側壁パッシベーションとは
側壁パッシベーションとは、エッチング中にパターンの側壁へ薄い膜を作り、横方向の反応を抑えることです。 その膜を側壁保護膜と呼びます。
膜の出どころは、掘っている最中の副産物です。名古屋大学の関根誠氏は、プラズマエッチング装置技術の解説で、パターンの側面にはエッチング生成物(例としてSiClx)やレジストの分解物が積もって中性のエッチング種との反応が抑えられ、一方でイオンが叩く底面ではその薄膜が落ちるため、異方性の加工になると述べています。別工程で付ける膜と違い、エッチングガスを流している間にできた物が、そのまま壁へ貼り付く形です。
3つ目の出どころがフルオロカーボン堆積膜です。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは、絶縁膜の微細ホール加工で、ホール側壁に堆積したデポ厚さを断面SEMで測り、側壁堆積膜が途切れる位置のアスペクト比が3とほぼ一定であることを示しています。UHF-ECRプラズマでAr/C₅F₈/O₂を使った検討です。
よく作用するのは中性のエッチング種と容易に反応が進む材料を掘る場合で、関根氏はリンを高濃度に添加したn+ poly-SiをCl原子で掘る組み合わせと、SiをF原子で掘る組み合わせを例に挙げています。裏返せば、ラジカルとの反応が遅い材料では、この仕掛けの働きも小さくなります。
膜が付きにくい材料では、寸法が設計値から後退します
Section titled “膜が付きにくい材料では、寸法が設計値から後退します”膜を欠いたときに何が起きるかを、2つの実例が示しています。1つは方向の作り方そのものです。大阪産業技術研究所の技術シートは、従来のシリコン異方性エッチングが水酸化カリウム(KOH)水溶液やテトラメチル水酸化アンモニウム(TMAH)水溶液など強アルカリ性水溶液を使う手法が主流で、エッチングの向きが単結晶シリコンの結晶方位に従ったとし、DRIE装置なら結晶方位に関わらず設計の自由度が大幅に増したと記しています。膜で方向を作るやり方と、結晶方位で方向を作るやり方の二択になります。
もう一つはマスク材料です。名古屋大学の林俊雄氏は、MEMS加工のマスクとしてのCrについて、Cl₂とO₂のプラズマで掘る際に有効な側壁保護膜ができないため、加工寸法(CD)が設計値より大きく後退しやすいと述べています。膜の応力が大きく成膜厚が通常0.5 μm程度にとどまることも、厚いCrマスクを作りにくい課題として挙げています。2007年時点の記述です。メタルハードマスクを選ぶとき、膜が付くかどうかが寸法の話までそのまま届きます。
時分割にすると、装置の仕様として書けます
Section titled “時分割にすると、装置の仕様として書けます”同時に起こすのをやめて段に分けたやり方がDRIEです。サムコの公式製品ページは、ボッシュプロセスを、Siを等方的に掘る段、保護膜を積む段、底面の保護膜を落としてSiを異方的に掘る段という3ステップの繰り返しとし、掘るほうにSF₆、保護膜にC₄F₈を主に使うとしています。1992年にRobert Bosch GmbHが開発し、2003年に同社が日本の半導体製造装置メーカーで初めてライセンスを取得したとも述べています。
大阪産業技術研究所の技術シートは、導入したボッシュプロセスDRIE装置について、保護工程でC₄F₈により側壁保護膜を形成して横方向のエッチングを抑制し、エッチング工程でシリコン基板にバイアスを掛けSF₆で底面の保護膜を除去すると記しています。装置仕様として、エッチング側壁角度90°±1°以内、最速レート5 μm/分、アスペクト比30以内、Siとフォトレジストの選択比100以上、SiとSiO₂の選択比200以上を挙げています。SPPテクノロジーズ社製MUC-21 ASE-SREについて、2019年2月の技術シートに載る仕様です。膜の働きが、角度と選択比という数字で書ける形になります。
深いところへ届かせるつまみ
