ボーイングとは
ボーイングとは、深い穴や溝の中腹だけが樽のように横へ広がる形状異常です。 日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏は、プラズマ核融合学会誌の用語解説で、HARC加工においてホール間口付近が樽型に広がる形状としています。
深掘りの形が崩れるとき、崩れる場所には決まりがあります。入口が細るネッキング、底が寝るテーパ、全体が傾くチルティングと並んで、中腹だけがふくらむのがボーイングです。ふくらむ位置は、掘った深さよりもアスペクト比に従います。
根岸伸幸氏と伊澤勝氏は、プラズマ核融合学会誌の解説で、Ar・C₅F₈・O₂の混合ガスを用いたUHF-ECRプラズマエッチング装置での測定として次の3点を示しています。ボーイングが出る位置のアスペクト比はホール径に依らず約4でほぼ一定であること、側壁の堆積膜が途切れる位置のアスペクト比は約3でほぼ一定であること、そして側壁の堆積量はホール径が細るほど直線的に減ることです。ここに挙げた数値は同装置での実験結果です。
この3点が揃うと、絵が1枚に決まります。側壁を守る保護膜は、アスペクト比3あたりで途切れます。一方、穴へ入るイオンのフラックスはアスペクト比に従うため、アスペクト比4の場所に届くイオンの量は、ホール径を細くしても一定です。守りだけが薄くなり、攻めは一定のままです。両氏は、この比が微細化とともに崩れるため、マスクのファセット部やネッキング部での反射やチャージアップなどで散乱されたイオンによる側壁のエッチングが進み、細いホールでボーイングが顕著になると述べています。同じ小特集の用語解説も、ボーイング位置の上にあるくびれ部、いわゆるチョーキング部でのイオン反射と、フルオロカーボン堆積膜のパターン内の不均一を要因として挙げています。
ふくらみが許容を超えると、隣の穴と導通します
Section titled “ふくらみが許容を超えると、隣の穴と導通します”根岸氏の用語解説は、パターン間隔が狭くなるためボーイングが大きいと隣同士のパターンが導通する問題が顕在化してきたと述べています。同解説はスタック型DRAMのキャパシタ加工を例に、加工後のホール内ウェット洗浄工程による横方向の広がりを考慮すると、ボーイング発生部の寸法シフト量をホール径に対して10パーセント以内に抑える必要があるとしています。この10パーセントという枠は、エッチングの後に洗浄がもう一段広げる分を先に払っておくための予算です。
この許容量は、ホール径に対する比で書かれています。したがってホール径が細るほど、許される絶対量も小さくなります。そして根岸氏らの解説は、ホール径が細るほどボーイング量そのものは急激に増えると述べています。分子が増えて分母が減る方向へ同時に動きます。
立ち上がる条件は、アスペクト比の側にあります
Section titled “立ち上がる条件は、アスペクト比の側にあります”根岸氏らは、ホール径100ナノメートル程度までは比較的垂直な形状を保てる場合もあると述べています。同じ小特集の用語解説は、HARC加工を高アスペクト比コンタクトエッチング加工の略とし、DRAMのスタックキャパシタのストレージノード加工、トレンチキャパシタのマスク加工、フラッシュメモリのビットラインコンタクト加工に用いる微細深孔加工の総称としています。同解説は国際半導体技術ロードマップを引いて、ストレージノードのアスペクト比が2007年で19、2010年に42まで増大すると予測されていたとしています。これは2007年時点の見通しです。
その後の桁はメモリ側が引き上げました。キオクシアの大村光広氏らは、プラズマ核融合学会誌の解説で、3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比が既に40を超え、さらなる大容量化ではアスペクト比が100を超えると予想されるとしています。同解説は、この加工の課題としてボーイングのほかに、マスク選択比不足、間口寸法が縮むネッキング、間口が塞がるクロッギング、ホール下部のテーパ形状、下地選択比不足、プラズマシースの傾きに起因するチルティング、アスペクト比に依存してエッチングレートが下がるRIE-lagを並べています。ボーイングだけを潰すレシピは、この並びのどこかを悪化させます。
測るのは、間口と中腹の2点の寸法差です
Section titled “測るのは、間口と中腹の2点の寸法差です”根岸氏らは、ボーイング量をボーイング位置の寸法シフト量とホール間口の寸法シフト量の差として与えています。上から見た寸法1点では足りず、断面観察で深さ方向に2点取り、その差を計算します。
同じ解説は、側壁の堆積量そのものも測っています。あらかじめエッチングで加工したホールのサンプルを低いウェーハバイアスのプラズマへ曝し、側壁に堆積した膜の厚さを断面SEMで測る方法です。両氏はこの測定から、堆積膜が途切れる位置のアスペクト比を併記しています。つまり現場で追うべき量は、ふくらみの寸法だけでなく、保護膜がどの深さまで届いているかです。
