照明条件(露光)とは
照明条件とは、レチクルへ光をどの角度・どの形の分布で当てるかを定めた設定です。 同じ光源と同じレンズでも、当て方を変えれば解像できるパターンが変わります。
露光の解像度は、次の式で表されます。ASMLは公式技術ページでこれを掲げています。
CD = k1 · λ / NA
同ページの記載では、CDが実現できる最小の寸法、λが使う光の波長、NAが光学系のどれだけ光を集められるかを表す値、そしてk1がチップ製造プロセスの多くの要因に依存する係数です。
3つの因子のうち、λを短くするのも、NAを上げるのも、装置そのものを入れ替える話になります。同ページは、光の波長を短くすることが、新しい光源を備えた新しいリソグラフィ装置に加えて新しい光学材料とレジスト材料と新しいプロセスを要する大きな技術転換にあたると記述しています。
k1だけが、装置を替えずに動かせます。 照明条件は、そのk1を動かす主要な手段の1つです。同ページは、より小さな臨界寸法が、より短い波長とより大きなNAの組み合わせによってk1を物理限界へできるだけ近づけながら達成されるとし、リソグラフィの物理限界をk1 = 0.25としています。
この0.25という数字は、実機の仕様から逆算すると距離感が出ます。ニコンの半導体露光装置ラインアップでは、i線ステッパーのNSR-2205iL1がNA0.45で解像度≦350nm、KrFスキャナーのNSR-S220DがNA0.82で≦110nm、ArFドライのNSR-S322FがNA0.92で≦65nm、ArF液浸のNSR-S636EがNA1.35で≦38nmです。ニコンの公式技術ページにあるi線365nm、KrF248nm、ArF193nmという波長を当てて解像度÷(λ/NA)を取ると、k1相当はNA0.45で約0.43、NA0.82で約0.36、NA0.92で約0.31、NA1.35で約0.27です(いずれも当サイトで計算)。装置世代が上がるたびに、λとNAだけでなくk1も削られてきました。残る余地は0.25までの0.02ぶんです。ASMLはEUVの公式製品ページで、High NAの開口数0.55の光学系が13.5nmのEUV光源とあわせてより高いコントラストを与え、8nmの解像度で描画できると述べています。
なぜ斜めから当てると細かいパターンが解けるのか
Section titled “なぜ斜めから当てると細かいパターンが解けるのか”レチクルの細かいパターンは、通った光を回折させます。パターンが細かいほど、回折する角度は大きくなります。
投影レンズが拾えるのは、開口数(NA)で決まる角度の範囲までです。真上から光を当てると、回折光は左右対称に開いて出ていきます。パターンが細かくなるほど、その両方が開口の外へ出てしまいます。像を結ぶのに要る成分は、開口の外側へ抜けたままです。
斜めから当てると、この対称性が崩れます。回折光の分布が片側へずれ、一方の次数を開口の内側へ入れられます。零次と一次が両方入れば、干渉して像が結べます。同じレンズのまま、解像できるパターンが細かくなります。
これがk1を下げるということの中身です。装置の光学性能は変えずに、当て方の工夫で式の係数を小さくしています。
σは照明側NAと投影側NAの比です
Section titled “σは照明側NAと投影側NAの比です”照明条件を数字で指定するとき、真ん中に来るのがσです。SEAJの半導体製造装置用語集は、露光装置の照明光学系の開口数NAiと投影光学系の開口数NApの比をσ(σ=NAi/NAp)と記述し、σが大きい装置ほど、大きな入射角の斜入射露光を行えるとしています。投影側がNA1.35のArF液浸で照明側のNAが1.35まで届けば、σ=1.0です(当サイトで計算)。輪帯なら輪の内外という2つの半径で形が決まるため、σは組で指定されます。
照明光学系そのものの作りにも名前が付いています。同用語集はケラー照明を、光源の側に輝度分布やムラがあっても、照射面つまりマスク面を均一な照度と大きな開口数で照明できる手法とし、集光系(照明側の絞り)と投影系(開口絞り)という2つの領域を設ける構成だと記述しています。対するクリティカル照明は、光源の輝度分布をそのまま照射面へ映します。σが意味を持つのは、2つの絞りを別に持つ構成があるからです。
形はパターンで決まる