Section titled “深いところへ届かせるつまみ”深く掘るほど、膜は入口で止まります。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは、絶縁膜の微細ホールで、Ar流量が800 ml/minの場合にホール中間部の側壁で堆積が途切れ、500 ml/min、200 ml/minと低減することで側壁堆積量が増えたと報告しています。Ar流量の低流量化でCF₂に代表される付着係数の低いラジカルが増えたと考えており、付着係数が高いラジカルは入口で捕まります。電極温度については、低温度で付着係数が高い場合にアスペクト比3〜4で側壁保護膜の形成が途切れ、高温度化による側壁付着係数の低下に伴ってホール内部へラジカルが輸送されるとしています。両方を最適化して、ボーイング量は56.3 nmから15.2 nmへ下がりました。UHF-ECRプラズマでAr/C₅F₈/O₂を使った検討です。このつまみは、溝底の角に余分な掘れ込みが刻まれるマイクロトレンチの側からも同じように触ります。
温度を逆へ大きく振る道もあります。東京エレクトロンは、3D NANDの高アスペクト比加工向けのクライオジェニックエッチングについて、マイナス数十度に達する極低温のブラインを流すことでプロセス中のウェーハ温度をこれまでよりずっと低く保ち、深さ10 μm以上の穴を従来比2.5倍の速度でまっすぐエッチング加工できるようになったと述べています。CF系ガスの代わりにHFガスを使えるようになり、いまはCF系ガスの91パーセントをHFガスへ振り替えられたとし、第一世代機と比べて80パーセント以上のカーボンフットプリント削減を果たしたとしています。現状はアスペクト比1対100の工程を複数組み合わせており、1回の工程で1対200を狙うとも書いています。2024年10月時点の同社の公表内容です。
何を測り、何を差し出すのか
Section titled “何を測り、何を差し出すのか”面内で膜の厚さがばらつくと、寸法もばらつきます。関根氏は、パターンの加工寸法(CD)の変換差を抑えるところに面内の均一性が強く効くとし、その理由を、エッチング生成物・ラジカル・イオンの分布がそろわないと側壁保護膜の厚さもウェハ面内でそろわなくなるためだと説明しています。測るのはCD-SEMや断面観察で拾った寸法と、その均一性です。
差し出すものは、やり方ごとに違います。サムコの非ボッシュプロセスの公式プロセスデータは、ボッシュプロセスのSi深掘りでは原理上スカロップが出るため問題になる場合があるとし、非ボッシュプロセスなら側壁を平滑に保ったまま100 μm以上掘れるとしています。同じ加工例では、□50 μmのホールパターンを深さ126 μmまで掘り、開口部を73°の順テーパー形状に調整してボーイングを抑え、エッチングレートは7.9 μm/minです。同社の加工例の値です。膜を作るガスそのものにも代償があり、東京エレクトロンはC₄F₈やCF₃などのガスの温暖化係数が高い点を課題として挙げています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”側壁パッシベーションとは何ですか?
エッチング中にパターンの側壁へ薄い膜を作り、横方向の反応を抑えることです。その膜を側壁保護膜と呼びます。名古屋大学の関根誠氏は、エッチング生成物やレジストの分解物が側面へ積もって中性のエッチング種との反応を抑え、これが異方性の加工を支える仕掛けになると述べています。
膜はどこから来るのですか?
掘っている最中の副産物です。関根氏はエッチング生成物(例としてSiClx)とレジストの分解物を挙げ、日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは絶縁膜の微細ホール加工で側壁に積もるフルオロカーボン堆積膜のデポ厚さを断面SEMで測っています。別工程で付ける膜と違い、掘りながらできた物が壁へ貼り付く形です。
なぜ底の膜だけ落ちるのですか?
イオンが底へ当たるためです。名古屋大学の関根誠氏は、イオンが叩くパターンの底面では、積もった薄膜が落ちると述べています。側壁はイオンの直撃を免れるので膜が残り、膜の落ちた底だけが掘り進む形になります。
膜を欠くとどうなりますか?