現場で回すつまみは、希釈ガス流量と電極温度です
Section titled “現場で回すつまみは、希釈ガス流量と電極温度です”1つ目のつまみは、希釈ガスであるArの流量です。根岸氏らは、Ar流量が800ミリリットル毎分の場合にホール中間部の側壁へ堆積が見られず、500、200ミリリットル毎分と下げるほど側壁の堆積量が増えたことを示しています。両氏は発光分光の結果と併せて、Arの低流量化によってCF₂に代表される付着係数の低いラジカルが増えたと考えています。付着係数、つまり壁に当たったときに貼り付く確率が低いラジカルは、入口で消費されずに奥まで入ります。上げれば堆積成分が入口付近にとどまって中腹の側壁が裸になり、下げれば中腹まで守りが届きます。
2つ目は、電極温度です。両氏は、電極温度が低くて付着係数が高い場合にアスペクト比3から4で側壁の保護膜が形成されず、ボーイングの発生が予測されると述べています。逆に電極温度を上げると側壁の付着係数が下がり、ホール内部までラジカルが運ばれてボーイング発生位置付近の堆積速度が増えます。上げれば奥へ届き、下げれば入口で止まります。SEAJの2012年度版 半導体製造装置技術ロードマップも、パターン側壁への反応生成物の付着量を面内で均一にするために付着確率を制御する方法として、ウェーハ裏面のガス流量と圧力を中心部と周辺部で別に制御し、ウェーハ温度を中心で高く周辺で低くする手法を挙げています。温度は面内分布のつまみにもなります。
3つ目は、マスクの形です。キオクシアの解説は、マスク部で反跳されたイオンとボーイングが関係し、テーパを持つマスク形状がボーイングを起こしやすいという報告を紹介しています。根岸氏らの解説がマスクのファセット部での反射を挙げているのと同じ方向です。したがってメタルハードマスクの肩をどれだけ立てて残せるかが、そのまま中腹の形に出ます。
差し出すものは、マスク選択比と間口の寸法です
Section titled “差し出すものは、マスク選択比と間口の寸法です”保護膜を厚くする向きの操作には、上限があります。根岸氏らは、HARC加工では高いエッチレートと高いマスク選択比が要求されるため、付着係数が高く比較的厚いフルオロカーボンポリマーを堆積させてマスクを守りながら、1から3キロ電子ボルトの高エネルギーイオンでエッチングすると述べています。中腹まで届かせるために付着係数を下げる操作は、このマスク保護の側の膜も薄くします。キオクシアの解説がマスク選択比不足とボーイングを同じ課題の並びへ挙げているのは、この綱引きがあるためです。
もう一方の代償は、間口です。堆積を増やせば入口が細るネッキングとクロッギングへ向かいます。だからこそ根岸氏らは、改善結果を述べる際に、ホールのトップ寸法を維持したままという条件を先に添えています。ボーイングだけを見て堆積を積むレシピは、間口の側で行き止まりになります。
温度をつまみにする流れは現在も続いています。東京エレクトロンは公式ブログで、クライオジェニックエッチングによってプロセス中のウェーハ温度をこれまでよりずっと低く保てるようになり、深さ10マイクロメートル以上の穴を従来比2.5倍の速度でまっすぐエッチングできるようになったと述べています。同社は現状としてアスペクト比1対100の工程を複数組み合わせているとし、これを1つの工程で1対200まで広げることを目標に挙げています。エッチングガスの側では、SEAJの同ロードマップが、Si酸化膜のエッチングに使うフルオロカーボンガスが微細化と高アスペクト比化に伴ってC/F比の大きいC₅F₈やC₄F₆へ向かう傾向にあるとしています。同ロードマップは絶縁膜エッチング装置の節で、低中密度のプラズマがC₄F₈やC₄F₆の過剰な分解を抑えて高い選択性を確保するのに適しているとも述べています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ボーイングとは何ですか?
深い穴の中腹だけが樽のように横へ広がる形状異常です。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏は、プラズマ核融合学会誌の用語解説で、HARC加工においてホール間口付近が樽型に広がる形状としています。
なぜ中腹だけが広がるのですか?
側壁を守る保護膜が届く深さと、散乱したイオンが当たる深さがずれるためです。根岸氏らの解説は、側壁の堆積膜が途切れる位置のアスペクト比が約3、ボーイングが出る位置のアスペクト比が約4で、いずれもホール径に依らずほぼ一定だったと述べています。混合ガスにAr・C₅F₈・O₂を用いたUHF-ECR装置での測定です。
何が当たって削っているのですか?
