サイドウォールスペーサとは
サイドウォールスペーサとは、ゲート電極の側面に残した絶縁膜の壁です。 日本半導体歴史館は、絶縁膜のCVDと異方性ドライエッチングを続けて行うことでサイドウォールスペーサを作り、その壁をイオン打ち込みのマスクとして使うと記しています。
トランジスタの断面図では、ゲート電極の両側に、小さな三角形の壁が付いています。この壁は絶縁体です。役目は回路の中よりも、作る途中にあります。
ゲートの横に何かを作るとき、場所の決め方は二つあります。露光で位置を合わせるか、ゲートそのものを基準にするかです。前者では露光の合わせ誤差がそのまま寸法に乗ります。サイドウォールスペーサは後者を選びます。ゲートの横に膜を付けて削るだけで済み、場所を左右するのはゲートの形そのものです。
「削り残し」を、わざと残しています
Section titled “「削り残し」を、わざと残しています”作り方は三段です。まず絶縁膜をウェーハ全体に一様にかぶせます。膜はゲートの上にも、ゲートの横にも、平らな面にも、同じ厚さで回り込みます。次に、上から真下の方向だけを削る異方性エッチングをかけます。平らな面の膜は削り切れて消えます。ところが、段差の角だけは膜が厚みを保ちます。
なぜ残るのかを、SEAJの技術ロードマップが別の文脈で書いています。同資料は、下地の段差に沿って残るエッチング残渣をストリンガと呼び、段差の部分では縦方向の膜厚が厚くなるため、異方性エッチングのオーバーエッチングが不足すると起こりやすいとしています。2012年版の用語欄の記述です。
角では膜が厚いので、同じだけ削っても厚みが余ります。サイドウォールスペーサにも、この同じ幾何が働いています。ふつうは歩留まりを下げる困りものですが、こちらはそれを設計として使います。削り残しを、消すかわりに寸法として使う構造です。
どの工程で作られるのか
Section titled “どの工程で作られるのか”膜を付ける工程と削る工程が続きます。日本半導体歴史館は、MOSFETのゲート電極を加工した後に低濃度のドレイン層のイオン注入を行い、クラスターツールで絶縁膜のCVDと異方性ドライエッチングを続けて行ってサイドウォールスペーサを作り、その後スペーサをマスクとして高濃度のドレイン層を作ってLDDを形成する、という流れを挙げています。1980年代後半に本格化したクラスターツールの用例としての記述です。
膜そのものについては、SEAJの技術ロードマップが、スペーサ用のSiN膜にSiH2Cl2とNH3系のLPCVDが主に使われるとしています。同資料は材料の変遷にも触れ、長くSiO2が使われてきたものの、サリサイドプロセスとの整合性などの理由でSiNやSiNとSiO2の組み合わせが使われるようになったと述べています。2012年版の記述です。
一つの壁が引き受けている三つの役
Section titled “一つの壁が引き受けている三つの役”打ち分ける役があります。 電子情報通信学会の知識ベースは、LDDプロセスでは、ゲート電極を削った後に1平方センチあたり10の13乗から14乗個台という低いドーズ量で注入し、サイドウォールを作ってから10の15乗個台の高いドーズ量で注入して活性化の熱処理を行う、と記しています。壁の厚みのぶんだけ、濃い層がゲートから離れます。キオクシアの信頼性ハンドブックは、この構造ではドレイン近くの電界の集中が小さくなるため、ホットキャリアの発生を減らせるとしています。同社の公開資料の記述です。
切り分ける役があります。 日本半導体歴史館は、サリサイド技術を、金属を積んで熱処理し、表面に出ているシリコンとだけ反応させて金属シリサイドを作り、絶縁膜の上の金属は取り除く技術としています。反応するのはシリコンが露出しているところだけなので、ゲートの上とソースやドレインの上に、シリサイドが同時に育ちます。両者を切り離しているのは、あいだに立つ絶縁膜の壁です。
隠す役があります。 SEAJの技術ロードマップは、ソースとドレインのイオン注入のときにメタルゲートの側壁があるため、電極のTiNが露出する危険は無いと考えられるとしたうえで、側壁が不完全でピンホールがあるとTiNが薬液でエッチングされ、デバイス特性の劣化を招くと述べています。壁は、注入と洗浄のあいだ、ゲートの側面を物理的に覆っています。
作るうえでの取引
Section titled “作るうえでの取引”差し出すものは二つあります。
一つは容量です。ゲートとソースやドレインのあいだに絶縁体が挟まっていれば、そこに容量が生まれます。SEAJの技術ロードマップは、微細化が進んでソースとドレインを持ち上げた構造になると、ゲートと拡散層のあいだの寄生容量が増える方向になるため、その抑制のためにLow-k膜の使用も検討されると述べています。同資料は、層間膜に使われているLow-k膜では耐熱性や耐エッチング性、絶縁性、被覆性が足りず、そのままでは使える見込みが小さいとも書いています。2012年版の見通しです。