Section titled “形はパターンで決まる”照明の形は、光を通す領域をどこへ開けるかで決まります。円環状に開けるのがアニュラー、向かい合う2箇所ならダイポール、4箇所ならクアドルポールです。SEAJも斜入射照明を、光軸の中心からずらした位置へ絞りを入れ、マスクへ露光光束を斜めに入射させる手法とし、絞り形状によって輪帯照明、ダイポール照明、四重極照明などがあると記述しています。同用語集は近年のSMOでは任意の絞り形状も適用されると添えています。
どれが良いかは、焼きたいパターンによって変わります。ある方向に並んだ線に最適な条件が合うのは、その向きの線までです。ダイポールが強く解像させるのは、2極を結ぶ向きに沿った線です。直交する向きの線には、別の条件を組み直します。最適解はパターンごとに1つずつ作ることになります。
だから同じ露光装置でも、層ごとに照明条件が違います。ゲート層と配線層では、並ぶパターンの性格が異なるためです。
尖らせた代金は3つの場所で払います
Section titled “尖らせた代金は3つの場所で払います”1つめは向きです。ダイポールで強く解像するのは2極を結ぶ向きの線までで、直交する向きには別の条件が要ります。
2つめは光量です。SEAJはEUV露光装置の反射照明光学系について、FFM(Field Facet Mirrors、可動ミラー群)とPFM(Pupil Facet Mirrors、固定ミラー群)の組み合わせで、光量を落とさずに任意の形へ斜入射照明ができると記述しています。光量の維持を特長に挙げる書き方は、絞りで光を捨てる作り方では形を尖らせるほど通る光量が減ることの裏返しです。光量が減れば露光時間が伸びるか、レジストへ届く光子数が減ります。同用語集は確率的影響を、微細化が進むにつれて光子数の揺らぎ、レジスト材料の組成の不均一、装置のコントラスト低下からパターン欠陥が確率的に生じる現象としています。同用語集はEUV光用ミラーを13.5nm光用でMo/Siの約60層の多層膜とし、EUV集光点出力を、13.5nmを中心波長とする2%のスペクトル帯域内へ単位時間あたりに放射されるEUVエネルギーの総量としています。反射面の枚数と帯域の両方で光が削られる前提で、照明の形をどこまで尖らせるかという判断になります。ここは確率的欠陥の側と地続きです。
3つめはマスクです。SEAJはMEEFを、マスク上の寸法誤差がウェーハ上で拡大される比率と記述しています。解像限界の近くで組む条件では、マスク誤差がこの比率でウェーハへ来ます。同用語集は位相シフトマスクを、吸収体と基板間の位相や透過率を変化させて光学コントラストを改善し解像性と焦点深度を増やすマスクとし、HTマスクや渋谷-レベンソンマスクを挙げて、露光波長以下のパターンサイズでは標準的に使用される技術だとしています。隣接する開口部の光へ180度の位相差を与えて0次光の振幅の符号を逆にし、開口部間の振幅を打ち消し合わせる型も別項に立っています。照明の形を尖らせるほど、フォトマスク側の作り込みと検査の負担が増えます。
何を測ると照明条件の良し悪しが出るか
Section titled “何を測ると照明条件の良し悪しが出るか”照明条件の良し悪しを測る軸も、SEAJの用語集に並んでいます。イメージ・ログ・スロープ(ILS)は、パターンのエッジ領域で光学コントラストの対数を取った値で、大きいほど解像性が優れ、レジストライン幅ラフネス(LWR)も低減されるとされています。NILSは像の傾きを光強度とパターン幅wで規格化した値で、寸法の異なる条件でも像の質を比べられます。LWRの側は、光のコントラストが低いほど値が大きくなり、3σで表記することが多いとされています。照明条件を1つ動かした結果は、ILSの変化となってLWRの3σへ落ちてきます。
外側の枠はプロセスウィンドウです。同用語集はこれを、CDフォーカスカーブ上で寸法のスペック上下限に当たる露光量とフォーカスを取ったときのフォーカスマージンと露光量マージンとし、CDへの要求が緩いレイヤーでは寸法の±10%を満たす焦点深度(DOF)と露光量裕度(EL)で取ることが多いとしています。照明条件の作り込みは、この2つを同じカーブから取り分ける作業になります。
現場のつまみと、その両側
Section titled “現場のつまみと、その両側”σ(照明側NAと投影側NAの比) ── 上げれば大きな入射角の斜入射が使え、細かい周期のパターンが解けます。下げれば真上照明に近づき、回折光が開口から抜けます。投影側NAで割った比なので、装置のNAを替えれば同じσでも実際の入射角が動きます。
