レジストアウトガスとは
レジストアウトガスとは、露光中にレジストから真空へ逸散する分子と、それが光学系やマスクの表面へ膜として積もるまでの一連の現象です。 削られるのはウェーハ上の寸法よりも、次のショットへ届く光量の側です。
JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会は平成21年度報告の第6章WG5リソグラフィで、レジストのアウトガスも問題として挙がっていると述べ、真空へ逃げたガスへEUV光が当たると、ハイドロカーボン系のデポ膜が比較的たやすく育つことが知られているとしています。同報告は、装置側の対応とともにレジスト側でもアウトガスを抑える開発が進んでいるとも記しています。2009年度の報告です。
出どころの手がかりは、EUVの光子1個が持ち込むエネルギーの桁にあります。JSRのテクニカルレビューNo.114は、酸発生機構の検討のなかでKrF露光を5.0eV、ArF露光を6.5eV、EUV露光を92eV、電子線露光を50keVと並べ、レジストを構成する水素・酸素・炭素という主な構成原子のイオン化エネルギーがいずれも約10eVだとしています。KrFとArFでは直接励起が主な酸発生機構、電子線ではイオン化が主な機構だと田川らが報告しているとし、EUVはレジスト構成原子のイオン化エネルギーより大きいことから主な酸発生機構はイオン化だと推測しています。EUVの光子はイオン化に要する量の9倍ほどを持って入ってくる計算になります(92を約10で割った値で、こちらで計算しました)。
兵庫県立大学の渡邊健夫氏によるONSA賞受賞講演は、物質側でのEUV光の吸収の大きさから筋道を立てています。同講演によれば、レジストがEUV光を浴びるとハイドロ系のカーボンが生まれ、それが反射型マスクや露光光学系ミラーの表面へカーボン系の汚れとして付き、反射率の低下を通じてスループットを落とす場合があります。
反射率がどれだけ削られるのか
Section titled “反射率がどれだけ削られるのか”日本放射光学会の学会誌「放射光」2005年5月号に載った岡崎信次氏(技術研究組合 超先端電子技術開発機構)の解説「EUV露光技術の開発と放射光の役割」は、掛け算の大きさを数字で示しています。1枚の反射面の反射率を70%程度とすると、照明光学系の6枚で照明光学系全体の光の透過率は10%程度となり、マスクと投影光学系まで通ると照明光学系へ入力した光のうちウェーハ面へ届くのは1%になる、としています。そして各反射面での反射率が1%変化しても、全体では10%近い変化になると述べています。2005年時点の解説です。
同じ解説は、カーボンが数nm付くだけでピーク反射率が数%落ち、全系の光透過率まで大きく引き下げる場合があるとし、残留水分から出る酸素も多層膜の表面を酸化させて反射率を下げるとしています。同解説は、残留ガス中のハイドロカーボンが分解して起こるカーボン汚染と、水分を主因とする酸化の2つを、最も注意すべき検討項目として挙げています。
汚れ方には波長の側面もあります。同じ解説は、多層膜がバンドパス型の反射特性を示すため、反射帯域のマッチングと波長精度の両方へ高い精度が要求されるとしています。反射率が数%落ちる話と、帯域が動く話は別に点検する項目になります。
何を測るのか
Section titled “何を測るのか”測るものは2つあります。出た分子の種類と量、そしてそれが受け皿へ何nm積もったかです。
兵庫県立大学の渡邊健夫氏によるONSA賞受賞講演は、2001年からEUVレジストのアウトガスを感度よく高精度で測れる装置を構築したと述べ、ASMLの実機での波長と分散が同等となるようMo/Si多層膜ミラーの7回反射系としたことを特徴としています。2011年からはEIDECの要請で、実機に近いEUV光パワーでのアウトガス測定とカーボンコンタミの膜厚測定を引き受け、アンジュレータビームラインBL-9Cへ装置を構築したとしています。同講演は、この装置が実露光機と同等のEUV光照射で各種EUVレジストのアウトガスを四重極質量分析器(QMS)で測れると同時に、発生したガスが付着するwitnessのMo/Si多層膜のコンタミ膜厚をin-situの可視領域の分光エリプソメータで測れると記し、国内レジスト4社とこの装置を用いた開発を進めてきたうえで、世界標準の装置として位置付けられているとしています。
兵庫県立大学高度産業科学技術研究所のEUVリソグラフィー研究開発センターは、研究設備の一覧でニュースバルのBL-03をEUVフラッド露光とアウトガス測定の装置として挙げ、感度を測る系としてBL03へMo/Si多層膜を用いた7回反射系を構築し、アップグレードしながら2024年時点でも感度を測る実験を続けていると記しています。
日本放射光学会の解説も同じ測り方を挙げています。ASETのビームラインでは多層膜で分光したEUV光を直接レジストへ照射し、そこからのアウトガスを直接分析できるよう質量分析装置を設置したとし、EUV光照射による膜厚の変動とアウトガスの分析ができるとしています。検出された成分としては、レジストのベースポリマー由来のハイドロカーボンと、感光性物質にあたる酸発生剤由来のガスを挙げています。同解説は、真空中の水分濃度とキャッピング層の材質と酸化の関係を調べた実験について、EUV光の照射条件を強度16mW/mm2、照射時間4時間としています。
