開口数(NA)とは
NA(Numerical Aperture、開口数)とは、レンズがどれだけ広い角度の光を取り込めるかを表す値です。 値が大きいほど細かいパターンを分離します。
パターンを描くとき、マスクを通った光は回折して広がります。広がった光をどこまで拾い集められるかで、再現できる細かさが決まります。広い角度まで拾えるレンズほど、元のパターンに近い像を作れます。この能力を数値にしたものが開口数です。SEAJの半導体製造装置用語集も開口数を、光学系が光を集められる範囲を示す値とし、大きいほど広範囲に光を集められるため分解能も上がると記述しています。
解像できる寸法は、波長を開口数で割った値に比例します。したがって細かいパターンを描くには、波長を短くするか、開口数を上げるかの2通りがあります。露光技術の歴史は、この2つを交互に改善してきた歴史にあたります。同用語集はこの関係をレイリーの式R=k1(λ/NA)として掲げ、k1をプロセス定数としています。
代償は焦点深度です。開口数を上げると、焦点が合う高さの範囲が狭くなります。ウェーハの表面には下の層の凹凸、膜の厚みのばらつき、装置の保持のわずかな傾きが積み重なります。焦点深度が狭いほど、これらの許容量が小さくなります。CMPによる平坦化への要求が厳しくなる理由がここにあります。同用語集は焦点深度の側もDOF=k2(λ/NA²)として書き分けており、解像度が開口数の1乗で、焦点深度が2乗で動くという非対称がここに出ています。
実機5水準で、何がどれだけ動くのか
Section titled “実機5水準で、何がどれだけ動くのか”開口数の話は、1社のラインアップを開口数の順でたどると数字になります。ニコンの半導体露光装置ラインアップは、i線ステッパーのNSR-2205iL1をNA0.45で解像度≦350nm(150/200mmウェーハ対応)、i線のNSR-SF155をNA0.62で≦280nm(200/300mm)、KrFスキャナーのNSR-S220DとNSR-S215DをNA0.82で≦110nm、ArFドライのNSR-S333FとNSR-S322FをNA0.92で≦65nm、ArF液浸のNSR-S636EとNSR-S635EとNSR-S625EをNA1.35で≦38nmとしています。光源の波長は、ニコンの公式技術ページでi線が365nm、KrFが248nm、ArFが193nmです。
この5水準へレイリーの式を当てると、k1相当が出ます。解像度÷(λ/NA)で、NA0.45が約0.43、NA0.62が約0.48、NA0.82が約0.36、NA0.92が約0.31、NA1.35が約0.27です(いずれも当サイトで計算)。ASMLは公式技術ページでリソグラフィの物理限界をk1=0.25としており、ArF液浸の約0.27は限界の手前です。i線世代の0.43から液浸世代の0.27まで、係数のほうも並行して削られてきたことが読み取れます。
焦点側も同じ5水準で計算します。同じ式の形でλ/NA²を取ると、NA0.45で約1802nm、NA0.62で約950nm、NA0.82で約369nm、NA0.92で約228nm、NA1.35で約106nmです(いずれも当サイトで計算)。解像度は≦350nmから≦38nmへ約9分の1になり、焦点の余裕は約17分の1になります。得るものより、差し出すもののほうが速く減ります。 この差が、CMPとウェハ平坦度への要求が世代ごとに厳しくなってきた理由です。
厚膜側では、この式が逆向きにも使われています。東京応化工業はバンプ形成用レジストのPMER P-BKシリーズについて、レジスト膜厚20μm〜65μmという条件で露光をNA0.18のi線ステッパーとしています。同じ式の形でλ/NA²を取ると、NA0.18では約11μmです(当サイトで計算)。μmオーダーの厚膜を一度に抜く工程では、解像度より焦点の余裕を桁で確保する側が選ばれている、と読めます。開口数には、下げる側の使い方もあります。
開口数を上げる2つの方法
Section titled “開口数を上げる2つの方法”1つは液浸です。開口数は媒質の屈折率に比例するため、レンズとウェーハの間へ空気より屈折率の高い液体を入れると、実効的な開口数が上がります。ASMLはDUVの公式製品ページで、液浸システムが業界の主力であると述べています。SEAJは数字で書き分けており、波長193nmでの水の屈折率をn=1.436、そこから得られる等価波長を134nm、実現するレンズ開口数を1.35としています。同用語集は、NAが1.35になると屈折光学系のままでは大口径化でコストが増え、設計も難しくなるため、反射ミラーを一部組み込んだ反射屈折系が採用されたとも記述しています。開口数を1を超えて上げるには、光学系の構成そのものを組み替えることになります。
