マルチパターニングとは
マルチパターニングとは、1回の露光で届く細かさを超えるパターンを、同じ層へ複数回の工程に分けて作る技術の総称です。 SEAJの技術ロードマップは、複数回の工程でパターニングする技術を総称してマルチパターニングと呼ぶ、と記しています。
露光装置には解像限界があります。SEAJの2012年版リソグラフィ・ロードマップは、開口数1.30から1.35のArF液浸露光装置で生産に使える解像限界をハーフピッチ40nm付近、プロセス定数k1にして0.30とし、それより細かいパターンを作るにはダブルパターニングの技法を液浸露光へ組み合わせることが要る、としています。2012年版の記述です。
装置の側で解像度を上げる道は、波長を短くするか開口数を上げるかの二つです。同ロードマップは、純水を使った開口数1.35が当面のあいだ最高の開口数になる、と書いています。純水より屈折率の高い液体へ替えて開口数をさらに上げる検討は、2008年の段階で技術的な困難が多いと判明しました。
装置がそこで止まったあと、それより細かい線が要る世代には二つの道があります。作るのをあきらめるか、工程の回数で稼ぐかです。マルチパターニングは後者です。
現場で何が起きたかも、同ロードマップが数字で書いています。2011年の時点で、開口数1.35の液浸露光装置を使ってハーフピッチ40nm程度までのデバイスが量産され、同時にNANDフラッシュメモリなど一部のデバイス種では側壁ダブルパターニング技術と組み合わせてハーフピッチ20nm台の生産が行われていた、としています。露光装置はそのままで、工程の組み方だけで倍近い細かさへ届いています。
同じ層を、何回かに分けて作ります
Section titled “同じ層を、何回かに分けて作ります”東京エレクトロンはアニュアルレポート2018で、マルチパターニングを大きく二つに分けています。2018年の同社アニュアルレポートの記述です。
一つはリソ・エッチです。同じ層でリソグラフィとエッチングを繰り返す手法で、同社は、露光装置の解像能力に繰り返した回数を掛け合わせた解像能力に相当するパターニングが行える、としています。トランジスタと配線をつなぐコンタクトや配線間のビア、ラインを切るカットやスペースを埋めるブロックのように、フォトマスクのピッチを小さくする用途に向く、と記しています。
もう一つは自己整合型です。リソグラフィのあとに成膜とエッチングを繰り返す手法で、同社は、1回行うと通常のリソグラフィの2倍、2回行うと4倍の解像能力に相当するパターニングが行え、それぞれSADP、SAQPと呼ぶ、としています。ラインとスペースの繰り返しパターンのピッチを小さくする用途に向く、とも書いています。
JEITAのDFM用語集は、芯材として転写されたパターンの両側へ成膜とエッチングで新しいパターンを作りピッチを1/2にする技術を自己整合ダブルパターニングと記し、1回でSADP、2回繰り返して1/4ピッチにするとSAQP、3回繰り返して1/8ピッチにするとSAOPと呼ぶ、としています。
SEAJのロードマップも同じ分け方で、ダブルパターニング技術を「自己整合タイプ」と「パターン分割タイプ」に大別し、自己整合タイプが微細化の先行するNANDフラッシュメモリでいち早く量産採用され定着した技術である、と記しています。
現場が測るのは、重ね合わせと膜の厚みです
Section titled “現場が測るのは、重ね合わせと膜の厚みです”リソ・エッチ型で測るのは重ね合わせです。JEITAのDFM用語集は、LELEを露光とエッチングを繰り返してパターンを作る技術と記し、1回目の露光とエッチングで作ったパターンの間に2回目でパターンを作るため、通常のリソグラフィの解像限界より小さいピッチが作れる、としています。
ニコンは2008年のニュースリリースで、ダブルパターニングを開発するうえで最も大きな課題に重ね合わせ精度の向上を挙げています。同社は、最終的な重ね合わせ精度が2回の露光の重ね合わせ精度を足し合わせたものになるため、各露光への要求が従来の装置より大幅に厳しくなり、当時の要求値は約3〜4ナノメートルである、としています。2008年時点の同社の記述です。SEAJのロードマップは、その後の開発で重ね合わせ精度を2nm以下にする取り組みが進み、2012年の時点で単一の装置による重ねでは実現されている、と書いています。
自己整合型で測るのは、膜の厚みです。同ロードマップは、SADPを終えたあとのラインの寸法がほぼスペーサ材の成膜の制御性で決まる、としています。線の幅を左右するつまみが、露光量やフォーカスから成膜の厚みへ移ります。すき間の寸法のほうは、芯パターンの寸法、スペーサ材の膜厚、エッチング性能によって別々に動く、とも記しています。
さらに同ロードマップは、すき間の寸法を調整するうえで最も厄介なノイズ成分がスペーサパターン上のLER(ラインエッジラフネス)である、としています。SEAJの半導体製造装置用語集は、LERをパターン転写後、現像後、エッチング後のパターンエッジのラフネスと記し、ばらつきを3σ値で表記することが多い、としています。
差し出すのは、工程数と誤差です
Section titled “差し出すのは、工程数と誤差です”SEAJのロードマップは、従来の工程を分割して作ることが前提になるため、工程が複雑になりコストが上がる点を懸念材料に挙げ、エッチングや成膜の技術を駆使する手法である、としています。一方で、大掛かりな設備投資を伴わずに既存の装置を組み合わせるだけで微細なパターンが得られる点は大きな利点である、とも書いています。2012年版ロードマップの記述です。
誤差も積み上がります。東京エレクトロンは、リソグラフィとエッチングを一度だけ行う工程なら許容できるエラーでも、同じ層で複数回繰り返す工程では累積する、と述べています。同社は、EUVを使って同じ層のマスク枚数を減らせば重ね合わせのずれが小さくなり、歩留まりが上がると期待されている、としています。SEAJのロードマップも、マルチパターニングによる微細化への対応はコスト増大の問題が大きいため、EUVリソグラフィの実用化への期待が高い、と書いています。
自己整合型には、もう一つの代償があります。JEITAのDFM用語集は、芯材として転写されるパターンと最終的な回路パターンが異なるため、設計上高度な工夫が要る、と記しています。SEAJのロードマップも、マスクのパターンとウェーハ上に作られるパターンが異なるため、レイアウト設計を直観的に行うことが難しい、としています。
それでも、この手法は現役です。ニコンは公式の技術ページで、液浸露光方式やマルチプルパターニングを取り入れてArF露光装置の解像度を上げることで、10nm以下のプロセスノードまでの微細化を実現している、としています。同社はマルチプルパターニングを、露光を繰り返して回路の密集度を高める技術と記しています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”マルチパターニングとは何ですか?
