ストレスマイグレーションとは
ストレスマイグレーションとは、電流ゼロの配線の中で、残った応力に押されて金属原子と空孔が動き、ボイドができて抵抗が上がり、やがて切れる現象です。
配線を作ったあと、その上に層間絶縁膜やパッシベーション膜を高温で付けます。キオクシアの信頼性ハンドブックは、この高温時の金属配線に応力が生じず、冷却後は金属配線と層間膜やパッシベーション膜とで熱膨張係数に開きがあり、その開きが金属の内側に応力を生むと書いています。この残留応力が、以降ずっと配線にかかり続けます。
ルネサスの信頼性ハンドブックは、配線上のパッシベーション膜が配線に引張応力を加え、これによりAl原子が移動してボイドが形成され、最終的に断線に至るとしています。ソニーセミコンダクタソリューションズの品質・信頼性ハンドブックは、同じことを空孔の側から書いていて、応力により配線金属中の欠陥がクリープ現象を起こして一箇所に集まり、ボイドを形成するとしています。
この現象は電流ゼロで進みます。ルネサスの節は、温度ストレスだけを与えた状態で金属原子が移動する現象、という書き出しになっています。ここがエレクトロマイグレーションと別々の条件になるところで、通電を止めたウェーハでも、棚で眠っているだけの製品でも進みます。
壊れ方は2通り出ます。ルネサスは、150〜200℃という中間的な温度での長期保存で発生するモードを低温長期モードと呼び、主にスリット状の断線になるとしたうえで、配線幅が細くなるほど起こりやすくなるとしています。もう一方は製造工程の熱処理時に出る高温短期モードで、こちらはくさび状のボイドになります。
温度を上げるほど、進み方が落ちる側があります
Section titled “温度を上げるほど、進み方が落ちる側があります”キオクシアは、この現象の進行速度を、応力成分と拡散成分の積の形で書いています。同社が示す式は R = C(T0 − T)^N exp(−Ea/kT) で、T0は配線生成温度または層間膜生成温度、Tは試験温度、Nは加速係数、Eaは活性化エネルギーです。試験温度がメタルを作った温度から離れて低いほど応力の成分が大きく、温度が高いほど拡散の成分が大きくなります。積なので、ある温度でピークの値を持ちます。
その温度は測られています。ソニーは、Al配線のストレスマイグレーションが一般に150〜200℃前後で発生率にピークを持つとし、Cu配線のビアのほうは200℃前後にピークがあるとしています。
そのため、加速の当て方が裏目に出ます。250℃や300℃へ振れば短時間で出るはず、という組み立てにすると、ピークの向こう側へ入って故障が出にくくなります。ルネサスが公開しているマイコン製品Aの信頼性試験結果の例では、高温放置の条件はTa=150℃、t=1,000hで、結果は22個中の故障0です(同社の1製品についての例です)。
活性化エネルギーも幅を持ちます。キオクシアは、125℃以下での見掛けの活性化エネルギーとして、Al-SiとAl-Cuで0.7eV、Al-Si-Cuで0.9eVを挙げています。同社の故障メカニズム別の一覧では、Al系配線のストレスマイグレーションは0.5〜1.4eVの幅で書かれていて、Siプロセスの世代と細かい構造ごとに別々の値が出ている、という注記が付いています。
JEITAが訳したITRS 2013年版の配線の章は、SM寿命予測の法則が現在まで未提案だとしています。エレクトロマイグレーションにBlackの式があるのに対して、こちらの外挿の式は空欄のままです。
現場で測るのは、ビアの下です
Section titled “現場で測るのは、ビアの下です”ソニーは、Cu配線のストレスマイグレーションについて、上下の配線間をつなぐビア部分にボイドが発生するSIVモードが信頼性の問題になるとしています。広い配線と細い配線を1本のビアでつなぐと、広い配線側の引張応力がビアに集中し、Cu配線中の欠陥がクリープ現象によりビア部分へ移動してボイドを生成する、という筋道です。同社は、この故障の出方がCu配線を作ったあとの高温アニールで生じる応力に強く左右されるとし、短い時間で出るぶん初期故障の原因になるとも書いています(Cu配線の項の記述です)。
キオクシアも、ビアが構造的に応力の集中する特異点となりやすく、周辺にボイドが成長しやすいとしています。同社は、Cu配線プロセスではグレインのサイズがAlより小さくなる傾向があるためストレスマイグレーションが発生しやすく、しかもビアへのバリアメタルの設置が構造的に困難なので、ビアで発生する分が問題視されていると書いています。