横方向も同じ速さで進みます。大阪産業技術研究所の技術シートは、従来のシリコン異方性エッチングが水酸化カリウム(KOH)水溶液やテトラメチル水酸化アンモニウム(TMAH)水溶液など強アルカリ性水溶液を使う手法が主流で、エッチングの向きが単結晶シリコンの結晶方位に従ったとし、DRIE装置なら結晶方位に関わらず設計の自由度が大幅に増したと記しています。膜で方向を作る代わりに、結晶方位で方向を作る形です。
膜が付きにくい材料もありますか?
あります。名古屋大学の林俊雄氏は、CrをCl₂とO₂のプラズマで掘るときは有効な側壁保護膜ができないため、加工寸法(CD)が設計値より大きく後退しやすいと述べています。膜の応力が大きく、成膜厚が通常0.5マイクロメートル程度にとどまる点も、厚いCrマスクを作りにくい課題に挙げています。2007年時点のMEMS加工の記述です。
深いところへ膜を届かせるつまみは何ですか?
Ar流量と電極温度です。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは、Ar流量が800 ml/minの場合にホール中間部の側壁で堆積が途切れ、500 ml/min、200 ml/minと低減することで側壁堆積量が増えたと報告しています。電極温度の高温化で側壁付着係数が下がりホール内部へラジカルが輸送され、両方の最適化でボーイング量が56.3 nmから15.2 nmへ下がりました。UHF-ECRプラズマでAr/C₅F₈/O₂を使った検討です。
ボッシュプロセスにすると何を差し出しますか?
側壁の節です。サムコの公式プロセスデータは、ボッシュプロセスのSi深掘りでは原理上スカロップが出るため問題になる場合があるとし、非ボッシュプロセスなら側壁を平滑に保ったまま100マイクロメートル以上掘れるとしています。同社の非ボッシュの加工例は、□50マイクロメートルのホールパターンを深さ126マイクロメートルまで掘り、開口部を73度の順テーパー形状に調整して7.9マイクロメートル毎分のレートを得ています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- マイクロトレンチとは ── 守り方が底の角に返ってきた形です。側壁パッシベーションの副作用の側にあたります
- DRIE(深堀り反応性イオンエッチング)とは ── 守る段と掘る段を時分割にした装置と手順です
- ウェットエッチングとは ── 薬液で溶かすやり方です。結晶方位や薬液で形が決まります
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- プラズマ・核融合学会誌「2. プラズマエッチング装置技術開発の経緯,課題と展望」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 底面で薄膜が除去されて異方性になる仕組み、よく作用する材料の例、CD変換差と面内均一性の関係
- プラズマ・核融合学会誌「4. フルオロカーボンプラズマのエッチングメカニズム」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── フルオロカーボン堆積膜と断面SEMで測ったデポ厚さ、堆積が途切れるアスペクト比3、Ar流量と電極温度の作用、付着係数、ボーイング量56.3 nmから15.2 nm
- プラズマ・核融合学会誌「6. MEMS製造プロセスにおけるフルオロカーボンプラズマ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── Crで有効な側壁保護膜の形成が難しくCDシフトが出ること、成膜厚の上限
- サムコ「高速シリコンディープエッチング装置」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ボッシュプロセスの3ステップ、SF₆とC₄F₈、1992年の開発と2003年のライセンス取得
- サムコ「非ボッシュプロセスによる順テーパー加工」公式プロセスデータ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── スカロップと平滑な側壁、深さ126 μm、73°の順テーパー、7.9 μm/min
- 大阪産業技術研究所「シリコン深掘り(DRIE)装置を使ったMEMS微細加工」技術シート No.18-18(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 保護工程とエッチング工程の役割分担、側壁角度90°±1°以内、最速5 μm/分、アスペクト比30以内、選択比、KOHやTMAHによる結晶方位依存の異方性エッチングとの対比、スカロップという節形状の呼び方
- 東京エレクトロン「クライオジェニックエッチング」公式ブログ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 極低温ブライン、深さ10 μm以上で従来比2.5倍、HFガスへの置換率、アスペクト比1対100と1対200、CF系ガスの温暖化係数