TDDB(経時絶縁破壊)とは
TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown、経時絶縁破壊)とは、電圧をかけ続けた絶縁膜が、ある時間が経った時点で突然絶縁を失う現象です。 かけた瞬間は持ちこたえ、時間とともに壊れます。
絶縁膜には、それ以上かけると即座に壊れる電圧があります。ルネサス エレクトロニクスの信頼性ハンドブックは、良質な熱酸化膜の絶縁破壊強度が10MV/cm以上あるとしています。
ところが実際の故障は、その手前で起きます。同ハンドブックは続けて、実使用条件のより低い電界でも時間とともに酸化膜が壊れることが主要な故障要因であり、これがTDDBと呼ばれると記しています。10MV/cmを下回る電圧をかけ続けているうちに、ある日突然導通するわけです。
仕組みはパーコレーションモデルで表されます。電圧と熱のストレスがかかっているあいだ、膜の中では欠陥が生成され続けます。1つひとつは膜の中の点にとどまります。数が増えて上下をつなぐ通り道ができた瞬間、そこを大きな電流が流れます。「壊れるまでの時間」が本体であり、だから「経時」と呼ばれます。
同じ電圧をかけても、壊れる時間は素子ごとにばらつきます。膜の中のどこに欠陥ができるかが確率的だからです。したがってTDDBは、1個の寿命よりも故障時間の分布として測られます。設計で問うのは「壊れるか」よりも「決めた故障率のもとで10年もつか」です。
10年を測るには、10年かかります
Section titled “10年を測るには、10年かかります”ここに実務上の壁があります。10年もつことをそのまま確かめるには、10年の試験時間が要ります。
そこで加速します。動作条件よりずっと高い電圧と温度をかけて短時間で壊し、得られた点から動作条件まで線を引き延ばします。キオクシアの信頼性ハンドブックは、この定電界試験の実例を載せています。ゲート酸化膜8nm・125℃で加速したデータから、その製品の使用電界3.125MV/cmでは寿命が10年以上あると結論する形です。この10年は、この製品と条件に限った値です。
引き延ばした先が答えになる以上、どう引き延ばすかが結論そのものになります。
外挿の式は、4つが並び立っています
Section titled “外挿の式は、4つが並び立っています”キオクシアの信頼性ハンドブックは、TDDBの加速性モデルがいくつも提案されている一方で、定説の確立はこれからの段階にあるとしています。そのうえでE-model、1/E-model、VG-model、Power-Law modelの4つを挙げ、配線間のlow-k絶縁膜についてはさらに√E-modelが提案されているとしています。
どれを選ぶかで、予測寿命はどれだけ動くのでしょうか。オープンアクセスで公開されているlow-k膜のTDDB比較実験が、同じ測定データに両方のモデルを当てはめた結果を出しています。緻密なlow-k膜(k = 3.02)について、1MV/cmでの予測寿命はEモデルで5.12×10¹⁰秒、E^1/2モデルで1.36×10¹⁵秒でした。約2万7千倍の開きです。
しかも、式を選ぶ根拠は当てはまりの良さの外にあります。同じ表に載っている当てはめ誤差はEモデルが0.00229、E^1/2モデルが0.00225で、測定点への合い方はこの桁でほぼ並びます。正しい式を選ぶ手がかりは、データの外から持ち込む必要があります。同じ実験結果から、片方を選べば余裕十分、もう片方を選べば桁違いに余裕がある、という結論が両方とも成り立ってしまいます。
同論文は、低電界での予測寿命はEモデルよりE^1/2モデルのほうが楽観的になると記しています。IRDSも2023年版で、この分野の物理の解明は完全にはほど遠いとしています。
だからTDDBの寿命の数字は、外挿の条件とセットで意味を持ちます。 どのモデルでどの電界域から外挿したかまで揃って、はじめて比較できる値になります。
配線と配線の間へ
Section titled “配線と配線の間へ”TDDBは、ゲート絶縁膜に加えて配線と配線の間でも起きます。むしろ今、設計の余地を狭めているのは配線の間です。
IRDS 2023は、所与のlow-k膜に対してTDDBが隣り合う配線間の最小スペースの限界を決めていると述べています。どこまで詰められるかを決めているのが、速度でも面積でもなく絶縁の寿命だということです。
さらに同文書は、その帰結として誘電率のスケーリングが鈍化し、密ピッチ配線へのエアギャップ導入が迫られているとしています。Low-k材料で誘電率を下げようとすると、膜が薄くなり空孔が増え、絶縁としての余裕が減ります。その余裕がTDDBで測られる以上、材料で下げ続ける道には限界が来ます。エアギャップという構造の解が持ち出されるのは、この行き止まりの先です。
もっとも、最先端のピッチでも10年超の寿命が報告されています。imecは公開技術記事で、金属ピッチ21nmのデュアルダマシン試験構造について、100℃でのTDDB故障までの時間が10年超であり、あわせて330℃・530時間でエレクトロマイグレーション故障が観測されなかったと報告しています。いずれもimecの試験構造での結果です。
絶縁の寿命と導体の寿命は、別々に示す必要があります。TDDBが10年超でも、エレクトロマイグレーションは別の試験で確かめます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”TDDBとは何ですか?