JEITAが訳したITRS 2013年版の配線の章も、大きな空孔リザーバがあるときに故障リスクが高くなるとして、広い幅の配線上のシングルビアや、広い幅の配線に鼻のように細い配線が突き出したテスト構造を例に挙げています。同章は、SMリスクが様々な種類のテストパターンを使った長時間の試験にかけられるとしています。寿命の式が空欄のままなので、パターンを何種類も作って時間で追いかける手だけが手元にあります。
測る量は抵抗です。キオクシアのTEG試験法の表は、多層配線のTEGについて、ストレスマイグレーションを高温放置・温度サイクル・リフローなどのストレスで測り、抵抗変化、故障率対時間、活性化エネルギーを取ると並べています。位置の特定には、ルネサスが挙げている電子ビームテスティングや、レーザ照射熱によるAl配線の抵抗変化・熱起電力の変化を検出する手法、つまりOBIRCHが使われます。断面を見に行く手順は故障解析の側です。
動かせるつまみと、その代償
Section titled “動かせるつまみと、その代償”ビアの本数は、応力の受け手の数です。 ソニーは、広い配線と細い配線をつなぐ部分を複数のビアで受ける方法を挙げ、1つのビアへ応力が集まってボイドが出ても、残りのビアの側は応力が緩んだままなので、配線間のオープン不良を防げるとしています。キオクシアも、大面積メタルとつなぐ箇所を複数のビアにすることでビアに集中する応力を緩和できると書いています。ビアを減らす側の代償は、素直に面積と配線資源です。
配線のボリュームは、ボイドの供給元です。 キオクシアは、ボイドの供給元である配線のボリューム、つまり配線幅や膜厚を必要な分にとどめることを対策として挙げています。太さは配線抵抗やビア抵抗、そしてエレクトロマイグレーションの電流密度も左右するので、細くしたい要求と太くしたい要求が同じ配線の上でぶつかります。
膜の側では、残る応力そのものを下げます。 キオクシアは、パッシベーション膜の低応力化、Cu配線と膨張係数の近い層間絶縁膜の適用、TiやTaなど高融点金属のバリアメタルの適用を挙げています。ソニーは、応力を緩める層間膜の構造と熱工程の作り込みで、配線に残る応力そのものを下げるという書き方をしています。キオクシアの式でいえば、配線や層間膜を作る温度T0を下げると (T0 − T) が縮み、応力成分が小さくなる向きに動きます。ここは熱バジェットと膜応力の側へ戻る話になります。
材料の側では、拡散の通り道を塞ぎます。 ルネサスは、バリアメタルの適用、Al配線へのCu添加による粒界拡散の抑制、ビアホールへのタングステンプラグの導入で耐性の向上を図ってきたとしています。ソニーは、Al配線の上下をTiやWのバリアメタルで積層した配線構造を挙げています。ただし、先に引いたとおりビアへのバリアの設置は構造的に困難です。手当ての届きにくい場所が、構造として居座ります。
エレクトロマイグレーションと、どこまで一緒に手当てが届きますか
Section titled “エレクトロマイグレーションと、どこまで一緒に手当てが届きますか”JEITAが訳したITRS 2013年版の配線の章は、どちらの駆動力が支配的かにかかわらず銅原子や空孔の拡散は起こりうる拡散パスで生じ、だいたい最も活性化エネルギーの低い拡散経路に沿って拡散するとしたうえで、エレクトロマイグレーションを改善するプロセス手法がSMリスクを減らすのに役立つだろうと書いています。IRDSも2024年版で、バリア金属がCuとの界面で空孔の拡散を抑え、許容できるエレクトロマイグレーション寿命を得る役割を担うとしています。手を打つ場所は重なります。
一方で、証明の側は別々の条件になります。エレクトロマイグレーションには電流密度と温度の影響を書いた式があり、ストレスマイグレーションの側は寿命予測の法則が空欄のままです。片方の加速試験が証明するのは、その片方の寿命だけです。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ストレスマイグレーションとは何ですか?
配線に残った応力に押されて金属原子と空孔が動き、ボイドができて抵抗が上がり、やがて断線に至る現象です。ルネサスの信頼性ハンドブックは、電流ゼロで温度ストレスだけの状態でも金属原子が移動する現象と記しています。
電流ゼロなのに、どうして原子が動くのですか?
冷えたときに応力が残るためです。キオクシアの信頼性ハンドブックは、層間絶縁膜などを作る高温の最中は金属配線に応力が生じず、冷却後に金属と絶縁膜の熱膨張係数の差で金属内に応力が発生し、この残留応力とその後に加えられる熱でボイドの生成と拡散が引き起こされると書いています。
どの温度で試験しますか?