現場ではどのつまみを回すのか
Section titled “現場ではどのつまみを回すのか”残留ガスの分圧が1つ目です。日本放射光学会の解説は、光強度や残留ガスの成分、特にH2Oやハイドロカーボンなどの分圧とカーボン付着の関係、そしてキャッピング層の材質とその酸化の関係を詳細に調べる必要があるとしています。下げれば付着も酸化も減ります。ただし同じ解説は、汚染源としてレジストから出るガスに加えて、真空中の残留ガスと、真空チャンバの中の構造物や配線材料から出るアウトガスも挙げています。レジストを低アウトガス化しても、同じ受け皿へ別の出どころから積もります。
水素の導入が2つ目です。兵庫県立大学のセンターは、70Paまでの水素ガスを導入できるチャンバーをBL09へ構築し、水素ガス雰囲気下でEUV光を照射するとMo/Si多層膜ミラー表面の反射率が回復する挙動が観測されたと記しています。同センターがこの成果に付けた題は水素による損傷(damage)と清浄化(cleaning)の両方を挙げており、水素は積もった炭素を落とす手立てであると同時に、多層膜そのものへの損傷も点検の対象になっていることが読み取れます。落とす側を強めれば、下地を痛める側が付いてきます。
キャッピング層が3つ目です。SEAJ(日本半導体製造装置協会)の半導体製造装置用語集は、キャッピングレイヤーをマルチレイヤーの保護のために設けられる表層膜とし、汚染防止と酸化防止の効果がある材料が選ばれると記しています。日本放射光学会の解説は、この保護膜の材質とその酸化の関係を詳細に調べる必要があるとしています。材質の選択は反射率の初期値と、汚染への耐性の間で決まります。
レジスト側の材料設計が4つ目です。JEITAは装置側の対応とともにレジスト側の開発が進んでいるとしています。ただし材料側の余裕は薄いままです。同じ報告は、EUV露光では光源で発生したEUV光の利用効率が非常に悪いため10mJ/cm2以下の高感度レジストが切望されているとしながら、解像度とLER/LWRと感度がRLSトレードオフと呼ばれる関係にあり、3つの両立が課題として残っていると述べています。低アウトガス化は、この3つの両立へもう1本の条件を足す形になります。
大気中の露光でも同じ形で壊れるのか
Section titled “大気中の露光でも同じ形で壊れるのか”同じ形の壊れ方は、DUVの露光にもあります。SEAJの用語集は、ヘイズを、ArFリソグラフィなどの照射光のエネルギーがフォトマスクのまわりに漂うガス状物質の化学反応を引き起こし、その結果としてマスク上へ育つ固体状の異物としています。同用語集はガスの出どころをマスク表面周辺のガス状物質と書いており、出どころをレジストへ絞る記述は同用語集の外の話になります。
JEITAの平成21年度報告は、製造現場におけるHazeが依然として厄介な問題であり、ケミカルクリーン技術の進歩を踏まえてもなお根絶までは遠いと述べています。照らされた光学面の近くにあるガスが固体になるという構図は真空でも大気でも共通していて、対処が洗浄周期とマスク検査の側へ回るところも似ています。
取引として何を差し出すのか
Section titled “取引として何を差し出すのか”レジストアウトガスの対策は、どれも別の項目へ請求書を回します。残留ガスの分圧を詰めれば排気と部材の側の負担が増え、水素で炭素を落とせば多層膜への損傷を点検項目へ加えることになり、キャッピング層で酸化を止めれば初期の反射率を少し譲ります。レジスト側で出るガスを減らせば、感度と解像力と線幅ラフネスという両立が課題として残る3つへ、条件が1本増えます。
判断の基準は、ウェーハ上の寸法よりも光学面へ届く光量の側にあります。1枚の反射面の数%が全系で数十%になるという掛け算の構造があるので、EUV露光装置の稼働率の検討と、レジスト材料の選定が同じ表に載ります。ペリクルやアクチニック検査と同じく、光が通る面の状態をどう保つかという問題です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”レジストアウトガスとは何ですか?
露光中にレジストから真空へ逸散する分子と、それが光学系やマスクの表面へ膜として積もるまでを指します。JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会は平成21年度報告で、真空へ逃げたガスへEUV光が当たると、ハイドロカーボン系のデポ膜が比較的たやすく育つことが知られていると述べています。
なぜEUVで特に問題になるのですか?
反射光学系が多数の面の掛け算で成り立っているためです。日本放射光学会の学会誌に載った解説は、1枚の反射面の反射率を70%程度とすると照明光学系の6枚で全体の透過率が10%程度になり、マスクと投影光学系まで通ると照明光学系へ入力した光のうちウェーハ面へ届くのは1%になるとしています。1枚の汚れが全系へ掛かります。
ミラーが少し汚れると、光量はどれだけ落ちますか?
