エレクトロマイグレーションとは
エレクトロマイグレーションとは、配線を流れる電子が金属原子を押し流し、原子が移動していく現象です。 原子が抜けた場所には空隙ができ、広がれば断線します。
金属配線の中では、電子が電界に引かれて流れています。その途中で金属原子に衝突すると、電子は原子へ運動量を渡します。1回の衝突が原子を動かす量はごくわずかです。
ところが電流密度が高くなると、衝突の回数が桁で増えます。押される向きは電子の流れる向きに揃っているため、原子は一方向へ少しずつ移動します。原子が出ていった場所には空隙が残り、それが成長して配線を横切った時点で断線します。逆に原子が集まった場所は盛り上がり、隣の配線へ触れれば短絡になります。
寿命の見積もりにはBlackの式が使われます。寿命は電流密度のべき乗に反比例し、温度に対しては指数的に短くなります。arXivで全文公開されている総説によれば、電流密度の指数には1から2の間の値が使われます。
この指数が実務を左右します。同総説は、平均電流で見積もれば足りるのか、電流の波形まで測る必要があるのかは、指数の値で決まると書いています。式の形が、何を測ればよいかまで決めています。
温度が桁を動かします
Section titled “温度が桁を動かします”エレクトロマイグレーションの見積もりで、まず寿命を動かすのは温度です。
ドレスデン工科大学が公開している設計者向けの解説は、アルミ配線について具体的な数字を示しています。動作温度を25℃から125℃へ上げると、最大許容電流密度は約90%下がるというものです。
100℃の違いで、流してよい電流が10分の1近くになります。だからチップの中で熱がこもる場所は、それだけで配線の設計条件が変わります。同じ配線でも、チップの中のどこを通るかで許される電流の上限が上下します。
配線の「描き方」が寿命を決めます
Section titled “配線の「描き方」が寿命を決めます”材料でも温度でもなく、配線をどう描くかで寿命が変わります。同じ解説が、描き方の影響を4つの角度から示しています。
角度。 90度の角は避けるべきだとされています。90度の曲がりでの電流密度は、135度のような鈍角に比べて著しく高くなります。同じ経路をつなぐにしても、直角に曲げるか斜めに曲げるかで寿命が変わります。
ビアの並べ方。 ビアを複数並べても、電流の散り方は偏ります。並べたビアのうち、電流のほとんどを運ぶのは一部です。数を増やしても、偏ったままなら1本に集中したときと同じ寿命になります。
長さ。 ある長さより短い配線は、この現象に耐えます。同解説はこれをBlech長と呼び、典型的には10〜100µm程度としています。原子が移動して片側に溜まると機械的な応力が生じ、それが逆向きの移動を起こして材料の流れを打ち消すためです。IRDSも2024年版で、このshort length effectが電流密度の設計ルールを支配しているとしています。
幅。 直感と逆の向きに動きます。同解説によれば、配線幅を材料の平均粒径より細くすると、電流密度が上がるにもかかわらずエレクトロマイグレーション耐性は上がります。細い配線では粒界が配線を横切る向きに並ぶ「バンブー構造」になり、電流の向きに沿った粒界拡散の通り道が断ち切られるためです。だから電源の配線では、細い線を多数敷いたメッシュが使われます。
微細化が条件を厳しくします
Section titled “微細化が条件を厳しくします”配線が細くなるほど、同じ電流でも電流密度は上がります。IRDSは2024年版で、寿命が配線の幅と高さの積を電流密度で割った量に比例するという幾何的なモデルを示し、この量が世代ごとにおよそ半減するとしています。
だから材料の側でも手が打たれています。同文書は、エレクトロマイグレーションの限界のためにMOLやM1などの層へCu以外の金属が入ってきていること、そしてバリアメタルが空孔の拡散を抑える役割を担っていることを挙げています。バリアは銅の拡散を抑えるとともに、EM寿命そのものも延ばしています。
imecはロジック技術ロードマップの公開記事で、金属ピッチ21nm世代のビア径が12〜14nmになりバリアとライナが場所を取ること、高い電流密度の要求からEM信頼性が課題になることを述べています。そのうえで、Ru・W・Moによるバリアレスのビアを組み合わせることで、Cu配線のバリアを2nmまで薄くしつつEM信頼性を維持する方針を示しています。
絶縁の寿命とは別の証明が要ります
Section titled “絶縁の寿命とは別の証明が要ります”新しい配線構造を採用するとき、エレクトロマイグレーションとTDDBは別々に示す必要があります。片方は導体側の寿命、もう片方は絶縁側の寿命だからです。
imecは公開技術記事で、金属ピッチ21nmのデュアルダマシン試験構造について両方を並べて報告しています。330℃・530時間ではエレクトロマイグレーション故障が観測されず、100℃でのTDDB故障時間は10年を超えました。
こうして2つが揃って、はじめて採用を判断できる材料になります。片方の試験が証明するのは、その片方の寿命だけです。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 信頼性の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- 配線・メタライゼーションの工程ページ ── 配線を作る側
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”エレクトロマイグレーションとは何ですか?
