低誘電率膜(Low-k)とは
低誘電率膜(Low-k)とは、配線と配線のあいだを埋める絶縁膜のうち、従来の二酸化ケイ素より比誘電率を下げた膜です。 SCREENセミコンダクターソリューションズは、銅配線で使うLow-k膜の比誘電率が一般に3.0以下を指すと記しています。
配線が密になると、絶縁膜がコンデンサとしてはたらきます。プラズマ・核融合学会の会誌に載った関根誠氏と堀勝氏の解説は、配線幅と間隔が300nm程度を下回るころから、配線抵抗と配線間容量の増大に伴う信号遅延が、微細化で高速になったトランジスタの性能を引き出せないという問題になったと述べています。作る側から見れば、トランジスタを速くしても、つなぐ側で止まるという話です。
この容量の大きさは、数字で出ています。応用物理学会の会誌に載った林喜宏氏の解説は、180nm世代のシリカ層間絶縁膜で分離された560nmピッチ配線から65nm世代に必要な200nmピッチまで配線を微細化すると、配線間寄生容量が200fF/mmから430fF/mmに増大すると述べています。同解説は続けて、実効比誘電率を2.5とすれば、配線間容量を210fF/mmとほぼ同一に保ちながら、180nm世代と比べて配線密度を8倍に増やせるとしています。膜を替えることで、密度を8倍にしても容量を据え置けるという取り分です。
下げ方は二通りあります。関根氏らの解説は、比誘電率が膜を構成する分子や原子の分極率と密度に依存するため、低誘電率化にはそのどちらかを下げなければならないと述べています。同解説によれば、二酸化ケイ素はk=3.9から4.3で、フッ素を添加したSiOFではk=3.4から3.8が得られますが、k値を小さくすると遊離フッ素の影響が顕著になり、k=3.6程度が実用化限界と考えられています。プラズマCVDによるSiOCHでは2.8から3.1が得られ、さらにk値を下げるには膜中に空孔を作るポーラス膜が使われます。
空孔が誘電率を下げる理由は単純です。SCREENセミコンダクターソリューションズの公式技術情報は、空気の比誘電率が1.0なので、原理的には膜の中に空気があると値が低くなるとしています。同社は、Low-k膜の作り方をCVD方式とSOD方式に分けたうえで、空孔が多い膜は強度が弱くて加工しにくく、その空孔に水分がたまって取り除きにくいという問題も挙げています。
弱くなった膜は、後の工程で壊れます
Section titled “弱くなった膜は、後の工程で壊れます”多孔質化の代償は、一つではありません。日本表面科学会の会誌に載った中村友二氏の総合報告は、空孔を入れると必然的に膜密度や機械的強度が低下し、配線を構成する隣接材料間の物性値の不整合が増すと述べています。同報告は、プラズマ耐性も低下すると続けています。
弱さは数字で出ています。林氏の解説は、90nm世代の均質SiOCH膜(k=2.9)に対してポーラスSiOCH膜(k=2.6)の膜強度が約半分であり、組み立て時の機械応力破壊が懸念されたと述べています。同解説は、このポーラスSiOCH膜の弾性率を5GPaと記しています。k値を2.9から2.6へ下げるために、丈夫さを半分差し出した形です。
同解説は、65nm世代でポーラス膜を導入する際に克服が必要だった課題として、吸湿による値の変動、レジスト灰化処理時の酸化ダメージ、CMP時の膜剥離、微細配線間の絶縁信頼性の劣化、組み立て耐性の劣化の五つを挙げています。膜そのものの話は最初の二つで、あとの三つは膜を組み込んだ後に出てきます。
組み立ての側も無視できません。同解説によれば、最上層のアルミパッド上に金ワイヤを拡散接合させる際にパッド下の層間絶縁膜へ大きな機械応力が働き、封入樹脂であるエポキシは熱膨張係数が大きいため、マイナス65度から150度の冷熱サイクル試験中に大きな熱応力が発生します。対策として、アルミパッドの下に銅配線を機械補強の骨格として組み込み、封入樹脂の熱膨張率を10ppm/度以下にしたと記されています。ワイヤボンディングと封止樹脂の条件が、配線層の設計に返ってくる形です。
加工と放置が、下げたk値を押し戻します
Section titled “加工と放置が、下げたk値を押し戻します”膜のk値は、成膜した時点で決まりません。中村氏の報告は、ビア孔や配線溝のエッチングやアッシングなどのプラズマ処理を受けると、骨格であるシロキサン結合に結合している有機基が切断され、誘電率の高い変質層が生成されると述べています。同報告によれば、そこにできるシラノール基が膜を親水化させ、誘電率の上昇や電気的特性の劣化、その後に形成される界面の変質や密着強度の低下を引き起こします。