1回の露光で届く細かさを超えるパターンを、同じ層へ複数回の工程に分けて作る技術の総称です。SEAJの技術ロードマップは、複数回の工程でパターニングする技術を総称してマルチパターニングと呼ぶ、と記しています。
なぜ必要になったのですか?
露光装置の解像限界に当たったためです。SEAJの2012年版ロードマップは、開口数1.30から1.35のArF液浸露光装置で生産に使える解像限界をハーフピッチ40nm付近とし、それより細かいパターンを作るにはダブルパターニングの技法を液浸露光へ組み合わせることが要る、としています。
どんな種類がありますか?
東京エレクトロンはアニュアルレポート2018で、同じ層でリソグラフィとエッチングを繰り返す「リソ・エッチ」と、リソグラフィのあとに成膜とエッチングを繰り返す「自己整合型」の二つに大きく分けています。SEAJのロードマップも、パターン分割タイプと自己整合タイプという同じ分け方をしています。
リソ・エッチ型でいちばん厳しい要求は何ですか?
重ね合わせ精度です。ニコンは2008年のニュースリリースで、最終的な重ね合わせ精度が2回の露光の重ね合わせ精度を足し合わせたものになるため、各露光への要求が従来の装置より大幅に厳しくなり、当時の要求値は約3〜4ナノメートルである、としています。2008年時点の同社の記述です。
自己整合型では何が線の幅を左右しますか?
成膜の厚みです。SEAJのロードマップは、SADPを終えたあとのラインの寸法がほぼスペーサ材の成膜の制御性で決まる、としています。すき間の寸法のほうは、芯パターンの寸法、スペーサ材の膜厚、エッチング性能によって別々に動く、とも記しています。
何を差し出すことになりますか?
工程数とコスト、そして誤差の累積です。SEAJのロードマップは工程が複雑になりコストが上がる点を懸念材料に挙げ、東京エレクトロンは、一度だけのリソグラフィとエッチングなら許容できるエラーでも同じ層で複数回繰り返す工程では累積する、と述べています。
EUVを使うと繰り返しの回数はどうなりますか?
減らせます。東京エレクトロンは、EUVを使って同じ層のマスク枚数を減らせば重ね合わせのずれが小さくなり、歩留まりが上がると期待されている、としています。SEAJのロードマップも、マルチパターニングによる微細化への対応はコスト増大の問題が大きいため、EUVリソグラフィの実用化への期待が高い、と書いています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- SADP(自己整合ダブルパターニング)とは ── 自己整合型の代表で、線の幅を膜の厚みで作る手法
- 液浸露光(ArF液浸)とは ── 装置の側で解像度を上げるほうの道
- EUV(極端紫外線)とは ── 波長を短くして繰り返しの回数を減らすほうの道
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- SEAJ 半導体製造装置技術ロードマップ「リソグラフィ」2012年版(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 液浸露光の解像限界とハーフピッチ40nm付近という値、2011年時点の量産状況、自己整合タイプとパターン分割タイプの分け方、成膜の制御性で線の寸法が決まること、LERとすき間の寸法、工程の複雑化とコスト上昇という懸念、重ね合わせ精度2nm以下の実現
- 東京エレクトロン「アニュアルレポート2018 半導体の進化を支える技術革新」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── リソ・エッチ型と自己整合型の分け方、それぞれが向く用途、1回で2倍・2回で4倍という解像能力、エラーの累積とEUVによるマスク枚数の削減
- JEITA「DFM用語集」2014年(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── SADP・SAQP・SAOPの定めとピッチの分割数、LELEの作り方、芯材のパターンと最終の回路パターンが異なること
- ニコン「ダブルパターニング対応、ニコンArF液浸スキャナーの開発について」2008年(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ダブルパターニングの中身、重ね合わせ精度が2回分の足し合わせになること、当時の要求値である約3〜4ナノメートル
- ニコン「露光から計測・検査まで」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── マルチプルパターニングの言い換えと、10nm以下のプロセスノードまでの微細化
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── LERの定めと3σ値での表記