マイクロトレンチとは
マイクロトレンチとは、エッチングした溝や穴の底で、側壁のすぐ内側だけが幅の狭い溝のように余分に深く掘れる形状異常のことです。 日本の現場ではサブトレンチとも呼びます。
底の中央と底の角では、届くイオンの量に差が出ます。シースで加速されて垂直に落ちるイオンだけが底へ当たるなら、底は平らなまま下がります。実際のイオンは、途中で側壁に当たったり、パターンの中の帯電に曲げられたりします。
乱れの出どころは報告されています。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは、絶縁膜の微細ホールで穴の中間部が樽型に広がるボーイングを調べ、ホールを細くするほど、そこへ入るイオンの量に対して側壁へ膜が積もる速さが追いつかなくなると整理しています。守りの薄くなった側壁に、マスクの肩が削れたファセット部や入口が狭まったネッキング部で跳ね返ったイオンと、チャージアップで向きを変えたイオンが当たり、そこから横へ削れていくという見方です。同じ検討では、ボーイングが出る位置のアスペクト比がホール径によらず4でほぼ一定、側壁の堆積膜が切れる位置のアスペクト比が3でほぼ一定でした。UHF-ECRプラズマでAr/C₅F₈/O₂を使った検討です。
当たる先が動けば掘れる場所も動くので、イオンエネルギーを持った粒子の方向がそろうかどうかが形状異常の入口になります。散乱したイオンが当たる先が溝の底の角になった形が、マイクロトレンチにあたります。
底の角が残ると、ゲート絶縁膜が壊れます
Section titled “底の角が残ると、ゲート絶縁膜が壊れます”いちばん重いのは、パワーデバイスのトレンチゲートです。サムコの技術報告は、トレンチ底部に角が残ったままゲート電極を作ると、電圧をかけたときにそこへ電界が集まってゲート絶縁膜が壊れる問題があるとしています。そのため掘ったあとに1500℃前後のアニールをかけて底を丸める場合があり、同社はそのアニールを挟まずに底面のエッジを丸めるトレンチエッチングのプロセスを開発したと述べています。2019年1月の技術報告で、どちらもトレンチ幅1.3 μmのまま、通常エッチングの深さ1.9 μmとラウンドエッチングの深さ2.1 μmを断面で並べています。
デバイス側からも同じ話が出ています。サンケン電気の技報は、トレンチ型SiC-MOSFETについて、トレンチ底部へラウンディング加工を入れて電界の集中を抑え、ゲート酸化膜を絶縁破壊から守っていると報告しています。同じ素子では、狭セルピッチ化やNドリフト層の上へ置いた高濃度変調層などの手当てを積み上げて、面積オン抵抗3.5 mΩ・cm²に達したとも書いています。同社の開発品の値です。SiC MOSFETのトレンチ加工では、垂直に掘ることと底の角を丸めることを、同じレシピの中で両方やる形になります。
サムコの公式プロセスデータは、Φ6インチウエハのSiC MOSFETのトレンチゲート加工で、側面が平滑なまま、サブトレンチの出ない丸い底を実現したとし、深さ2 μm、レート450 nm/min以上、SiC/SiO₂の選択比5以上、Φ6インチ面内均一性±3パーセント以下を挙げています。ICPエッチング装置による加工例です。
圧力を下げすぎた場所に出ます
Section titled “圧力を下げすぎた場所に出ます”つまみとして最初に疑うのが圧力です。京都大学ナノテクノロジーハブ拠点の利用報告書には、村田製作所が6インチ基板でSi深堀りのハードマスクを作った結果が載っています。厚さ1.0 μmのTEOSを成膜し、開口幅2.0 μmのレジストで抜いてTEOSをドライエッチングしたところ、断面SEMではL/S=2.0/2.0 μm以下の寸法に大きめなサブトレンチが写り、原因は処理圧力の低圧化が過ぎたためと推測しています。2017年度の機器利用課題で、掘っている層はSi深堀り用のTEOSハードマスクです。
圧力を上げる側には、速度の代償が付きます。名古屋大学の林俊雄氏は、ガラスのエッチングではイオンが基板へ届く効率の良い0.2〜2 Paを使うとし、圧力が高いとイオンが基板へ着くまでに他の原子や分子とぶつかってエネルギーを落とし、エッチング速度が下がると述べています。2007年時点のMEMS加工の記述です。
保護膜の量でも動きます
Section titled “保護膜の量でも動きます”もう一つのつまみが側壁パッシベーションの量です。日立の同じ検討では、Ar流量が800 ml/minの場合にホール中間部の側壁で堆積が途切れ、500 ml/min、200 ml/minと低減することで側壁堆積量が増えました。電極温度については、低温度で付着係数が高い場合にアスペクト比3〜4で側壁保護膜の形成が途切れ、高温度化による側壁付着係数の低下に伴ってホール内部へラジカルが輸送されるとしています。Ar流量の最適化と電極温度の高温化を組み合わせて、ボーイング量は56.3 nmから15.2 nmへ下がりました。対象はボーイングですが、動かしているつまみは側壁の保護膜の量と、散乱したイオンが当たる場所です。
何を測り、何を差し出すのか
Section titled “何を測り、何を差し出すのか”測るのは断面です。京都大学ナノテクノロジーハブ拠点の報告は、断面SEM観察とトレンチ深さ測定を挙げています。断面観察で底の角の掘れ込みを拾い、面内の何点かで同じ形が出るかを追う流れになります。前節のサムコの公式データが挙げる面内均一性±3パーセント以下は、その面内の点をそろえた結果の側の数字です。
差し出すものは3方向あります。圧力を上げれば速度が落ちます。保護膜を増やす側へ振れば、名古屋大学の関根誠氏が装置技術の解説で挙げている、エッチング生成物の再吸着を抑えて速く掘るための高ガス流量(あるいは高速排気)とは逆へ動きます。アニールで丸める道を選べば、1500℃前後の熱バジェットを工程へ持ち込みます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”マイクロトレンチとは何ですか?
