NILS(規格化像ログスロープ)とは
NILSとは、露光の像がパターンのエッジでどれだけ急に立ち上がっているかを、光強度とパターン幅で割り、どの寸法のパターンでも同じ物差しで比べられる1つの数へ直した指標です。
日本半導体製造装置協会(SEAJ)の半導体製造装置用語集は、NILSをリソグラフィで像の質を定量的に表す指標と位置づけ、パターンエッジでの像の傾きを、まず光強度で割り、続いてパターン幅で割った値としています。光強度の対数値の傾きに相当し、パターン寸法が異なる場合でも像の質を定量的に表現できるとしています。
同じ用語集には、割る前のILS(イメージ・ログ・スロープ)も別項目で並びます。パターンのエッジ付近の光学コントラストを対数で表したものとし、値が大きいほど解像性が良くなってLWRも小さくなるとしています。NILSはそのILSをパターン幅で割った値です。40ナノメートルの線と200ナノメートルの線を同じ物差しへ載せられるのは、この割り算があるためです。
現場で使う意味はこうです。レジストは、ある光強度を超えたところが溶けます。像の傾きが立っていれば、しきい値が少し上下してもエッジはほぼ同じ場所にとどまります。寝ていれば、同じ揺れでエッジが大きく動きます。CDの平均値は露光量で合わせられますが、揺れに対する鈍さのほうは像の傾きが左右します。
寸法が合っていても、裾が揺れます
Section titled “寸法が合っていても、裾が揺れます”同じ用語集は、レジストライン幅ラフネス(LWR)を露光と現像の後に出るレジストライン幅のラフネスとし、光コントラストが低いと値が大きくなるとしています。裾引きの量は3σで表記することが多いとしています。ローカルCD均一性(LCDU、同じ露光ショット内の局所的なばらつき)については、解像限界の近くで3つに左右されるとしています。レジスト成分の散らばり方、光子の数にあたる露光ドーズ量、そして露光装置のNAで決まる光学コントラストです。
像の傾きが寝ると、CDの平均は目標に乗ったまま3σだけが膨らみます。CD均一性バジェットの表では、露光の欄がひとりで太る形になります。
同じ用語集は確率的影響についても、パターンが細くなるにつれて光子数の揺らぎ、レジスト構成材料の均一性の崩れ、露光装置のコントラストの落ち込みが重なり、パターン欠陥が確率で決まる形で出る現象としています。3つの原因のうち1つが像のコントラストです。確率的欠陥のブリッジや断線は、像の傾きが寝た層から先に出ます。
実測できる3つの数字へ置き換えます
Section titled “実測できる3つの数字へ置き換えます”NILSは像の側の量で、シミュレータの出力として得ます。ウェハ上へ出てくるのは、像が刻んだあとの寸法とラフネスです。
同じ用語集は、プロセスウィンドウをCDフォーカスカーブから寸法のスペック上下限に対応する露光量とフォーカスをプロットしたときのフォーカスマージンと露光量マージンのこととし、寸法の±10パーセントを満たす焦点深度(DOF)と露光量裕度(EL)で表す例を挙げています。露光量裕度は、ベストフォーカスでの露光量の余裕をターゲット露光量に対する百分率で表したものです。
像の傾きが寝れば、同じ±10パーセントの窓を通れる露光量の幅が狭まります。ELの数字が縮み、DOFも縮みます。CD-SEMで測るLWRの3σと、フォーカス露光量マトリクスから出るELとDOFが、NILSの代わりに追う3つの数字です。詳しい手順はプロセスウィンドウと焦点深度のページに書きました。
像そのものはシミュレータで出します。リソテックジャパンの公開資料は、露光・露光後ベーク・現像をPC上で再現する技法を示し、出力としてDOFのほかに空中像強度対数勾配(NILS)を求められるとしています。同資料は、NILSが光強度のコントラストにあたるものだとし、最大解像度を得るNAとσの条件はNILSが最大となる条件だと述べています。
つまみは像の側とレジストの側に並びます
Section titled “つまみは像の側とレジストの側に並びます”同資料のシミュレーション例では、NAとσを振ったとき、DOFを最大にする条件がNA0.5・σ0.8(露光量180ミリジュール毎平方センチメートルでDOFは1.215マイクロメートル)、NILSを最大にする条件がNA0.69・σ0.30です。同社の計算例です。同じ材料を前提にしても、DOFの山とNILSの山は別の場所に立ちます。 σを絞ればNILSは上がり、DOFは下がります。照明条件を層ごとに作り分ける理由の1つがここにあります。
