CD均一性バジェットとは
CD均一性バジェットとは、パターン寸法のばらつき許容量を1つの3σ値として与え、その総額をマスク側とウェハ側の各工程へ割り当てた表のことです。 バジェットは、予算のように総額と配分で管理する枠組みを指す現場語です。
日本半導体製造装置協会(SEAJ)の半導体製造装置用語集は、パターン寸法均一性(CDU)をレジスト寸法(CD)の均一性を示す指標とし、ウェーハ内の複数点でCDを計測し、そのばらつきを標準偏差の3倍にあたる3σ値で表記することが多いとしています。バジェットは、この3σ値を総額として、どの工程がいくらまで使ってよいかを割り当てた表を指します。
総額の実例が公開資料にあります。JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会の平成21年度報告に載るリソグラフィへの要求表では、2009年の欄でMPUの物理ゲート長が29ナノメートル、そのゲートCD管理値が3σで3.0ナノメートルとされています。ゲート長に対して約10パーセントにあたり、こちらで計算しました。同じ表のDRAMの欄は、ハーフピッチ52ナノメートルに対してCD管理値が3σで5ナノメートルです。ITRS2009版の要求値を載せた表で、2009年度時点の見通しです。
総額のうち4割がマスク側へ渡ります
Section titled “総額のうち4割がマスク側へ渡ります”同じ報告のフォトマスクへの要求表には、CD均一性のマスクへの配分という行があり、値は0.4で全年ともそろっています。ウェハ側の管理値へ0.4を掛け、マスク倍率4を掛け、MEEFで割ると、マスク側のCD均一性の要求値になります。2009年の欄で計算すると、3.0 × 0.4 × 4 ÷ 2.0 = 2.4ナノメートルとなり、同じ表の孤立線(MPUゲート)のマスクCD均一性2.4ナノメートルと一致します。計算はこちらで実施しました。MEEFが割り算の側に入る仕組みはMEEFのページに書きました。
残るのはウェハ側の6割、3.0ナノメートルのうち1.8ナノメートルです。この引き算もこちらで計算しました。露光装置とコーター/デベロッパ、フォトレジスト、ドライエッチングが、この1.8ナノメートルを分け合います。
ベーク板の1℃が、ウェハ側の8割を埋めます
Section titled “ベーク板の1℃が、ウェハ側の8割を埋めます”同じ報告のレジストへの要求表には、PEB温度感度(nm/℃)という行があります。2009年から2012年までの欄が1.5、2013年以降の欄が1です。PEBは露光後のベークで、SEAJはこれを、レジスト内でさらに化学反応を起こし、レジスト側壁が波打つ現象を反応物の拡散で低減する熱工程としています。
感度1.5ナノメートル毎℃は、ベーク板の面内温度差が1℃あるとCDが1.5ナノメートル動くことを意味します。ウェハ側の取り分1.8ナノメートルに対して83パーセントにあたり、こちらで計算しました。ベーク板をゾーンへ分けて温度を個別に与える理由が、この1行にあります。同じ平成21年度報告は、計算機リソグラフィの図の中で、プロセス制御のつまみとして露光量、フォーカス、収差、レーザー帯域、瞳、フレア、重ね合わせ補正、CDUのための露光量補正、PEB温度のゾーン制御、高次補正を挙げています。
フォーカスの取り分は、平坦度が決めます
Section titled “フォーカスの取り分は、平坦度が決めます”SEAJは焦点深度(DOF)を、パターン寸法のスペック上下限に対応する露光焦点の深さとし、寸法の±10パーセントを満たすフォーカスの範囲で表す例を挙げています。焦点位置精度は、露光領域内の焦点位置のばらつき精度です。焦点位置が振れると像のコントラストが落ち、CDが動きます。詳しい仕組みは焦点深度のページに書きました。
同じリソグラフィへの要求表には、露光時のウェハサイト平坦度という行があり、2009年の欄が48ナノメートル、2013年の欄が29ナノメートルです。ウェハが凹凸を持てば、その分だけ焦点位置が振れます。ウェハ平坦度がリソグラフィの要求表へ載るのは、CD均一性の予算をフォーカス経由で食う量が大きいためです。
平成21年度報告は、露光装置の側では露光スリット内の露光量の均一性と、アライメント精度、それに焦点位置の制御性が継続して改善されているとし、焦点深度の低下に伴ってマスクとウェハのフラットネスへの要求も厳しくなっているとしています。コンタクトホールの露光では、スキャン中に焦点位置を変えるフォーカスドリリングという手法も採用されているとしています。
レジストとエッチングが、残りを分けます