進み方が最大になる温度の付近です。ソニーセミコンダクタソリューションズの品質・信頼性ハンドブックは、Al配線では一般に150〜200℃前後で発生率にピークを持ち、Cu配線のビアでは200℃前後にピークがあるとしています。ルネサスが公開しているマイコン製品の試験結果例では、高温放置の条件はTa=150℃、t=1,000hです。
温度を上げれば早く故障が出ますか?
途中から逆を向きます。キオクシアは進行速度を応力の成分と拡散の成分の積として示し、メタルを作った温度より試験温度が低いほど応力の成分が大きく、温度が高いほど拡散の成分が大きいため、結果としてある温度でピークの値を持つと書いています。ピークより高い温度へ振ると、故障は出にくくなります。
寿命はどう見積もりますか?
外挿の式そのものが未確立です。JEITAが訳したITRS 2013年版の配線の章は、SM寿命予測の法則が現在まで未提案だとし、リスクは様々な種類のテストパターンを使った長時間の試験にかけられるとしています。活性化エネルギーについてキオクシアは、125℃以下の見掛けの値としてAl-SiとAl-Cuで0.7eV、Al-Si-Cuで0.9eVを挙げ、故障メカニズム別の一覧ではAl系配線のストレスマイグレーションを0.5〜1.4eVの幅で示しています。
なぜビアの下に出るのですか?
応力が集まる場所だからです。ソニーは、広い配線と細い配線を1本のビアでつなぐと広い配線側の引張応力がビアに集中し、Cu配線中の欠陥がクリープ現象によりビア部分へ移動してボイドを生成するとしています。キオクシアは、ビアが構造的に応力の集中する特異点となりやすいうえ、ビアへのバリアメタルの設置が構造的に困難だと書いています。
設計側で打てる手はありますか?
ビアの本数と配線の太さです。ソニーは、広い配線と細い配線をつなぐ部分を複数のビアにすると、1つにボイドが発生してももう一方にかかる応力が緩和されてオープン不良を防げるとしています。キオクシアは、ボイドの供給元である配線幅や膜厚を必要な分にとどめることを対策に挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- エレクトロマイグレーションとは ── 電子が原子を押す側で、こちらは応力が空孔を押す側です
- ボイドとは ── ストレスマイグレーションが最後に残す形そのものです
- TDDB(経時絶縁破壊)とは ── 同じBEOLでも、絶縁膜の側の寿命を受け持ちます
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- キオクシア「信頼性ハンドブック」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 高温時には応力の発生がなく冷却後に熱膨張係数差で応力が発生すること、進行速度が応力成分と拡散成分の積であること、125℃以下の見掛けの活性化エネルギー0.7eVと0.9eV、故障メカニズム別一覧のAl系配線0.5〜1.4eV、Cuのグレインが小さくSMが発生しやすいこと、ビアへのバリアメタル設置が構造的に困難なこと、配線ボリュームと複数ビアによる対策、多層配線TEGの試験ストレスと測定パラメータ
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「半導体品質・信頼性ハンドブック 第3版」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 応力で欠陥がクリープして集まりボイドになる機構、発生温度にピークがあること、Al配線の150〜200℃前後とCuビアの200℃前後、Cu配線形成後の高温アニール依存と初期故障、広い配線と細い配線を1本のビアで受けたときの応力集中、複数ビアによる応力緩和、TiやWのバリアメタル積層と層間膜構造・熱工程の最適化
- ルネサス エレクトロニクス「信頼性ハンドブック Rev.2.50」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 電流ゼロの温度ストレスのみで金属原子が移動すること、パッシベーション膜による引張応力、150〜200℃の低温長期モードとスリット状の断線、配線幅が細いほど起こりやすいこと、高温短期モードのくさび状ボイド、バリアメタル・AlへのCu添加・タングステンプラグによる耐性向上、高温放置Ta=150℃・1,000hの試験結果例、電子ビームテスティングとレーザ照射熱による位置特定
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS 2013年版 配線 和訳」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 応力勾配下の空孔拡散でボイドが形成されること、SM寿命予測の法則が現在まで未提案にとどまること、大きな空孔リザーバと広い幅の配線上のシングルビアのリスク、様々なテストパターンによる長時間試験、拡散が最も活性化エネルギーの低い経路に沿うためEM改善手法がSMリスクの低減にも役立つこと
- IRDS「2024 More Moore」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── バリア金属がCuとの界面で空孔の拡散を抑え、許容できるエレクトロマイグレーション寿命を得る役割を担うこと