マスク側にもつまみがあります。SEAJの用語集は位相シフトマスクを、マスク吸収体と基板間の位相や透過率を変えることで光学コントラストを改善し、解像性と焦点深度を増やして転写特性を向上させたフォトマスクとしています。像の側でNILSを稼ぐ道です。代わりにフォトマスクの構造が増え、MEEFの欄が動きます。
レジストの側は露光量です。JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会の平成21年度報告は、LER・LWRを解決する手段が単純には露光量の増大だとし、図表には単純なショットノイズの考え方でLERが露光量の平方根の逆数に比例するという関係を添えています。露光量を4倍にしてLERが半分という勘定で、この換算はこちらで計算しました。2009年度時点の報告です。
同じ報告は、EUV露光では10ミリジュール毎平方センチメートル以下の高感度レジストが切望される一方、解像度・LER/LWR・感度の3つを同時に満たすことがRLSトレードオフと呼ばれる課題だとしています。さらに、化学増幅型レジストの酸拡散に伴うボケ(Resist Blur)で潜像と現像後のレジスト像の差が大きくなるとし、これを解像力の劣化と述べ、その低減には感度の低下が伴う見通しだとしています。像の側でNILSを稼いでも、レジストの中でぼける分が上乗せされます。
JEITAの平成19年度報告がリソグラフィの困難な挑戦として並べた一覧には、3σで3ナノメートル未満のLWR、10ミリジュール毎平方センチメートル未満の感度、40ナノメートル未満のハーフピッチ解像力を1つの材料へ同時に求める行があります。2007年度時点の要求です。
フレアと収差は、像の谷を下から埋めます
Section titled “フレアと収差は、像の谷を下から埋めます”SEAJの半導体製造装置技術ロードマップ(リソグラフィ)2012年版は、ミラーの中間空間周波数帯の粗さによってフレアが生じ、線幅の制御性へ影響するとしています。フレア量は波長の二乗の逆数に比例するため、EUVリソグラフィのフレアは従来の光リソグラフィより多くなるとしています。同ロードマップは、光学フレア量がArF・KrFで1パーセント以下にとどまるのに対し、EUVでは10パーセント前後になると予想されているとも述べています。2012年時点の見通しです。
フレアは像の暗い側へ一様な光を足します。谷が持ち上がるので山と谷の差が縮み、エッジでの傾きが寝ます。同じことが収差でも起きます。投影レンズ収差は理想の結像からのずれで、点がにじんだ分だけ傾きが失われます。
東芝レビューの記事は、解像度の式に入るk1を、レジスト材料のコントラストを含むリソグラフィ側のプロセス性能をまとめて表す定数とし、NAND型フラッシュメモリのレジストプロセスを考慮するとk1を0.3以下にすることは困難だとしています。同社の2012年の記述です。像の傾きとレジストの応答は、k1という1つの係数の中で足し合わされます。
何を差し出すのか
Section titled “何を差し出すのか”σを絞れば像は立ちますが、焦点深度が縮んでウェハ平坦度とベーク板の要求が厳しくなります。露光量を積めばばらつきは締まりますが、1枚あたりの露光時間が延びます。
感度を下げる道の代償は、光源へ回ります。SEAJの2012年版ロードマップは、EUVで毎時100枚以上のウェハスループットを実現するための集光点出力の試算がレジスト感度5ミリジュール毎平方センチメートルを前提としていたものの、その実現が難しいことから光源パワーの要求値が180ワット、さらに200ワットへ上方修正されたとしています。同ロードマップは、将来的に500ワットを超える可能性もあるとしています。2012年時点の試算です。
どのつまみも底を打ったときは、層を分ける側へ回ります。マルチパターニングは1つの層を複数回の露光で作り、1回あたりのNILSの要求を下げます。代わりに露光の回数と重ね合わせの予算が増えます。光源マスク最適化とOPCは、計算の時間を差し出して像の傾きを買う手段です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”NILSとは何ですか?