Section titled “レジストとエッチングが、残りを分けます”SEAJは、ローカルCD均一性(LCDU)を同じ露光ショット内の局所的なばらつきとし、解像限界付近ではレジスト成分の不均一な分布と、光子数にあたる露光ドーズ量、そして露光装置のNAに依存する光学コントラストで決まるとしています。同じ根から出る現象は確率的欠陥のページに書きました。SEAJはレジストライン幅ラフネス(LWR)についても、光コントラストが低いと値が大きくなるとし、ばらつきを3σで表記することが多いとしています。
エッチング側の行は別に立ちます。SEAJのウェーハプロセス用語集は、CD制御を、エッチング前のマスク寸法からエッチング後のパターン寸法までのシフト量を管理することとし、面内差と疎密差まで抑えることで特性のそろったデバイスを量産すると述べています。同じ用語集はラインエッジラフネス(LER)について、原因がリソグラフィとエッチングの双方にあるとし、ゲート材料、フォトレジストの構成物、エッチングケミストリィのすべてが線幅の不確定性へ関係するとしています。エッチングは平均寸法を動かし、同時に面内差と疎密差という2つのばらつきをCD均一性の表へ持ち込みます。
つまみを回すと、別の欄が動きます
Section titled “つまみを回すと、別の欄が動きます”露光ドーズを上げると、レジストが受ける光子数が増え、局所のCDばらつきが締まります。代わりに1枚あたりの露光時間が延びます。電子情報通信学会の知識ベースは、EUVのレジストへの要求として、線幅揺らぎ(LWR)が3σで3ナノメートル以下、10ミリジュール毎平方センチメートル以下の感度、40ナノメートル以下周期での解像力という3つを同時に満たす厳しさを挙げています。2010年時点の記述です。感度が高いレジストほど小さな露光量で像を作りますが、そのぶん受ける光子数が減り、ばらつきの側が悪化します。
レジスト膜厚も両側を持ちます。平成21年度報告は、レジスト膜厚が微細化に伴って減少しているとし、その理由を焦点深度余裕の低下とレジストの倒壊としています。レジストへの要求表では、単層のレジスト膜厚が2009年の欄で80〜145ナノメートル、2013年の欄で50〜90ナノメートルです。薄くすればフォーカスの取り分が軽くなり、厚くすればエッチングの取り分が軽くなります。倒壊はその外側で待っています。
エッチングで細らせる道もあります。同じ報告は、レジストパターンから直接、あるいはハードマスクの加工後に細らせる手法(Slimming)が既に一般的に使われているとしています。平均寸法は目標値へ合わせられますが、そのぶん面内差と疎密差が新しく乗ります。マスク側にもつまみがあります。同じ報告は、より厳しくなる寸法均一性へ対応するために遮光膜の薄膜化が有効だとしています。
総額そのものが動く場面があります
Section titled “総額そのものが動く場面があります”平成21年度報告は、ピッチスプリッティングにおける寸法均一性と重ね合わせ精度の要求が従来のトレンドに比べて一世代以上厳しいとし、シングル露光を基準にすると重ね合わせ精度で1/2以下、寸法均一性で1/√2以下という値が必要と報告されているとしています。1つの層を2回の露光で作るとき、同じ総額を2回で分け合う形になります。マルチパターニングの側から見た事情も同じです。
SADPは、配分そのものを組み替えます。JEITAの平成20年度報告は、スペーサで形成される部分のCDUが膜厚制御性で決まり、レジストパターンのCDUに比べて優れているとしています。平成21年度報告は、そのかわりスペースの寸法ばらつきへ、露光パターンのばらつきに加えてデポ膜の側壁部の厚さとエッチバック加工のばらつきが影響して劣化すると述べています。予算の行が、露光からCVDとエッチバックへ移ります。
何を差し出すのか
Section titled “何を差し出すのか”マスクへの配分0.4を下げると、ウェハ側の取り分が増えます。式の通り、マスク側のCD均一性の要求値が同じ比率で厳しくなります。2009年の欄で配分を0.3にすると、マスク側は3.0 × 0.3 × 4 ÷ 2.0 = 1.8ナノメートルになります。こちらで計算しました。マスクの価格と製作日数が、そこで動きます。
PEBのゾーンを増やすと面内温度差を詰められますが、感度1.5ナノメートル毎℃はゾーンごとの温度精度へもそのまま掛かります。露光量の補正をショット内で細かく与えると面内差は縮みますが、補正量を求めるための測定点が増えます。CD-SEMとOCDの測定枚数と点数が、そのまま製造ラインの時間になります。SEAJはAPCを、フィードバックとフィードフォワードによりCDや重ね合わせといったプロセス性能の向上を目指すシステムとし、近年はサンプリングのための計測機器を装置内へ組み込む取り組みが進められているとしています。APCへ渡す測定点の数が、バジェットの締め方とラインの速度を同時に決めます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”CD均一性バジェットとは何ですか?