関根氏らの解説も、アッシング工程でLow-kパターンの側面に生じるダメージ、つまり膜中の炭素量の減少などによるk値の上昇が問題になっていると述べています。同解説によれば、二酸化ケイ素のエッチングでは酸素を加えて過剰なポリマー形成を抑えてきましたが、酸素ラジカルはSiOCH膜の炭化水素を選択的に削ってk値を上げるダメージ要因になるため、窒素を加えます。ガスの選び方が、そのままk値の守り方になります。
大気中に放置するだけでも上がります。林氏の解説は、空孔率28%でk=2.2のポーラスメチルシルセスキオキサン膜の空孔のうち50%が水で満たされた場合にk=3.1となり、100%充填では5.5に達すると述べています。水の比誘電率が18度で81と高いためです。同解説は、空孔径が1nm以下、つまり水分子3個分程度以下になると吸湿性はほとんど認められなくなるとし、65nm世代では平均空孔径0.6nmでk=2.6、空孔率25%のポーラスSiOCH膜を用いて吸湿による上昇を回避したと記しています。
回復させる手立てもあります。中村氏の報告は、ヘキサメチルジシラザンなどのシラン化合物によるプラズマダメージの回復処理を紹介し、ダメージ層内のシラノール基をメチル基に変えて疎水性を高められ、リーク電流の回復にも効果があるとしています。
現場が実際に測るのは、抽出したk値です
Section titled “現場が実際に測るのは、抽出したk値です”単膜のk値を測っても、配線の中の値はわかりません。NEDOが公開している資料は、配線に組み込まれたLow-k材料のk値を抽出するには単膜でのプラズマダメージを測定する方法では不十分で、実際のプロセスを経た構造の容量を測定して、その差を求める必要があると述べています。同資料は、この方法でプロセスダメージを受けたLow-k膜のk値を抽出することに成功したとしています。
測り方には前提があります。同資料によれば、k値の変動は膜厚方向に分布を持つため、組成が変わった膜の厚さを精度良くつかむ必要があり、屈折率による分光エリプソ測定では組成変動したLow-k膜の膜厚を正確に測れません。そこでX線反射率測定法を用い、密度の違いからキャップ膜とLow-k変質層を分離して各層の膜厚を測っています。
結果は、放置による上昇の大きさを示しています。同資料は、プラズマCVD堆積によるk値の上昇は10%以下であるのに対し、クリーンルームの大気中に放置することによるk値上昇は大きいと述べています。アニール処理でk値は減少しますが、その後の吸湿による上昇はプラズマCVDの条件によって大きな差が出ます。同資料は、成膜から6日後、200度で3時間の窒素アニール、さらに6日後という順で抽出k値を追い、最終時点でのk値上昇を従来条件のキャップ膜で0.79、低パワーの二周波で0.13としています。熱脱離ガス分析では、ダメージ層に水が吸蔵されていることも示されています。
計画どおりには下がっていません
Section titled “計画どおりには下がっていません”低誘電率化は、ロードマップの線を追い越せませんでした。中村氏の報告は、実効比誘電率について、当初の低誘電率化シナリオがまったく実現されず、目標とするk値が年を追うごとに延伸されたと述べています。同報告によれば、配線幅の微細化はロードマップの要求値よりも前倒しで進んだ一方、低誘電率化との両立は非常に難しく、配線の高さや長さといった設計パラメータを変更することで性能向上のシナリオを維持してきました。
膜だけで下げきれないなら、構造で下げるという道もあります。配線と配線のあいだを空洞のまま残すエアギャップは、その延長にあります。膜を疎にするか、いっそ何も入れないかという選択で、どちらも同じ代償、つまり支えの弱さを引き受けることになります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 配線・メタライゼーションの工程ページ ── 工程分類と、この工程につながる公開求人を載せています
- CMPの工程ページ ── 弱い膜に圧力をかける側の工程です
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位でメーカーと製品familyを引けます
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”低誘電率膜(Low-k)とは何ですか?
配線と配線のあいだを埋める絶縁膜のうち、従来の二酸化ケイ素より比誘電率を下げた膜です。SCREENセミコンダクターソリューションズは、銅配線で使うLow-k膜の比誘電率は一般に3.0以下を指すと記しています。
誘電率を下げると現場では何が変わりますか?
