液浸露光(ArF液浸)とは
液浸露光とは、レンズとウェーハの間に液体を満たして露光する方式です。 ArF光源では純水が使われ、実効的な開口数が上がるため解像度が改善します。
開口数は媒質の屈折率に比例します。レンズとウェーハの間が空気であれば、屈折率はおよそ1です。ここを屈折率の高い液体で満たせば、レンズを作り直さなくても実効的な開口数が上がります。波長を短くする以外の道で、解像度が改善します。
ニコンは公式技術ページで、屈折率1.00の空気のかわりに屈折率1.44の純水をレンズとシリコンウェーハの間へ満たし、光の波長を短縮して解像度を高める手法だと記述しています。SEAJの半導体製造装置用語集は同じことを数字で書き分けており、波長193nmでの水の屈折率をn=1.436、そこから得られる等価波長を134nm、実現するレンズ開口数を1.35としています。193nmの光を、光学系のなかだけ134nm相当として走らせる、という言い方が現場では通ります。
ArF光源では純水が使われます。この波長で吸収が小さく、屈折率が空気より高く、半導体工場が既に大量に使っている材料であることが理由です。新しい材料を持ち込まずに開口数を上げられる点が、実用化の決め手になりました。
代わりに、液体そのものに由来する課題が生まれます。気泡が入れば光路が乱れ、その部分のパターンが崩れます。液体がレジストの成分を溶かし出せば、それが汚染になります。ウェーハは露光中に高速で動くため、液体を漏らさず保持し続ける機構も要ります。
数字でどこまで動くのか
Section titled “数字でどこまで動くのか”同じメーカーの同じ光源で、ドライと液浸の仕様を比べると差の大きさが出ます。ニコンの半導体露光装置ラインアップでは、ArFドライのNSR-S333FとNSR-S322FがNA0.92で解像度≦65nm、ArF液浸のNSR-S636E、NSR-S635E、NSR-S625EがNA1.35で解像度≦38nmです。光源はどちらもArFエキシマレーザーの193nm、対応は300mmウェーハで、違いは媒質と光学系の側だけです。
波長を開口数で割った値は、193nm÷0.92で約210nm、193nm÷1.35で約143nmです(当サイトで計算)。ここへ各機の解像度を当てると、レイリーの式R=k1(λ/NA)のk1相当は約0.31と約0.27になります(同じく当サイトで計算)。装置1台の入れ替えで、係数を0.04ぶん物理限界へ近づけた規模の話です。SEAJはこの物理限界側の式も併記しており、焦点深度をDOF=k2(λ/NA²)としています。同じ形でλ/NA²を計算すると、NA0.92で約228nm、NA1.35で約106nmです(当サイトで計算)。焦点の合う高さの余裕が半分以下へ縮む前提で、平坦化と高さ制御を組み直すことになります。
NA1.35という数字は、光学系の作りへも跳ね返ります。SEAJは、NAが1.35になると屈折光学系のままでは大口径化でコストが増え、設計も難しくなるため、反射ミラーを一部組み込んだ反射屈折系がArF液浸露光装置で採用されたと記述しています。ニコンは投影レンズを20枚以上のレンズの組み合わせとし、全長が1m以上になると書いています。開口数を0.43ぶん上げる代金は、光学系の構成そのもので払われています。
生産側の数字も条件つきで公開されています。ニコンはNSR-S636Eの仕様として、縮小倍率1:4、最大露光領域26mm×33mm、同一機種間の重ね合わせ精度MMO≦2.1nm、スループット≧280枚/時(96ショット)を掲げています。280枚/時には96ショットという条件が付いており、1枚あたりのショット数が動けばスループットも動きます。報道資料では、現行機種比で総合的な生産性を10〜15%改善したこと、その内訳がスループット向上とダウンタイム低減であることを述べています。
水そのものが工程になる
Section titled “水そのものが工程になる”液浸で足された管理対象は、水の側にあります。機構としては、レジストと水の界面、ウェーハの縁、そして露光機とトラックのタクトの噛み合わせの3か所です。
ひとつめの界面について、SEAJはArF液浸レジストを、水に浸されたまま露光されるため、水とレジストのあいだへトップコート膜を挟むケースがあるレジストと記述し、トップコートを省く場合はレジスト組成の側で水の浸透を抑える作り込みをすると添えています。トップコートを付ければ界面の溶け出しの経路は減りますが、塗布とベーク、そして現像前の除去がトラック側へ1組増えます。省けばタクトと薬液は減り、そのぶんフォトレジスト材料の設計へ荷重が移ります。どちらを選んでも、界面の負担はトラックか材料のどちらかが引き受ける関係です。