もう1つは光学系そのものを作り直すことです。ASMLはEUVの公式製品ページで、EUVリソグラフィの次世代技術がHigh NA(高開口数)と呼ばれ、開口数0.55の新しい光学系が13.5nmのEUV光源を用いてより高いコントラストを与え、わずか8nmの解像度で描画できると述べています。SEAJも高NA極端紫外線露光を、13.5nmの光を用いてレンズ開口数を0.33から0.55へ拡大した露光方法と記述しています。
High-NAで露光面積が半分になる理由
Section titled “High-NAで露光面積が半分になる理由”EUV側でも代金は焦点深度で払います。同じ式の形でλ/NA²を取ると、NA0.33で約124nm、NA0.55で約44.6nmです(当サイトで計算)。開口数を1.67倍にした代わりに、焦点の余裕は約2.8分の1です。
代金はもう1つあります。SEAJはアナモルフィック投影光学系を、高NA(0.55)EUV露光でスキャン方向の倍率が×8、スキャンに垂直な方向の倍率が×4という、方向で倍率の異なる反射投影光学系と記述しています。EUV光が角度を持って多層膜反射マスクへ当たるため反射回折光も広がり、×4倍率のままでは微細寸法で広がりが大きくなって多層膜の反射率低下と回折光の捕捉困難を招くこと、倍率を×8へ上げると回折角度が減ってこれを解消できることを述べています。ただし従来と同じ6インチマスクを使う場合、ウェーハ上の露光面積は半分になると添えています。ニコンがArF液浸の最大露光領域を26mm×33mmとしている点と合わせると、半分のフィールドは26mm×16.5mm相当です(当サイトで計算)。1枚のチップが1ショットへ収まらなくなれば、ショットをつなぐ縫い目の重ね合わせが新しい管理対象になります。
現場のつまみと、その両側
Section titled “現場のつまみと、その両側”開口数 ── 上げれば解像できる寸法が下がります。NA0.92からNA1.35で≦65nmから≦38nmです。下げれば焦点の余裕がλ/NA²で約228nmから約1802nmまで戻り、ウェハ平坦度と高さ制御の許容が桁で広がります。厚膜レジストを抜く工程がNA0.18を選ぶのは、この方向のつまみです。
波長 ── 短くすれば同じ開口数でも解像度が上がります。365nmから193nmで、λ/NAは同じNA0.92換算でも大きく縮みます。ただしASMLは公式技術ページで、波長を短くすることが新しい光源を備えた装置に加えて新しい光学材料とレジスト材料と新しいプロセスをまとめて要する大きな技術転換にあたると記述しています。動かす代金がいちばん大きいつまみです。
k1(照明条件とマスク側の作り込み) ── 下げれば装置を替えずに解像度が上がります。SEAJは解像性向上手法として斜入射照明、位相シフト、SMO、高解像レジストの採用を挙げています。かわりにマスク側の負担が増えます。同用語集はMEEFを、マスク上の寸法誤差がウェーハ上で拡大される比率としており、k1を削るほどマスクの寸法誤差が拡大されます。上げればプロセスウィンドウは広がりますが、解像度を捨てることになります。
フィールドの使い方 ── 26mm×33mmを広く使えば1枚あたりのショット数が減ってスループットが上がります。SEAJは焦点位置精度を露光領域内の焦点位置のばらつきと記述しており、広く使うほどこのばらつきを1個のチップが被ります。High-NAで露光面積が半分になる場合は、この選択が強制されます。
平坦化の作り込み ── CMPで凹凸を削れば、狭い焦点深度でも枠に収まります。削り込みを緩めれば工程は軽くなりますが、焦点の余裕を先に食います。SEAJはプロセスウィンドウを、寸法の±10%のスペックを満たす焦点深度と露光量裕度で取ることが多いと記述しており、平坦化で残した余裕がそのままこの枠の広さになります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 露光(EUV・DUV・NIL)の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- CMP(平坦化)の工程ページ ── 焦点深度を支える平坦化
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”開口数とは何ですか?
NA(Numerical Aperture、開口数)は、レンズがどれだけ広い角度の光を取り込めるかを表す値です。値が大きいほど広い角度の光を集められ、細かいパターンを分離します。
解像度とはどう関係しますか?
