重ね合わせバジェットとは
重ね合わせバジェットとは、層と層の位置ずれの許容量を1つの3σ値として与え、その総額を露光装置・プロセス・計測へ割り当てた表のことです。 バジェットは、予算のように総額と配分で管理する枠組みを指す現場語です。
日本半導体製造装置協会(SEAJ)の半導体製造装置用語集は、アライメント(重ね合わせ)精度を、露光時の露光パターンと下地層との位置ずれとし、下地層のアライメントマークとレジストパターンの位置を突き合わせて求めるとしています。同じ用語集は、同一露光装置での精度をDedicated Chuck(Single Machine)Overlay、異なる露光機間の精度をMatched Machine Overlayと呼び分けています。バジェットは、この位置ずれの管理値を総額として、どの要因がいくらまで使ってよいかを割り当てた表を指します。測り方そのものはオーバーレイ計測のページに書きました。
総額の実例が公開資料にあります。JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会の平成21年度報告に載るリソグラフィへの要求表では、2009年の欄でDRAMのハーフピッチ52ナノメートルに対して重ね合わせ3σが10ナノメートル、MPUのM1ハーフピッチ54ナノメートルに対して13ナノメートル、フラッシュのハーフピッチ38ナノメートルに対して12ナノメートルです。ITRS2009版の要求値を載せた表で、2009年度時点の見通しです。DRAMの欄はハーフピッチの19パーセントにあたり、こちらで割り算しました。
総額は、パターニング方式が先に決めます
Section titled “総額は、パターニング方式が先に決めます”同じ報告のダブルパターニングとスペーサへの要求表では、総額が方式で書き換わります。2009年の欄で、この表が基準とする重ね合わせ3σは10ナノメートルです。ピッチスプリッティング(LFLEまたはLELE)の行は、重ね合わせ3σが5.5ナノメートル、平均ずれの上限が0.8ナノメートルです。基準の10ナノメートルに対して55パーセントにあたり、こちらで計算しました。同じ表のスペーサ方式の行はフラッシュ側が主導する要求で、2009年の欄は11.9ナノメートルです。基準に対して1.19倍にあたり、こちらで割り算しました。2009年度報告の値です。
報告の本文は、ピッチスプリッティングにおける寸法均一性と重ね合わせ精度の要求が従来のトレンドに比べて一世代以上厳しいとし、シングル露光を基準にすると重ね合わせ精度で1/2以下、寸法均一性で1/√2以下という値が必要と報告されているとしています。異なる露光でエッジが形成されるパターンでは、重ね合わせ誤差がそのまま寸法誤差になるという理由も添えています。寸法側の総額の分け方はCD均一性バジェットのページに書きました。方式そのものの違いはマルチパターニングとSADPのページにあります。
スペーサ方式で総額が広がるのは、細い線の位置がスペーサの膜厚で決まるためです。露光の位置ずれは、パターンを切る側の層へ回ります。そのぶん、成膜とエッチバックの均一性が新しい行として立ちます。
総額は、4つの行が分け合います
Section titled “総額は、4つの行が分け合います”装置の行は、専用化するかどうかで動きます
Section titled “装置の行は、専用化するかどうかで動きます”キヤノンのFPA-5550iZ2は、画面サイズ26ミリメートル×33ミリメートルのi線ステッパーです。公表仕様の重ね合わせ精度はSMOで18ナノメートル以下、MMOで25ナノメートル以下で、オプション適用時の値です。同じ装置だけで流す場合と装置をまたぐ場合で7ナノメートルの差があり、こちらで引き算しました。この2つを独立とみなして二乗和の平方根で分けると、装置間のマッチング項は17.3ナノメートル相当になります。この分解もこちらで計算しました。装置をまたぐ設計にするだけで、装置の中の残差とほぼ同じ大きさの行がもう1本立ちます。
同社は、ショットの縦横倍率差とスキュー成分を投影光学系で補正するショット形状補正機能SSCを載せ、ショットごとに下地レイヤーの形状へ合わせて重ね合わせ露光をするとしています。非線形アライメント補正機能EAGA-FLもオプションに並びます。
同社のFPA-6300ES6aはKrFスキャナーで、MMO規格でOL-modeオプションを採用したときに重ね合わせ精度5ナノメートル以下としています。実現手段として、ステージの制振技術と同期制御、位置決めマークの検出精度を上げるアライメントスコープの改良、そしてウエハーステージエリアとレチクルステージエリアの温度管理を挙げています。同社の公表値です。装置間の差をどう詰めるかは装置マッチングのページに書きました。
プロセスの行は、下地の歪みが埋めます