絶縁膜に電圧をかけ続けると、ある時間が経った時点で突然絶縁が失われる現象です。電圧をかけた瞬間は絶縁が保たれ、時間とともに膜の中に欠陥が溜まり、それがつながった瞬間に導通します。
耐圧より低い電圧でも壊れるのですか?
壊れます。ルネサスの信頼性ハンドブックは、良質な熱酸化膜の絶縁破壊強度が10MV/cm以上あるとしたうえで、実使用条件のより低い電界でも時間とともに酸化膜が壊れることが主要な故障要因であり、これがTDDBと呼ばれると記しています。
どういう仕組みで壊れるのですか?
パーコレーションモデルで表されます。電圧と熱のストレスで膜の中に欠陥が生成され、増えていった欠陥が上下をつなぐ通り道を作った瞬間に大きな電流が流れます。1つひとつの欠陥は膜の中の点にとどまり、上下がつながった時点で絶縁が失われます。
どうやって10年もつと言えるのですか?
加速試験からの外挿です。実際の動作電圧で壊れるまでには10年を超える時間がかかるため、高い電圧と温度で短時間に壊し、そこから動作条件へ引き延ばします。
外挿の何が難しいのですか?
外挿の式が複数あることです。キオクシアの信頼性ハンドブックは、TDDBの加速性モデルがいくつも提案されている段階であり、定説の確立をこれからの課題としたうえで、E-model、1/E-model、VG-model、Power-Law modelの4つを挙げています。
どのモデルを選ぶかで、予測寿命はどのくらい動きますか?
桁で動きます。オープンアクセスの実験報告では、同じ測定データにほぼ同じ精度で当てはまるEモデルとE^1/2モデルが、1MV/cmでの予測寿命として5.12×10¹⁰秒と1.36×10¹⁵秒、約2万7千倍の開きのある値を出しています。
配線の間でも起きますか?
起きます。IRDSは、所与のlow-k膜に対してTDDBが隣り合う配線間の最小スペースの限界を決めており、そのために誘電率のスケーリングが鈍化し、密ピッチ配線へのエアギャップ導入が迫られていると述べています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- Low-k材料とは ── 同じ膜が絶縁と寄生容量の両方を担う関係
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- ルネサス エレクトロニクス「Semiconductor Reliability Handbook」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 良質な熱酸化膜の絶縁破壊強度10MV/cm以上、実使用条件のより低い電界でも時間とともに壊れることが主要故障要因でありTDDBと呼ばれること、パーコレーションモデル
- キオクシア「信頼性ハンドブック」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 加速性モデルの定説確立がこれからの段階にあること、E-model/1/E-model/VG-model/Power-Law modelの4つ、配線間low-kへの√E-model、ゲート酸化膜8nm・125℃・使用電界3.125MV/cmで寿命10年以上とする定電界試験の実例
- 「Comparison of TDDB models for dense and porous low-k films」Micromachines、オープンアクセス(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 緻密low-k(k = 3.02 ± 0.05)で1MV/cmの予測寿命がEモデル5.12×10¹⁰秒・E^1/2モデル1.36×10¹⁵秒、当てはめ誤差はそれぞれ0.00229と0.00225、低電界ではE^1/2モデルのほうが楽観的
- IRDS「2023 More Moore」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── TDDBが所与のlow-k膜に対する隣接配線間の最小スペースの限界を定めていること、誘電率スケーリングの鈍化とエアギャップ導入、物理の解明が完全からは程遠いこと
- imec「2 metal layer back-end-of-line for the 3nm technology node」公開技術記事(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 金属ピッチ21nmのデュアルダマシン試験構造で100℃のTDDB故障時間10年超、330℃・530時間でEM故障なし、RC 30%改善