配線と配線のあいだにたまる容量が減ります。応用物理学会の会誌に載った林喜宏氏の解説は、180nm世代のシリカ層間絶縁膜で分離された560nmピッチ配線から65nm世代に必要な200nmピッチまで微細化すると配線間寄生容量は200fF/mmから430fF/mmに増えるが、実効比誘電率を2.5とすれば210fF/mmとほぼ同じに保ちながら配線密度を8倍にできると述べています。
どうやって誘電率を下げるのですか?
プラズマ・核融合学会の会誌に載った関根誠氏と堀勝氏の解説は、比誘電率が膜を構成する分子や原子の分極率と密度に依存するため、そのどちらかを下げるとしています。分極率の低い元素を入れる方法と、膜を疎にする方法があります。
空孔を入れるとは何のことですか?
膜の中に微小な空隙を分散させることです。SCREENセミコンダクターソリューションズは、空気の比誘電率が1.0なので原理的には膜の中に空気があると値が低くなると記しています。この構造をポーラス構造と呼びます。
空孔を増やす代償は何ですか?
膜が弱くなります。林氏の解説は、90nm世代の均質SiOCH膜(k=2.9)に対してポーラスSiOCH膜(k=2.6)の膜強度は約半分だと述べています。研磨での膜剥離や、組み立て時の機械応力破壊が心配になります。
作ったときのk値のまま使えますか?
使えません。日本表面科学会の会誌に載った中村友二氏の報告は、エッチングやアッシングなどのプラズマ処理を受けると骨格に結合した有機基が切断され、誘電率の高い変質層ができると述べています。大気中に放置するだけでも吸湿で上がります。
実際にはどうやってk値を確かめるのですか?
NEDOが公開している資料は、配線に組み込まれたLow-k材料のk値を求めるには単膜でのプラズマダメージ測定では不十分で、実際のプロセスを経た構造の容量を測ってその差から抽出する必要があると述べています。膜厚はX線反射率測定法で求めています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- Low-k材料とは ── なぜ誘電率を下げたいのかを、材料の側から述べたページです
- エアギャップ(配線)とは ── 膜を疎にする代わりに、空洞をそのまま残す方法です
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- 応用物理学会 会誌「応用物理」林喜宏「低誘電率絶縁膜材料の進化と最先端ULSI多層配線技術」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 560nmピッチから200nmピッチまでの配線間寄生容量の増加と実効比誘電率2.5での据え置き、ポーラスSiOCH膜の空孔径0.6nmと空孔率25%、均質SiOCHに対する膜強度が約半分であること、弾性率5GPa、ポーラス膜導入時の五つの課題、空孔が水で満たされた場合のk値、空孔径1nm以下で吸湿性が認められなくなること、冷熱サイクル試験の温度範囲と封入樹脂の熱膨張率の値です
- プラズマ・核融合学会 会誌「低誘電率(Low-k)材料のドライエッチング」関根誠・堀勝(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 配線幅と間隔が300nmを下回るころに信号遅延が問題になったこと、比誘電率が分極率と密度に依存すること、二酸化ケイ素とSiOFとSiOCHのk値、遊離フッ素による実用化限界、アッシングでの側面ダメージとk値上昇、酸素ラジカルが炭化水素を削るため窒素を加えることです
- 日本表面科学会 会誌「表面科学」中村友二「LSIの配線技術と表面科学」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 多孔質化による膜密度と機械的強度の低下、プラズマ処理で有機基が切断されて変質層ができること、シラノール基による親水化と密着強度の低下、シラン化合物による回復処理、実効比誘電率の目標が年を追って延伸されたことです
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)公開資料「CVD膜堆積によるプラズマダメージの評価」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 単膜測定では不十分で構造の容量差からk値を抽出する方法、分光エリプソでは膜厚を正確に測れずX線反射率測定法を用いること、プラズマCVD堆積によるk値上昇が10%以下であること、大気放置とアニールによる変化と最終時点の上昇量0.79と0.13、熱脱離ガス分析で示された吸湿です
- SCREENセミコンダクターソリューションズ 公式技術情報「Cu 配線」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── Low-k膜の比誘電率が一般に3.0以下を指すこと、CVD方式とSOD方式、空気の比誘電率1.0とポーラス構造、空孔が多い膜は強度が弱く加工しにくく水分がたまることです