エッチングした溝や穴の底で、側壁のすぐ内側だけが幅の狭い溝のように余分に深く掘れる形状異常です。日本の現場ではサブトレンチとも呼びます。サムコはSiC MOSFETのトレンチゲート加工の公式プロセスデータで、側面が平滑で、底の角が丸く、サブトレンチの出ない形にできたとしています。
なぜ底の角だけ深く掘れるのですか?
向きの乱れたイオンが当たる先が、底の平らな面より角の側へ偏るためです。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏らは、絶縁膜の微細ホールで穴の中間部が樽型に広がるボーイングについて、マスクの肩が削れたファセット部や入口が狭まったネッキング部で跳ね返ったイオンと、チャージアップで向きを変えたイオンが側壁を削っていくと見ています。UHF-ECRプラズマでAr/C₅F₈/O₂を使った検討です。
どんな困りごとを招きますか?
パワーデバイスのトレンチゲートで、ゲート絶縁膜の破壊を招きます。サムコの技術報告は、トレンチ底部に角が残ったままゲート電極を作ると、電圧をかけたときにそこへ電界が集まってゲート絶縁膜が壊れるとしています。2019年1月の技術報告です。
どのつまみで動きますか?
圧力です。京都大学ナノテクノロジーハブ拠点の利用報告書では、村田製作所が6インチ基板でSi深堀り用のTEOSハードマスクを加工した際、L/S=2.0/2.0マイクロメートル以下の寸法に大きめなサブトレンチを断面SEMで捉え、原因を処理圧力の低圧化が過ぎたためと推測しています。2017年度の機器利用課題です。
圧力を上げれば済む話ですか?
速度を差し出します。名古屋大学の林俊雄氏は、ガラスのエッチングではイオンが基板へ届く効率の良い0.2〜2パスカルを使うとし、圧力が高いとイオンが基板へ着くまでに他の原子や分子とぶつかってエネルギーを落とし、エッチング速度が下がると述べています。2007年時点のMEMS加工の記述です。
何を測ると捉えられますか?
断面です。京都大学ナノテクノロジーハブ拠点の報告は、断面SEM観察とトレンチ深さ測定を挙げています。サムコの公式プロセスデータは、Φ6インチウエハのSiCトレンチ加工で面内均一性±3パーセント以下を挙げています。
アニールで丸めるのとエッチングで丸めるのは何が違いますか?
熱の予算です。サムコの技術報告は、掘ったあとに1500℃前後のアニールをかけて底を丸める場合があるとし、同社はそのアニールを挟まずに底面のエッジを丸めるトレンチエッチングのプロセスを開発したとしています。2019年1月の技術報告です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 側壁パッシベーションとは ── 守る側の膜そのものです。マイクロトレンチは、その守り方が底の角に返ってきた形です
- アスペクト比とは ── 深さと幅の比です。散乱したイオンの当たり方はこの比で変わります
- DRIE(深堀り反応性イオンエッチング)とは ── 掘る段と守る段を時分割にするやり方です
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- サムコ「SiCのトレンチエッチング」公式プロセスデータ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── サブトレンチレスのラウンド形状、深さ2 μm、レート450 nm/min以上、選択比5以上、面内均一性±3パーセント以下
- サムコ「トレンチ型SiC MOSFETの実現に向けた取り組み」Technical-Report(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 底部の角と電界集中の関係、1500℃前後のアニール、アニール工程を省いたラウンド化、通常とラウンド両条件のトレンチ幅1.3 μmと深さ1.9/2.1 μm
- サンケン電気「SiC-MOSFETの開発」技報(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── トレンチ底部のラウンディング加工によるゲート酸化膜の保護、狭セルピッチ化と高濃度変調層、面積オン抵抗3.5 mΩ・cm²
- 京都大学ナノテクノロジーハブ拠点「MEMSデバイス用Siドライエッチング加工 その1」利用報告書(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TEOSハードマスク加工でのL/S=2.0/2.0 μm以下のサブトレンチと、圧力の低圧化という推定原因、断面SEMとトレンチ深さという評価方法
- プラズマ・核融合学会誌「2. プラズマエッチング装置技術開発の経緯,課題と展望」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── エッチング生成物の再吸着を抑える高ガス流量あるいは高速排気という装置技術
- プラズマ・核融合学会誌「4. フルオロカーボンプラズマのエッチングメカニズム」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 反射とチャージアップで散乱したイオン、形が崩れる位置のアスペクト比4と堆積が途切れるアスペクト比3、Ar流量と電極温度の作用、ボーイング量56.3 nmから15.2 nm
- プラズマ・核融合学会誌「6. MEMS製造プロセスにおけるフルオロカーボンプラズマ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 0.2〜2 Paという圧力帯と、高圧側で速度が落ちる理由