解像できる寸法は、波長を開口数で割った値に比例します。SEAJはこれをレイリーの式R=k1(λ/NA)として掲げ、k1をプロセス定数としています。したがって、波長を短くするか開口数を上げれば、より細かいパターンを描けます。
開口数を上げると何が悪くなりますか?
焦点深度が狭くなります。SEAJは焦点深度をDOF=k2(λ/NA²)としており、開口数の2乗で減ります。焦点が合う範囲が狭くなるため、ウェーハ表面のわずかな高さの違いでもパターンがぼけます。平坦化と装置の高さ制御への要求が厳しくなります。
実機の開口数はどれくらいの幅がありますか?
ニコンの公式ラインアップでは、i線ステッパーのNSR-2205iL1がNA0.45で解像度≦350nm、NSR-SF155がNA0.62で≦280nm、KrFスキャナーのNSR-S220DがNA0.82で≦110nm、ArFドライのNSR-S322FがNA0.92で≦65nm、ArF液浸のNSR-S636EがNA1.35で≦38nmです。
液浸はどう開口数を上げるのですか?
レンズとウェーハの間に液体を入れます。開口数は媒質の屈折率に比例するため、空気より屈折率の高い液体を入れると実効的な開口数が上がります。SEAJは波長193nmでの水の屈折率をn=1.436、等価波長を134nm、実現するレンズ開口数を1.35としています。
High-NA EUVの開口数はいくつですか?
ASMLは公式製品ページで、High NAが開口数0.55の光学系を用いること、13.5nmのEUV光源とあわせてより高いコントラストを与え、8nmの解像度で描画できることを述べています。SEAJも従来の0.33から0.55へ拡大した露光方法と記述しています。
k1はどこまで下げられますか?
ASMLは公式技術ページで、リソグラフィの物理限界をk1=0.25としています。ニコンのArF液浸の解像度≦38nmとNA1.35から逆算したk1相当は約0.27で(当サイトで計算)、この限界の近くまで来ています。
なぜ焦点深度が問題になるのですか?
ウェーハの表面にわずかな起伏があるためです。下の層の凹凸、膜の厚みのばらつき、装置の保持のわずかな傾きが積み重なります。焦点深度が狭いほど、これらの許容量が小さくなります。
厚膜のレジストで開口数を下げるのはなぜですか?
焦点の余裕を稼ぐためです。東京応化工業はレジスト膜厚20μm〜65μmのPMER P-BKシリーズの露光条件に、NA0.18のi線ステッパーを挙げています。同じ式の形でλ/NA²を計算するとNA0.18では約11μmになり、厚膜と釣り合う桁になります(当サイトで計算)。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- High-NA EUVのパターニング課題 ── High-NAの実装課題
- リソグラフィ工程 ── 工程としてのリソグラフィ
この記事の事実は次の一次資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- ASML「EUV lithography systems」公式製品ページ(2026年8月22日にリンク生存を実測、200)── High NAが開口数0.55の光学系を用いること、13.5nmのEUV光源とあわせて8nmの解像度で描画できること
- ASML「DUV lithography systems」公式製品ページ(2026年8月22日にリンク生存を実測、200)── 液浸システムが業界の主力であること
- ASML「The Rayleigh criterion」公式技術ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── リソグラフィの物理限界がk1=0.25であること、波長を短くする転換が新しい光源の装置に加えて新しい光学・レジスト材料と新しいプロセスを要すること
- ニコン「半導体露光装置 ラインアップ」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── NSR-2205iL1のNA0.45と解像度≦350nm、NSR-SF155のNA0.62と≦280nm、NSR-S220D/S215DのNA0.82と≦110nm、NSR-S333F/S322FのNA0.92と≦65nm、NSR-S636E/S635E/S625EのNA1.35と≦38nm、各機の対応ウェーハサイズ
- ニコン「露光から計測・検査まで」公式技術ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── i線365nm、KrF248nm、ArF193nmという光源の波長、投影レンズが20枚以上で全長1m以上、空気1.00と純水1.44の屈折率
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 開口数の意味、レイリーの式R=k1(λ/NA)とDOF=k2(λ/NA²)、水の屈折率n=1.436と等価波長134nmとNA1.35、反射屈折系が採用された理由、高NA極端紫外線露光の0.33から0.55、アナモルフィック投影光学系の×8/×4と露光面積が半分になること、解像性向上手法の内容、MEEFの意味、焦点位置精度とプロセスウィンドウの±10%
- 東京応化工業「バンプ形成用レジスト」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── レジスト膜厚20μm〜65μmのPMER P-BKシリーズの露光条件がNA0.18のi線ステッパーであること