Section titled “プロセスの行は、下地の歪みが埋めます”JEITA平成21年度報告は、最新の露光装置が仕様値で3ナノメートル以下を示している一方、プロセスに起因したアライメントマークの変形・歪みやウェハの歪みの影響も大きいとしています。そのうえで、高次のアライメント補正技術によるさらなる改善に加えて、精度よく検出できるアライメントマークの開発と、ウェハの歪みを抑える成膜・熱処理技術の開発も必要としています。2009年度報告の記述です。
この1行は、装置の外側にある工程がバジェットを食うことを示しています。膜応力がウェハを反らせれば、露光前にグリッドが動きます。ミリ秒アニールやレーザアニールは、パターン依存の温度分布を通じて局所的な伸縮を残します。CMPはマークの段差そのものを削り、検出の重心をずらします。ウェハ平坦度がリソグラフィの要求表に載るのと同じ理由で、成膜と熱処理の条件が重ね合わせの表へ書き込まれます。マークの計測側に乗る系統誤差はTISのページにあります。
同じ報告は、露光装置側の改善として、高速スキャンステージの位置計測に空気揺らぎの影響を受けやすいレーザー干渉計に代えてエンコーダーを採用し、重ね合わせ精度が改善されているとしています。
計測の行は、総額の2割で切られます
Section titled “計測の行は、総額の2割で切られます”同じ年度の第12章 計測は、2重露光の重ね合わせ制御について、要求精度の20パーセント(Precision to Tolerance)が計測に対する要求精度だと述べています。総額が10ナノメートルなら、計測の不確かさは2ナノメートルまでです。この掛け算はこちらで実施しました。計測側の不確かさの数え方はTMUのページに書きました。
同じ章は、重ね合わせの制御精度を上げる手法の1つとして、ウェーハプロセスにおけるチップ内格子とウェーハ内チップ配列格子を線形近似から高次近似へ移す方向を挙げ、それに対応してウェーハ内およびチップ内(ショット内)へ複数のアライメントマークと位置ずれ計測マークを配置する必要が生じたとしています。そのうえで、多数の位置ずれ計測による計測時間とコストを避けるため、Move-Acquire-Measure time(MAMタイム)を要求項目として併記したとしています。MAMタイムは計測点から計測点までのサイクルタイムです。
2009年度に追加された要求表は、2010年から2024年までの欄を2年刻みで並べています。光学式オーバーレイのターゲットパッドは40マイクロメートルから10マイクロメートルへ、ダイ内へ入れるマイクロターゲットは10マイクロメートルから2マイクロメートルへ、1点あたりのMAMタイムは1.0秒から0.5秒へ縮みます。2009年度報告の同じ表の値です。マークを小さくするほど回路領域を食わずに済み、そのぶん1点あたりの計測精度は苦しくなります。
つまみを回すと、ラインの時間が動きます
Section titled “つまみを回すと、ラインの時間が動きます”補正の次数を上げると、格子の残差が減ります。代わりにマークの数と計測点の数が増え、MAMタイムの合計だけ1ロットの滞留が延びます。翻訳の仕組みはオーバーレイ補正モデルのページに書きました。補正値をどの経路で露光装置へ渡すかはAPCの側の話になります。
露光の前に別の装置でウェハ全面を測り、補正値を露光装置へフィードフォワードするやり方もあります。ニコンはLitho Booster 1000について、ウェハホルダ構造を見直して吸着時に発生する誤差を低減し、アライメント計測精度が従来機種から約35パーセント向上、生産性が約10パーセント向上したとしています。2027年1月発売の製品で、同社の公表値です。同社は、この装置がニコン製と他社製のどちらの露光装置にも併設でき、スループットを落とさずにウェハの歪みやずれを測るとしています。装置が1台増えるぶん、床面積と保守の枠を差し出します。
装置を専用化してSMOで流せば、18ナノメートル側の運用になります。代わりに、その層を流せる装置が減り、待ち行列が伸びます。1台が止まったときにロットの行き先がなくなるのも同じ理由です。
何を差し出すのか
Section titled “何を差し出すのか”総額を締める方向は、どれも時間か面積のどちらかを差し出します。マークを増やせば計測時間が延び、マークを小さくすれば1点の精度が落ち、装置を専用化すれば流動性が落ちます。ピッチスプリッティングを選べば総額が半分近くまで縮み、スペーサ方式を選べば総額は広がるかわりに成膜とエッチバックの行が新しく立ちます。
配分の表そのものにも意味があります。計測の2割という枠は、計測器の側を先に固めてはじめてプロセス側の残り8割を測り分けられるという順番を示しています。JEITA平成21年度報告の第12章は、2重露光の重ね合わせ制御が達成困難な状態にあるため、対応する計測も不要という状況にあるとまで書いています。プロセスが量産条件を満たすまでは、計測への配分も宙に浮きます。総額の使い道は、最後はエッジ配置誤差という1つの管理量へ合流します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”重ね合わせバジェットとは何ですか?