ふたつめの縁について、SEAJはWEE(ウェハエッジ露光)を、レジストのスピン塗布後にウェーハを回転させながらエッジ部へシンナーを吐出し、レジストを溶解して除去する工程と記述しています。液浸では水がウェーハの縁まで回るため、塗布側で縁をどこまで整えたかが、そのまま露光の条件になります。
みっつめのタクトについては、トラック側の数字のほうが大きく取られています。SCREENはコータ・デベロッパDT-3000(SOKUDO DUO)を毎時450枚以上のデュアルトラックシステムとして掲げ、高価な露光機を常にウェーハを流している状態に保つことで高生産性を実現すると述べています。東京エレクトロンのCLEAN TRACK LITHIUSシリーズは、LITHIUS Pro DICEのインラインスループットを440wph、LITHIUS Pro Zを300wph、LITHIUS Pro Vを250wph、LITHIUS Proを200wphと公開しています。露光機側が≧280枚/時ですから、440wphや450枚/時のトラックは、数字のうえで露光機より先を走る側の構成です。
現場のつまみと、その両側
Section titled “現場のつまみと、その両側”開口数(ドライか液浸か) ── 上げれば単層で描ける寸法が≦65nmから≦38nmへ下がり、マルチパターニングの分割回数を削れます。下げればλ/NA²が約106nmから約228nmへ戻り、ウェハ平坦度と高さ制御の許容が倍以上になります。水の管理と反射屈折系のコストも要らなくなります。
トップコートの有無 ── 付ければ水とレジストの界面が隔てられ、溶け出しの経路が減ります。省けばトラックの塗布・ベーク・除去が1組減ってタクトと薬液が縮み、かわりに水の浸透を抑える作り込みがレジスト組成の側で要ります。
1枚あたりのショット数 ── 26mm×33mmの露光領域に対して小さいチップを多面取りする条件ではショット数が増え、96ショットで≧280枚/時という条件つきの数字からスループットは下側へ動きます。ショット数を減らせば枚/時は上側へ動きますが、1ショットへ載せるチップは大きくなります。SEAJは焦点位置精度を露光領域内の焦点位置のばらつきと記述しており、1ショットを広く使うほど、このばらつきを1個のチップが被る側へ動きます。
多点計測の点数(iAS) ── ニコンはNSR-S636EでiASの計測精度を上げ、ウェーハの反りや歪みをさらに細かく計測して補正し、MMO≦2.1nmを実現したと述べています。三次元デバイスのようにウェーハの変形が出やすい条件では、ここで差が付きます。点数を削ればタクトは縮みますが、補正の残りが重ね合わせへ回ります。ニコンはiASを、スループットを落とさず高速・高精度にウェーハを計測してグリッドエラーの補正を可能にする仕組みだと述べており、計測点数とスループットが本来どちらかを差し出す関係にあることが読み取れます。
ASMLは公式製品ページで、液浸システムが業界の主力であり、最先端のロジックおよびメモリチップの量産において生産性、結像性能、オーバーレイ性能で業界を先導していると述べ、ArF液浸のTWINSCAN NXT:2150iやNXT:2100iなどを掲載しています。ニコンも公式技術ページで、液浸露光とマルチパターニングを取り入れてArF露光装置の解像度を上げ、プロセスノードを10nm以下まで下げたと述べています。193nmという波長のまま10nm台のプロセスノードが回っているのは、開口数と照明条件と分割回数の3つを同時に絞り込んだ結果です。
EUVの光路は真空に保ちます。EUVはあらゆる物質へ強く吸収されるため、光路へ液体を入れた時点でウェーハまで届く光が失われます。EUVで開口数を上げる手段は、液浸のかわりに光学系そのものの作り直しになります。SEAJは高NA極端紫外線露光を、13.5nmの極端紫外線光を用いてレンズ開口数を0.33から0.55へ拡大した露光方法と記述しています。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 露光(EUV・DUV・NIL)の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- 超純水・排水処理の工程ページ ── 液浸に使う純水の供給側
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”液浸露光とは何ですか?
レンズとウェーハの間に液体を満たして露光する方式です。ArF光源では純水が使われます。液体の屈折率のぶん実効的な開口数が上がるため、同じ波長でも解像度が改善します。
なぜ液体を入れると解像度が上がるのですか?
