光源マスク最適化(SMO)とは
光源マスク最適化(SMO)とは、露光装置の照明の形とフォトマスクに載せる図形を、1つの解として同時に確定する手法です。
日本半導体製造装置協会(SEAJ)の半導体製造装置用語集は、光源マスク最適化を、マスクパターンに合わせて露光装置の照明形状を最適化する手法としています。同じ用語集の計算機リソグラフィの項では、SMOを、光源形状とマスクパターンを最適化して解像性や焦点深度などのプロセスマージンを改善する超解像手法として挙げています。
なぜ一緒に解くのかは、露光側に残っている自由度の少なさから来ます。東芝は2012年の技術報告で、k1ファクタをk1 = HP × NA / λ と置き、λとNAは露光装置の性能で決まるため同じ装置で微細化を進めるとk1はハーフピッチに比例して小さくなり、k1 < 0.25では転写パターンを形成できなくなることが知られているとしています。同報告は、純水(屈折率1.44)を使う液浸露光でNAが1.35に達していることも記しています。2012年時点の同社の記述です。
波長と開口数が止まった以上、動かせるのは照明の当て方とマスクの図形です。ところがこの2つは、一方の解が他方の解を左右します。同報告は、解像限界に近いピッチのラインアンドスペースを作るには二重極(ダイポール)照明が要る一方、その照明形状では孤立パターンなどラインアンドスペース以外のパターンを同時に形成することが困難だとしています。1枚のレチクルには、密なラインも孤立線も一緒に載っています。
照明を先に確定すると、何が落ちるのでしょうか
Section titled “照明を先に確定すると、何が落ちるのでしょうか”SEAJは斜入射照明を、光軸の中心を外した位置に絞りを入れてマスクへ露光光束を斜めに入射させる手法とし、絞り形状によって輪帯照明、ダイポール照明、四重極照明などがあるとしています。同用語集はσ値を照明光学系の開口数と投影光学系の開口数の比(σ=NAi/NAp)と定め、σが大きい露光装置ほど大きな入射角で斜入射露光を行えるとしています。
斜めから当てることの中身は、回折光の選び直しです。電子情報通信学会の知識ベースは、輪帯照明を、斜めから光源を入射させて0次の光と±1次の光を干渉させたものとし、原理的には最小周期を半分にできるとしています。同資料はk1が当初の0.9から0.4程度まで下がってきたとも記しています。2010年版の記述です。
絞りの形は、どの周期とどの向きの回折光を投影レンズの開口へ入れるかを選ぶ操作です。 ある周期を選べば、別の周期は開口の外へ抜けます。二重極を選んだ時点で、その向きの線には強く、直交する線と孤立線には弱い露光になります。
作り込みの積み上がり方は、JEITAの平成19年度報告が載せる表に並んでいます。照明の行は斜入射照明から四重極照明、カスタム照明、そしてカスタム照明と偏光の最適化へと進みます。設計ルールの行は、OPCと位相シフトマスク、SRAFを許すところから始まり、ピッチと向きの制限、OPCとの相性と転写可否を検証したライブラリセル、格子上への配置、使える図形の限定、2回露光に耐える設計へと、累積で制限が増えていきます。同じ表のk1の欄は0.48〜0.52から0.18〜0.28までの範囲を並べています。2007年度時点の見通しです。
つまり、照明を先に確定した現場は、そのあと設計側へ制限を送り返して帳尻を合わせることになります。SMOは、その送り返しを起こす前に照明とマスクを同時に解きます。
現場では何を測り、どのつまみを動かしますか
Section titled “現場では何を測り、どのつまみを動かしますか”JEITAの平成21年度報告は、SMOを露光装置の照明とマスクパターンを同時に最適化する技術とし、選択されたパターンに対して照明とマスク設計の組み合わせを探して同時に最適化することでプロセスマージンの確保と拡大を図るとしています。同報告は、最新の露光装置では大きな露光強度の低下を伴うことなく照明の形状・強度・偏光を任意に変更選択でき、目的とするパターンに応じて最適に制御できるとしています。2009年度時点の記述です。
動かせるつまみは、おおむね3本です。
- 照明の自由度です。輪帯や四重極といった既製の絞り形状から、ピクセル単位で輝度を与える自由形状へ振ると、東芝が挙げる、レチクルに載るどのパターンにも余裕を残せる輝度の配り方を探せる範囲が広がります。既製の形状を選べば探索は軽くなり、そのぶん条件外の周期のパターンが戻ってきます。斜入射を強めれば解像度と焦点深度が上がり、弱めれば、その向きと周期へ働いていた分がそのまま抜けます。
- マスクへ足す図形です。補助パターン(SRAF)は、東芝によればマスクへ載せたうえでウェーハに像を結ぶ手前の細さでとどめる図形で、これやOPCの張り出しを増やすと孤立側の余裕が増え、減らすとマスクのデータ量と描画時間は軽くなり、孤立側の余裕も一緒に減ります。
- 露光装置固有データです。個々の装置の収差やフレア、瞳の実測値を最適化へ取り込むと寸法の制御性が上がり、取り込まずに装置共通の条件で解けば、解は装置をまたいで使えるかわりに個体差がそのまま付いてきます。
測る先は、SEAJがプロセスウィンドウとして定める寸法スペックの上下限に対応する露光量とフォーカスのマージンです。焦点深度とプロセスウィンドウがどれだけ広がったかが、SMOを回した結果の測り方になります。
得るものと引き換えに、何を差し出しますか
Section titled “得るものと引き換えに、何を差し出しますか”差し出すものの1つ目は、計算です。東芝は、光近接効果が対象パターンを中心とした半径約2µmの範囲のパターン配置で決まること、そしてモデルベースOPCが約4×4µmの領域を1単位としてシミュレーションを繰り返すため、チップ全面へ適用すると数億回を超えるシミュレーションが必要になることを記しています。2012年時点の同社の記述です。SMOは、この上に照明側の探索が重なります。JEITAの平成20年度報告は、計算機負荷をも省みずに全てのオプションを投入する技術領域の模索が始まっているとしています。