パターン寸法のばらつき許容量を1つの3σ値として与え、その総額をマスク側とウェハ側の各工程へ割り当てた表です。バジェットは、予算のように総額と配分で管理する枠組みを指す現場語です。
総額はどのくらいの数字ですか?
JEITAの平成21年度報告に載るリソグラフィへの要求表では、2009年の欄でMPUのゲートCD管理値が3σで3.0ナノメートル、DRAMのハーフピッチ52ナノメートルに対するCD管理値が3σで5ナノメートルです。ITRS2009版の要求値を載せた表で、2009年度時点の見通しです。
マスクにはいくら配分されますか?
同じ報告のフォトマスクへの要求表には、CD均一性のマスクへの配分という行があり、値は0.4です。ウェハ側の管理値へ0.4を掛け、マスク倍率4を掛け、MEEFで割ると、マスク側のCD均一性の要求値になります。
ウェハ側でいちばん大きい項目はどれですか?
レジストへの要求表のPEB温度感度が1.5ナノメートル毎℃なので、ベーク板の面内温度差1℃で1.5ナノメートル動きます。ウェハ側の取り分1.8ナノメートルの83パーセントにあたり、こちらで計算しました。2009年から2012年までの欄の値です。
どこを測るとバジェットの使い方が分かりますか?
SEAJはパターン寸法均一性を、ウェーハ内の複数点のCDを計測してばらつきを3σで表す指標としています。CD-SEMとOCDでウェハ内の点を測り、ショット内の局所ばらつきをローカルCD均一性として別に切り分けます。
露光ドーズを上げれば済む話ですか?
SEAJはローカルCD均一性を左右する要素として露光ドーズ量(光子数)を挙げており、ドーズを上げるとばらつきが締まる側へ動きます。代わりに1枚あたりの露光時間が延びます。電子情報通信学会の知識ベースは、EUVのレジストへ線幅揺らぎ3σ3ナノメートル以下と感度10ミリジュール毎平方センチメートル以下を同時に求める厳しさを挙げています。2010年時点の記述です。
ダブルパターニングにすると総額はどうなりますか?
JEITAの平成21年度報告は、ピッチスプリッティングではシングル露光を基準にして重ね合わせ精度で1/2以下、寸法均一性で1/√2以下という値が必要と報告されているとしています。1つの層を2回の露光で作るぶん、同じ総額を2回で分け合う形になります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- MEEF(マスク誤差増強係数)とは ── バジェットのマスク欄で割り算の側に入る係数
- 焦点深度とは ── フォーカスの取り分をナノメートルで区切る幅
- エッジ配置誤差(EPE)とは ── 寸法の総額へ重ね合わせを足し込んだ管理量
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── パターン寸法均一性(CDU)を3σで表す測り方、ローカルCD均一性を左右する3つの要素、焦点深度と焦点位置精度、レジストライン幅ラフネス、PEBの役割、APCのフィードバックとフィードフォワード
- SEAJ「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── エッチングのCD制御が面内差と疎密差を対象にすること、ラインエッジラフネスの原因がリソグラフィとエッチングの両方にあること
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── MPUゲートのCD管理値3σ3.0ナノメートル、DRAMのCD管理値3σ5ナノメートル、マスクへの配分0.4とマスクCD均一性2.4ナノメートル、PEB温度感度1.5ナノメートル毎℃、ウェハサイト平坦度48ナノメートル、レジスト膜厚80〜145ナノメートル、プロセス制御のつまみ一覧、ピッチスプリッティングの1/2と1/√2
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成20年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── スペーサで形成される部分のCDUが膜厚制御性で決まること
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編3章 プロセス要素技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── EUVのレジストへ線幅揺らぎ3σ3ナノメートル以下と感度10ミリジュール毎平方センチメートル以下を同時に求める要求