層と層の位置ずれの許容量を1つの3σ値として与え、その総額を露光装置・プロセス・計測へ割り当てた表です。バジェットは、予算のように総額と配分で管理する枠組みを指す現場語です。
総額はどのくらいの数字ですか?
JEITAの平成21年度報告に載るリソグラフィへの要求表では、2009年の欄でDRAMのハーフピッチ52ナノメートルに対して重ね合わせ3σが10ナノメートル、MPUのM1ハーフピッチ54ナノメートルに対して13ナノメートルです。ITRS2009版の要求値を載せた表で、2009年度時点の見通しです。
同じ装置で流すのと、装置をまたぐのとで、どれくらい違いますか?
キヤノンのi線ステッパーFPA-5550iZ2の公表仕様は、重ね合わせ精度をSMOで18ナノメートル以下、MMOで25ナノメートル以下としています。オプション適用時の値です。差は7ナノメートルで、こちらで引き算しました。
計測にはいくら配分されますか?
JEITAの平成21年度報告の第12章は、2重露光の重ね合わせ制御について、要求精度の20パーセント(Precision to Tolerance)が計測に対する要求精度だとしています。総額が10ナノメートルなら計測の不確かさは2ナノメートルまでで、こちらで計算しました。
ダブルパターニングにすると総額はどうなりますか?
同じ報告のダブルパターニングへの要求表では、2009年の欄でピッチスプリッティングの重ね合わせ3σが5.5ナノメートル、平均ずれの上限が0.8ナノメートルです。同じ表のスペーサ方式の行は11.9ナノメートルで、方式によって総額が2倍以上動きます。
装置の仕様値を満たしても現場でずれるのはなぜですか?
JEITAの平成21年度報告は、最新の露光装置が仕様値で3ナノメートル以下を示す一方、プロセスに起因したアライメントマークの変形・歪みやウェハの歪みの影響も大きいとしています。装置の行を締めても、プロセスの行が総額を食います。
高次補正を入れれば済む話ですか?
同じ年度の第12章は、格子を線形近似から高次近似へ移すために、ウェーハ内とショット内へ複数のマークを増やす必要が生じたとしています。そのうえで計測時間とコストを避けるため、1点あたりのMAMタイムが要求項目として併記されました。残差は減り、ラインの時間は延びます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- CD均一性バジェットとは ── 寸法のばらつきの側を総額で管理する表
- オーバーレイ補正モデルとは ── 測った位置ずれを装置のつまみへ翻訳する仕組み
- エッジ配置誤差(EPE)とは ── 寸法と重ね合わせを合算したエッジ位置の管理量
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- 日本半導体製造装置協会「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── アライメント(重ね合わせ)精度が何を指すか、Dedicated Chuck(Single Machine)OverlayとMatched Machine Overlayの呼び分け、APCのフィードバックとフィードフォワード
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 2009年の欄の重ね合わせ3σ(DRAM10ナノメートル、MPU13ナノメートル、フラッシュ12ナノメートル)、ピッチスプリッティングの5.5ナノメートルと平均ずれ0.8ナノメートル、スペーサ方式の11.9ナノメートル、1/2以下と1/√2以下という要求、装置仕様値3ナノメートル以下とアライメントマーク変形・ウェハの歪み、エンコーダー採用による改善
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第12章 WG14(計測&故障解析SWG)計測」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 計測への配分が要求精度の20パーセント(Precision to Tolerance)であること、高次近似への移行にともなうマーク配置の増加、MAMタイムの要求項目化、ターゲットパッドとダイ内マイクロターゲットの縮小トレンド
- キヤノン「FPA-5550iZ2」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SMO18ナノメートル以下とMMO25ナノメートル以下、画面サイズ26ミリメートル×33ミリメートル、ショット形状補正機能SSC、非線形アライメント補正機能EAGA-FL
- キヤノン「FPA-6300ES6a」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── MMO規格での重ね合わせ精度5ナノメートル以下、制振とステージ同期制御、アライメントスコープの改良、ステージエリアの温度管理
- ニコン「アライメントステーション Litho Booster 1000 を発売」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 露光前にウェハ全面を計測して補正値を露光装置へフィードフォワードすること、計測精度が従来機種から約35パーセント向上、生産性が約10パーセント向上