露光の像がパターンのエッジでどれだけ急に立ち上がっているかを表す指標です。SEAJの用語集は、パターンエッジでの像の傾きを、まず光強度で割り、続いてパターン幅で割った値としています。光強度の対数値の傾きに相当します。
ILSとの関係はどうなりますか?
パターン幅で割るかどうかの差です。SEAJの用語集はILSを、パターンのエッジ付近の光学コントラストを対数で表したものとし、値が大きいほど解像性が良くなってLWRも小さくなるとしています。NILSはそのILSをパターン幅で割った値なので、寸法の異なるパターンどうしを同じ物差しで比べられます。
値が下がると現場で何が起きますか?
CDの平均は露光量で合わせられますが、ばらつきの3σが膨らみます。SEAJの用語集は、レジストライン幅ラフネスは光コントラストが低いと値が大きくなるとし、ローカルCD均一性は解像限界の近くで、レジスト成分の散らばり方、光子の数にあたる露光ドーズ量、露光装置のNAで決まる光学コントラストの3つに左右されるとしています。
NILSはどうやって求めるのですか?
像の側の量なので、シミュレータの出力として得ます。現場が実測するのは、CD-SEMで測るLWRの3σと、フォーカス露光量マトリクスから出る焦点深度と露光量裕度です。SEAJの用語集は、この2つをCDフォーカスカーブから求める余裕度としています。
上げるつまみは何ですか?
像の側では照明条件の絞り込み、位相シフトマスクの採用、フレアと収差の低減です。レジストの側では露光量の増加です。リソテックジャパンの公開資料は、最大解像度を得るNAとσの条件はNILSが最大となる条件だとしています。
露光量を上げれば済む話ですか?
露光量はばらつきを締めますが、代償が付きます。JEITAの平成21年度報告は、LER・LWRを解決する手段が単純には露光量の増大だとしつつ、解像度・LER/LWR・感度の3つを同時に満たすことがRLSトレードオフと呼ばれる課題だとしています。露光量を積んだ分は、スループットと光源パワーの要求へ回ります。
フレアや収差はNILSへ影響しますか?
影響します。フレアは像の暗い側へ一様な光を足すので、山と谷の差が縮んでエッジの傾きが寝ます。SEAJの2012年版ロードマップは、ArF・KrFで1パーセント以下にとどまる光学フレア量が、EUVでは10パーセント前後になると予想されているとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 焦点深度とは ── 像の傾きを立てるほど狭くなる側の余裕
- プロセスウィンドウとは ── NILSの代わりに実測で追う窓の広さ
- 投影レンズ収差とは ── 像の傾きを装置側から削るもの
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── NILSとILSの記述、レジストライン幅ラフネスと光コントラストの関係、ローカルCD均一性を定める3つの要素、確率的影響の3つの原因、プロセスウィンドウと焦点深度と露光量裕度、位相シフトマスクが光学コントラストを改善すること
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── LER・LWRの解決手段が露光量の増大であること、ショットノイズの考え方によるLERと露光量の関係、RLSトレードオフ、10ミリジュール毎平方センチメートル以下という感度の要望、Resist Blurが解像力を劣化させること
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成19年度報告 第7章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── レジストへ同時に求める LWR・感度・解像力の3つの数値
- SEAJ「半導体製造装置技術ロードマップ(リソグラフィ)2012年版」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── フレアがミラーの粗さから生じることと波長依存性、ArF・KrFとEUVの光学フレア量、EUVの光源パワー要求値の上方修正
- 東芝レビュー Vol.67 No.4「半導体リソグラフィ技術の動向と東芝の取組み」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── k1がレジスト材料のコントラストを含む定数であること、NAND型フラッシュメモリのレジストプロセスでk1を0.3以下にすることが困難であること
- リソテックジャパン「Prolithを用いたリソグラフィプロセスの最適化」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── NILSが空中像強度対数勾配であり光強度のコントラストにあたること、NAとσを振ったときのDOF最大条件とNILS最大条件が別であること