶縁パターンを入れて実効的な幅を下げる手法が取られます。
ディッシングはどうやって測りますか?
断面観察や表面形状の計測で、周囲の絶縁膜面に対する配線中央のへこみ量を実測します。工程の管理では、この量を規格値として面内で監視します。
ローカル平坦性とグローバル平坦性の区切りはどこですか?
SEAJの半導体製造装置用語集は、平坦性を、段差緩和性(SHR:Step Height Ratio)という指標で表し、基準値以上の領域をグローバル平坦性、基準値以下をローカル平坦性とし、領域の一般的な基準値を10μmとしています。ディッシングは、この10μmより内側で起きる形状のずれです。
表面保護剤はディッシングをどう抑えますか?
フジミインコーポレーテッドの森永均氏の解説は、水溶性ポリマー、界面活性剤、防食剤といった表面保護剤が界面へ吸着して凹部を薬液の攻撃から守り、凸部では砥粒とパッドの摩擦で剥離するため、機械作用と化学作用が釣り合って進むと述べています。銅配線と層間絶縁膜の同時研磨のように、耐薬品性の異なる材料を1つのスラリーで削る場面で要る機能です。
圧力応答性とディッシングはどう関係しますか?
東亞合成のTREND 2025 第28号は、CMP後の膜平坦性を上げるには研磨量に対して圧力が1乗より大きく影響する非プレストニアン性の添加剤が有効だとしています。高圧条件6kgと低圧条件1kgの研磨速度比を圧力応答性として示しており、低圧の凹部で保護し高圧の凸部で削る形が、平坦性を押し上げます。
設計側ではディッシングをどう織り込みますか?
JEITAによるITRS 2013配線章の和訳は、配線寄生素子のモデリングで、断面を理想的な直角と仮定する代わりに、CMPのディッシングとエロージョンで付いたテーパーのある実形状を用いるべきだと述べています。45nm 世代を境に配線系が回路全体の性能を左右する主要な要素になったとも同章は書いています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- CMP:平坦化、欠陥、低k/新金属の判定項目 ── 工程としてのCMP
- CMPスラリー、パッド、コンディショナ ── 消耗品側の深掘り
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- 東京エレクトロン 公式用語集「CMP / Chemical Mechanical Polishing」(2026年8月22日にリンク生存を実測、200)── 回転テーブルへウェーハを押し当てる方式を裏づけます。
- SEAJ 半導体製造装置用語集「ウェーハプロセス」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SHR、グローバルとローカルを区切る 10μm、選択比 1:b/a、シンニングとスクラッチを裏づけます。
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS 2013 和訳 配線」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 低選択性スラリー、リセスとエロージョン、45nm ノード、数十ナノメートルの配線幅、テーパー形状のモデリングを裏づけます。
- フジミインコーポレーテッド 森永均「化学機械研磨(CMP)の原理と進化」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 凹部の過研磨、表面保護剤の吸着と剥離、51kJ/mol と 10℃ を裏づけます。
- 東亞合成グループ研究年報「TREND 2025 第28号 CMP用ポリマー添加剤の開発」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 非プレストニアン性、6kg と 1kg の圧力応答性、研磨条件を裏づけます。
- ニッタ・デュポン「研磨パッド製品一覧」と「IC1000™データシート」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 機能 8 項目と、厚み・圧縮率・硬度・密度の規格値を裏づけます。