垂直に落ちたイオンよりも、向きの変わったイオンが多く削ります。根岸氏らは、マスクのファセット部やネッキング部での反射やチャージアップなどで散乱されたイオンによって側壁のエッチングが進むとしています。キオクシアの解説も、テーパを持つマスク形状がボーイングを起こしやすいという報告を紹介しています。
ボーイングが大きいと何が起きますか?
隣の穴と導通します。根岸氏の用語解説は、パターン間隔が狭くなるためボーイングが大きいと隣同士のパターンが導通する問題が顕在化してきたと述べ、スタック型DRAMのキャパシタ加工では加工後のウェット洗浄による横方向の広がりを考慮して、ボーイング発生部の寸法シフト量をホール径の10パーセント以内に抑える必要があるとしています。
どのつまみで動きますか?
希釈ガスの流量と電極温度です。根岸氏らは、Ar流量が800ミリリットル毎分ではホール中間部の側壁に堆積が見られず、500、200ミリリットル毎分と下げると側壁の堆積量が増えたことを示し、電極温度の高温化で側壁の付着係数が下がってホール内部までラジカルが運ばれるとしています。同装置での実験結果です。
どれだけ改善しましたか?
根岸氏らは、Ar流量の最適化と電極温度の高温化を組み合わせることで、ホールのトップ寸法を維持したままボーイング量を56.3ナノメートルから15.2ナノメートルへ低減できたと述べています。ボーイング量は、ボーイング位置の寸法シフト量とホール間口の寸法シフト量の差として測られています。
微細化するとどうなりますか?
同じ縮小幅が、より大きな寸法差になります。根岸氏らは、ホール径が細るほどボーイング量が急激に増え、ホール径100ナノメートル程度までは比較的垂直な形状を保てる場合もあると述べています。キオクシアの解説は、3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比が既に40を超え、さらに100を超えると予想されるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ノッチングとは ── 足元が横へ削れ、下地の絶縁性が引き金になります
- アスペクト比とは ── ボーイングが出る位置を決めている量そのものです
- ラジカルとは ── 付着係数の違いが、側壁保護膜の届く深さを決めます
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- プラズマ核融合学会誌83巻4号 根岸伸幸・伊澤勝「フルオロカーボンプラズマのエッチングメカニズム」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── Ar・C₅F₈・O₂を用いたUHF-ECR装置での測定、ボーイング量の与え方、ボーイング発生位置のアスペクト比約4、堆積膜が途切れる位置のアスペクト比約3、側壁堆積量の直線的な減少、入射イオンフラックスのアスペクト比依存、マスクファセット部とネッキング部での反射やチャージアップ、Ar流量800・500・200ミリリットル毎分での側壁堆積、CF₂の付着係数、電極温度の高温化、トップ寸法を維持した56.3ナノメートルから15.2ナノメートルへの低減、ホール径100ナノメートル程度までの垂直形状、HARC加工での1から3キロ電子ボルトのイオンと厚いフルオロカーボンポリマー
- プラズマ核融合学会誌83巻4号 小特集「材料プロセス用フルオロカーボンプラズマ 用語解説」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ボーイング形状の記述、くびれ部すなわちチョーキング部でのイオン反射と堆積膜のパターン内不均一、隣同士のパターンが導通する問題、ウェット洗浄を考慮したホール径10パーセント以内という条件、HARC加工の適用先と国際半導体技術ロードマップによるアスペクト比19から42への予測
- プラズマ核融合学会誌97巻9号 大村光広・橋本惇一・林久貴「反応性プラズマを用いた高アスペクトホールエッチングプロセス」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比が既に40超で100超と予想されること、テーパを持つマスク形状がボーイングを起こしやすいという報告の紹介、ネッキング・クロッギング・チルティング・RIE-lagを含む課題の並び
- 東京エレクトロン「クライオジェニックエッチング」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 極低温ブラインでウェーハ温度を低く保つこと、深さ10マイクロメートル以上の穴を従来比2.5倍の速度でまっすぐ加工できること、アスペクト比1対100の工程を複数組み合わせている現状と1対200という目標
- SEAJ「2012年度版 半導体製造装置技術ロードマップ報告書 ウェーハプロセス」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── Si酸化膜エッチングでC/F比の大きいC₅F₈やC₄F₆へ向かう傾向、低中密度プラズマによるC₄F₈とC₄F₆の過剰分解の抑制と高選択性、ウェーハ裏面ガスの中心部と周辺部の別制御による付着確率の制御