2つ目は、計算に入れるべき現象の増加です。平成21年度報告は、ハーフピッチ45nm以下ではマスクの三次元効果を計算へ取り込む必要があり、負荷が非常に高いとしています。マスクを平らな図形として計算できる範囲を越えると、マスクの断面形状まで最適化の入力になります。
3つ目は、解が装置に紐づくことです。同報告は、露光装置固有データを取り込んでパラメータを制御し最適化する取り組みを挙げています。装置の実測値まで織り込んだ解は、その装置でよく働くかわりに、別号機では条件を組み直すことになります。マスク検査やオーバーレイ計測の基準づくりも、レシピ単位から装置と組の管理へ移ります。
得られる側の大きさについて、東芝は、照明とマスクだけでなく設計パターンも同時に最適化するトータル最適化手法によって、リソグラフィ余裕度を約1.5倍に拡大できた例もあるとしています。東芝の同じ報告は、その最適化では調整可能な因子の数が膨大になるため、品質工学的手法で余裕度を左右する重要因子だけを抽出し、多変数最適化アルゴリズムで各因子を確定する手法を構築したとしています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”光源マスク最適化(SMO)とは何ですか?
露光装置の照明の形と、フォトマスクに載せる図形を、1つの解として同時に確定する手法です。SEAJの用語集は、マスクパターンに合わせて露光装置の照明形状を最適化する手法だとしています。
なぜ照明とマスクを一緒に解くのですか?
片方を先に確定した時点で、落ちるパターンも確定するためです。東芝は2012年の技術報告で、解像限界に近いピッチのラインアンドスペースには二重極照明が要る一方、その照明形状では孤立パターンなどをラインアンドスペースと同時に形成することが難しいとしています。
照明の形は自由に変えられるのですか?
JEITAの平成21年度報告は、最新の露光装置では大きな露光強度の低下を伴うことなく照明の形状・強度・偏光を任意に変更選択でき、目的とするパターンに応じて最適に制御できるとしています。2009年度時点の記述です。
SMOで決まるのは照明だけですか?
マスク側も同時に確定します。東芝は、複雑な照明輝度分布を確定すると同時に補助パターン(SRAF)の配置も決まるとしています。
どれくらい余裕が増えるのですか?
東芝は、照明とマスクに加えて設計パターンも同時に最適化するトータル最適化手法によって、リソグラフィ余裕度を約1.5倍に拡大できた例もあるとしています。2012年時点の同社の記述です。
計算量はどれくらい増えますか?
東芝は、モデルベースOPCが約4×4µmの領域を1単位としてシミュレーションを繰り返すため、チップ全面へ適用すると数億回を超えるシミュレーションが必要になるとしています。SMOはこの上に照明側の探索が乗ります。
露光装置ごとに解が変わりますか?
変わります。JEITAの平成21年度報告は、解像限界に近い領域では個々の露光装置の転写特性の個体差が寸法制御性や重ね合わせ精度へ与える影響が大きくなるため、露光装置固有データを取り込んでパラメータを制御し最適化する取り組みが行われているとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 照明条件(露光)とは ── 照明条件は光の当て方だけを定める設定、SMOはその設定とマスクの図形を一緒に解く手法
- OPC(光近接効果補正)とは ── OPCはマスク側だけを動かす補正、SMOは照明側も同じ最適化に入れる枠組み
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- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 光源マスク最適化の項目、計算機リソグラフィ、斜入射照明と絞り形状、σ値、プロセスウィンドウ
- 東芝レビュー Vol.67 No.4「半導体デバイスの微細化を支えるOPC技術とDFM技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── k1ファクタの式と0.25の限界、純水によるNA1.35、二重極照明と孤立パターンの両立の難しさ、複雑な照明輝度分布と補助パターンの同時決定、光近接効果の及ぶ半径とシミュレーション回数、余裕度約1.5倍の事例
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SMOの位置づけと同時最適化、照明の形状・強度・偏光の任意選択、ハーフピッチ45nm以下のマスク三次元効果、露光装置固有データの取り込み
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成20年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 計算機負荷を省みずに全オプションを投入する技術領域、光源とマスクをピクセル単位で設計する方向
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成19年度報告 第7章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 照明・設計ルール・マスクの各行が世代とともに進む表、k1の欄の範囲
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編3章 プロセス要素技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 輪帯照明が0次と±1次の回折光を干渉させる仕組み、k1が0.9から0.4程度へ下がった経緯、計算機リソグラフィの位置づけ