開口数が媒質の屈折率に比例するためです。空気の屈折率をおよそ1とすると、純水はそれより高くなります。レンズとウェーハの間を屈折率の高い媒質で満たせば、同じレンズでも実効的な開口数が上がります。
なぜ純水を使うのですか?
ArFの波長で吸収が小さく、屈折率が高く、半導体工場が既に大量に使っている材料だからです。新しい材料を持ち込まずに開口数を上げられる点が大きな利点になります。
純水の屈折率と開口数はいくつですか?
SEAJの半導体製造装置用語集は、波長193nmでの水の屈折率をn=1.436、そこから得られる等価波長を134nm、実現するレンズ開口数を1.35としています。ニコンは公式技術ページで、空気の1.00に対して純水を1.44と記述しています。
ドライと液浸で解像度はどれだけ変わりますか?
ニコンの公式ラインアップでは、ArFドライのNSR-S333F/NSR-S322FがNA0.92で解像度≦65nm、ArF液浸のNSR-S636E/NSR-S635E/NSR-S625EがNA1.35で解像度≦38nmです。光源はどちらもArFエキシマレーザーの193nm、対応は300mmウェーハです。
液浸に固有の課題は何ですか?
液体そのものに由来する課題です。気泡が入れば光路が乱れ、その部分のパターンが崩れます。液体がレジストの成分を溶かし出せば汚染になります。ウェーハが動く間、液体を漏らさず保持し続ける機構も要ります。
トップコートは何のために付けますか?
水とレジストの界面を隔てるためです。SEAJは、ArF液浸レジストが水に浸されたまま露光されるため、水とレジストのあいだへトップコート膜を挟むケースがあり、トップコートを省く場合はレジスト組成の側で水の浸透を抑える作り込みをすると記述しています。
液浸は今も主力ですか?
主力です。ASMLは公式製品ページで、液浸システムが業界の主力であり、最先端のロジックおよびメモリチップの量産において生産性、結像性能、オーバーレイ性能で業界を先導していると述べています。
EUVでも液浸するのですか?
EUVの光路は真空に保ちます。EUVはあらゆる物質へ強く吸収されるため、光路へ液体を入れた時点でウェーハまで届く光が失われます。開口数を上げる手段も、液浸のかわりに光学系そのものの作り直しになります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- リソグラフィ工程 ── 工程としてのリソグラフィ
- High-NA EUVのパターニング課題 ── 開口数を上げる別の道
この記事の事実は次の一次資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- ASML「DUV lithography systems」公式製品ページ(2026年8月22日にリンク生存を実測、200)── 液浸システムが業界の主力であり、生産性、結像性能、オーバーレイ性能で業界を先導していること、TWINSCAN NXT:2150iやNXT:2100iの掲載
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 波長193nmでの水の屈折率n=1.436、等価波長134nm、レンズ開口数1.35、反射屈折系が採用された理由、レイリーの式R=k1(λ/NA)とDOF=k2(λ/NA²)、ArF液浸レジストのトップコート、WEEの中身、焦点位置精度の意味、高NA極端紫外線露光の開口数0.33から0.55
- ニコン「ArF液浸スキャナー「NSR-S636E」を発売」報道資料(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 解像度≦38nm、NA1.35、ArFエキシマレーザー193nm、縮小倍率1:4、最大露光領域26mm×33mm、MMO≦2.1nm、スループット≧280枚/時(96ショット)、現行機種比で生産性10〜15%改善、iASの役割
- ニコン「NSR-S636E 仕様」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 同機の仕様表の各値
- ニコン「半導体露光装置 ラインアップ」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ArFドライNSR-S333F/S322FのNA0.92と解像度≦65nm、ArF液浸NSR-S636E/S635E/S625EのNA1.35と解像度≦38nm、いずれも300mmウェーハ対応
- ニコン「露光から計測・検査まで」公式技術ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 空気の屈折率1.00と純水1.44、投影レンズが20枚以上で全長1m以上、液浸とマルチパターニングでプロセスノードを10nm以下まで下げたこと
- SCREEN セミコンダクターソリューションズ「DT-3000(SOKUDO DUO)」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 毎時450枚以上のデュアルトラックシステム、露光機を常にウェーハを流している状態に保つ運用
- 東京エレクトロン「コータ/デベロッパ LITHIUSシリーズ」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── LITHIUS Pro DICEのインライン440wph、Pro Zの300wph、Pro Vの250wph、Proの200wph