同じ解説は、カーボンが数nm付くとピーク反射率が数%落ち、全系の光透過率まで大きく引き下げる場合があるとし、反射面1枚の反射率が1%動けば全体では10%近い変化になると述べています。2005年時点の解説です。
炭素以外の壊し方もありますか?
酸化があります。同じ解説は、残留水分から出る酸素が多層膜の表面を酸化させて反射率を下げるとし、光の強度、残留ガスの成分、とくにH2Oやハイドロカーボンの分圧とカーボン付着の関わり、そして多層膜を守るキャッピング層の材質と酸化の関わりを詳しく調べる必要があるとしています。
現場では何を測るのですか?
出た分子と、積もった厚さの2つです。兵庫県立大学の渡邊健夫氏のONSA賞受賞講演は、ニュースバル放射光施設の装置が実露光機と同等のEUV光照射で各種EUVレジストのアウトガスを四重極質量分析器(QMS)で測れると同時に、発生したガスが付着するwitnessのMo/Si多層膜のコンタミ膜厚をin-situの可視領域の分光エリプソメータで測れると述べています。
積もった炭素は落とせますか?
兵庫県立大学高度産業科学技術研究所のEUVリソグラフィー研究開発センターは、70Paまでの水素ガスを導入できるチャンバーをBL09へ構築し、水素ガス雰囲気下でEUV光を照射するとMo/Si多層膜ミラー表面の反射率が回復する挙動が観測されたと記しています。同センターがこの成果へ付けた題は水素による損傷と清浄化の両方を挙げています。
レジスト側で下げれば済みますか?
レジストは3つある出どころのうちの1つです。日本放射光学会の解説は、汚染源として、レジストから出るガス、真空中の残留ガス、そして真空チャンバの中の構造物や配線材料から出るガスを挙げています。JEITAも装置側の対応とともにレジスト側の開発が進んでいると述べており、両側から詰める話になります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- アウトガスとは ── 容器や部材の側から見た同じ現象で、レジストはその出どころの1つ
- EUV(極端紫外線リソグラフィ)とは ── 反射面の掛け算がアウトガスの影響を左右する露光方式
- パターン倒壊とは ── レジストが起こすもう1つの困りごとで、こちらは寸法の側に出ます
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- 日本放射光学会「放射光 2005年5月 Vol.18 No.3 EUV露光技術の開発と放射光の役割」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 1枚70%と6枚で10%とウェーハ面で1%という掛け算、1面1%の変化が全体で10%近くになること、数nmのカーボン付着で数%のピーク反射率低下、残留水分の酸素による多層膜表面の酸化、H2Oとハイドロカーボンの分圧とキャッピング層の材質、質量分析装置による直接分析とベースポリマーや酸発生剤からの検出、照射条件16mW/mm2と4時間、多層膜のバンドパス特性
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 真空中へ逸散したガスがEUV光照射でハイドロカーボン系のデポ膜を形成すること、装置側の対応とレジスト側の開発、10mJ/cm2以下の高感度レジストが切望されていることと解像度・LER/LWR・感度のRLSトレードオフ、製造現場のHazeがケミカルクリーンを経ても根絶へ至らずにいること
- 兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所「EUVリソグラフィー研究開発センター」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── BL-03がEUVフラッド露光とアウトガス測定の設備であること、BL03のMo/Si多層膜7回反射系を2024年時点も運用していること、BL09の70Paまで水素ガスを導入できるチャンバーと水素雰囲気下での反射率回復、成果の題が水素の損傷と清浄化の両方を挙げていること
- 大阪ニュークリアサイエンス協会「ONSA賞受賞講演 放射光を利用したレジストの開発に関する研究」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── EUV照射でハイドロ系カーボンが生成されマスクやミラーへ付着して反射率が下がりスループット低下を招くこと、2001年からの測定装置構築とASML実機と同等の波長と分散を狙ったMo/Si多層膜7回反射系、BL-9CのQMSとin-situ分光エリプソメータによるコンタミ膜厚測定、国内レジスト4社との開発と世界標準という位置付け
- JSR「JSR TECHNICAL REVIEW No.114 化学増幅型レジストのEUV、EB、KrF露光における性能の比較」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 露光時のアウトガスがEUVレジストの技術的課題の1つであること、KrF5.0eVとArF6.5eVとEUV92eVと電子線50keVというエネルギー、構成原子のイオン化エネルギーが約10eVであること、EUVの主な酸発生機構をイオン化と推測していること
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── キャッピングレイヤーがマルチレイヤー保護の表層膜で汚染防止と酸化防止の材料が選ばれること、ヘイズがArFリソグラフィなどの照射光エネルギーでマスク表面周辺のガス状物質の化学反応から育つ固体状の成長性異物であること