配線を流れる電子が金属原子を押し流し、原子が少しずつ移動していく現象です。原子が抜けた場所には空隙ができ、広がれば断線します。集まった場所は盛り上がり、隣の配線に触れれば短絡になります。
寿命はどう見積もりますか?
Blackの式が使われます。寿命は電流密度のべき乗に反比例し、温度に対しては指数的に短くなります。公開されている総説によれば、電流密度の指数は1から2の間の値が使われます。
温度はどのくらい寿命を縮めますか?
大きく縮めます。ドレスデン工科大学の公開教材は、アルミ配線について、動作温度を25℃から125℃へ上げると最大許容電流密度が約90%下がると述べています。
配線の形は関係しますか?
関係します。同教材は、90度の角は避けるべきであり、その部分の電流密度が135度のような鈍角に比べて著しく高くなると述べています。ビアを並べた場合も、電流のほとんどを一部のビアが運ぶことを指摘しています。
短い配線は安全ですか?
安全になる場合があります。同教材は、ある長さより短い配線がエレクトロマイグレーションに耐えるとして、その境目をBlech長と呼び、典型的には10〜100µm程度としています。機械的な応力が逆向きの移動を起こして材料の流れを打ち消すためです。
細くすると弱くなりますか?
逆になる場合があります。同教材は、配線幅を材料の平均粒径より細くすると、電流密度が上がるにもかかわらずエレクトロマイグレーション耐性が上がると述べています。粒界が配線を横切る向きに並ぶバンブー構造になるためです。
微細化でどうなりますか?
厳しくなります。IRDSは、寿命が配線の幅と高さの積を電流密度で割った量に比例し、世代ごとにおよそ半減するというモデルを示しています。そのためMOLやM1などにCuとは別の金属が入り、バリア金属が空孔の拡散を抑える役割を担っています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- TDDB(経時絶縁破壊)とは ── 絶縁側の寿命
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- ドレスデン工科大学 J. Lienig「Introduction to Electromigration-Aware Physical Design」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 25℃から125℃で最大許容電流密度が約90%下がること、90度の曲がりの電流密度が135度に比べて著しく高いこと、並べたビアでは電流のほとんどを一部が運ぶこと、Blech長(典型的に10〜100µm)より短い配線がこの現象に耐えること、平均粒径より細くするとバンブー構造になり耐性が上がること
- IRDS「2024 More Moore」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 寿命が幅と高さの積を電流密度で割った量に比例し世代ごとに半減すること、EM限界のためMOL・M1などへ非Cu材料が入ること、バリア金属が空孔拡散を抑える役割、short length effectが電流密度の設計ルールを支配していること
- 「Electromigration in integrated circuits」arXiv 総説、全文公開(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── Blackの式の一般形、電流密度指数が1から2であること、指数の値で平均電流と電流波形のどちらを測るべきかが決まること
- imec「A view on the logic technology roadmap」公開技術記事(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 金属ピッチ21nm世代のビア径12〜14nmとバリア/ライナの占有、高電流密度要求によるEM信頼性の課題、Ru・W・MoのバリアレスビアでCu線のバリアを2nmに薄くしつつEM信頼性を維持する方針
- imec「2 metal layer back-end-of-line for the 3nm technology node」公開技術記事(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 金属ピッチ21nmのデュアルダマシン試験構造で330℃・530時間のEM故障なし、100℃のTDDB故障時間10年超