もう一つは、この壁自体が痩せることです。同資料は、膜が減る現象がトランジスタのソースとドレインの領域や、ゲート側壁のスペーサ層などで問題になるとしています。さらに、LDDのイオン注入の後にレジストを剥離するとき、1回あたりに許されるシリコンや酸化膜の目減りが0.1Å以下という水準で求められる場合があるとも述べています。品種やメーカーで要求の水準は変わります。壁は削られる場所に立ちながら、厚みを保つ役を負い続けます。
前工程の構造は、たいてい完成したチップの中で働くために作られます。サイドウォールスペーサは少し立ち位置が違い、そこに立っていること自体が寸法になっています。だからこの壁を薄くするときは、性能に加えて、注入とシリサイドと洗浄という三つの工程を、いちどに触ることになります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”サイドウォールスペーサとは何ですか?
ゲート電極の側面に残した絶縁膜の壁です。日本半導体歴史館は、絶縁膜のCVDと異方性ドライエッチングを続けて行うことでサイドウォールスペーサを作れると記しています。
何のために作るのですか?
濃いイオン注入をゲートから遠ざけるため、シリサイドを切り分けるため、注入や薬液からゲートの側面を守るためです。一つの壁が複数の役を引き受けています。
どうやって作るのですか?
ゲートの上から絶縁膜を一様にかぶせ、上から真下だけを削る異方性エッチングをかけます。平らな面の膜は削り切れますが、段差の角では縦に見た膜が厚いため、そこだけが壁として立ちます。
LDDとは何ですか?
ソースとドレインを、濃さの異なる二段構えで作る構造です。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲートを削った後に1平方センチあたり10の13乗から14乗個台の低いドーズ量で注入し、サイドウォールを作ってから10の15乗個台の高いドーズ量で注入する、と記しています。
なぜ濃さを分けるのですか?
キオクシアの信頼性ハンドブックは、LDD構造ではドレイン近くの電界の集中が小さくなるため、ホットキャリアの発生を減らせると記しています。
材料は何ですか?
SEAJの技術ロードマップは、長くSiO2が使われてきたものの、サリサイドプロセスとの整合性などの理由でSiNやSiNとSiO2の組み合わせが使われるようになったとしています。同資料はスペーサ用のSiN膜にSiH2Cl2とNH3系のLPCVDが主に使われるとも述べています。
作るうえでの代償は何ですか?
ゲートと拡散層のあいだの寄生容量が増えることと、洗浄で削れると役に立たなくなることです。SEAJの技術ロードマップは、膜が減る現象がゲート側壁のスペーサ層などで問題になるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 電子情報通信学会 知識ベース「集積回路プロセス技術概論」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── LDDプロセスの低ドーズと高ドーズの注入量と順序
- 日本半導体歴史館「枚葉クラスターツール」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 絶縁膜のCVDと異方性ドライエッチングを続けてスペーサを作り、注入のマスクとして使う流れ
- 日本半導体歴史館「シャロージャンクション・シリサイドソース/ドレイン技術の使用」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 露出したシリコンとだけ反応させ、絶縁膜の上の金属を取り除くサリサイドの原理
- SEAJ 半導体製造装置技術ロードマップ「ウェーハプロセス」2012年版(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ストリンガの定め方、スペーサの材料の変遷とSiN膜の作り方、寄生容量とLow-k膜の検討、膜減りとメタルゲート露出のリスク、レジスト剥離で許される目減り
- キオクシア「信頼性ハンドブック」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── LDD構造でドレイン近くの電界集中が小さくなり、ホットキャリアの発生が減ること