絞りの形 ── 尖らせれば特定の向きと周期に強くなるかわりに、直交する向きと他の周期を捨てます。丸く広げれば向きの偏りは減り光量も稼げますが、解像限界近くのコントラストが落ちます。
露光量とフォーカスの取り方 ── 同じCDフォーカスカーブから、露光量マージンとフォーカスマージンを取り分けます。ELを広く取れば日々の露光量のばらつきに強くなり、DOFを広く取ればウェハ平坦度と高さ制御への要求が緩みます。どちらも寸法±10%という同じ枠のなかの取り合いです。
マスク側(位相シフトとOPC) ── 入れれば光学コントラストが改善し、解像性と焦点深度が増えます。SEAJはOPCを、マスクパターンを先に変形して目的の形へ近づける手法と記述しています。かわりにMEEFの比率でマスク誤差がウェーハへ拡大されます。
レジスト側 ── SEAJは解像性向上手法に高解像レジストの採用も挙げ、金属酸化物レジストを解像力が高くEUVで用いられるレジストとしています。レジスト側で稼げば照明を尖らせる度合いを抑えられますが、材料の切り替えにはレジストとベークと現像の条件を組み直す工数が付いてきます。
ASMLは公式ページで、波長の転換の合間に進む道として、レンズの開発と、リソグラフィのプロセスへの巧妙な工夫や計算リソグラフィといった技術によるk1の低減を挙げています。計算リソグラフィは、マスクの形と照明の形を計算で同時に最適化する手法です。SEAJもこれをILT(マスクパターンや位相を変化させる手法)とSMO(光源形状とマスクパターンを最適化する手法)に分けて記述し、Low k1露光を解像性向上手法と同義としています。照明条件は手で選ぶ設定から、計算で解く対象へ移ってきています。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”照明条件とは何ですか?
レチクルへ光をどの角度・どの形の分布で当てるかを定めた設定です。同じ光源・同じレンズでも、当て方を変えれば解像するパターンが変わります。
なぜ解像度を左右するのですか?
解像度の式 CD = k1・λ/NA のうち、k1を動かせるからです。ASMLは公式ページでこの式を掲げ、k1をチップ製造プロセスの多くの要因に依存する係数と記述しています。
k1はどこまで下げられますか?
ASMLは公式ページでリソグラフィの物理限界をk1 = 0.25としています。照明条件の作り込みは、この限界へ近づけるための手段の1つです。ニコンのArF液浸の解像度≦38nmとNA1.35から逆算したk1相当は約0.27で、限界の手前です(当サイトで計算)。
斜めから当てると、なぜ細かいパターンが解けるのですか?
レンズが拾える回折光の組が入れ替わるためです。真上から当てると細かいパターンの回折光がレンズの外へ抜けますが、斜めから当てれば片側の回折光を開口の内側へ入れられます。
σ(シグマ)とは何ですか?
SEAJは、露光装置の照明光学系の開口数NAiと投影光学系の開口数NApの比をσ(σ=NAi/NAp)と記述し、σが大きい装置ほど、大きな入射角の斜入射露光を行えるとしています。投影側NA1.35の装置で照明側NAが1.35まで届いたときσ=1.0です(当サイトで計算)。
どんな形がありますか?
円環状(アニュラー)、2極(ダイポール)、4極(クアドルポール)などが代表です。パターンの向きと周期に合わせて、光を通す領域の形を選びます。SEAJは近年のSMOでは任意の絞り形状も適用されると添えています。
照明条件を尖らせると何が悪くなりますか?
強く解像する向きが限られ、瞳のうち光を通す面積も減ります。SEAJはEUV露光装置の反射照明光学系について、可動ミラーと固定ミラーの組み合わせで、光量を落とさずに任意の形へ斜入射照明ができると記述しており、光量が代金の1つであることが読み取れます。
パターンごとに変えるのですか?
変えます。ある方向の線に最適な条件が合うのは、その向きの線までです。ASMLは公式ページで、k1を下げる手段として計算リソグラフィを挙げています。マスクと照明を計算で同時に最適化する手法です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 開口数(NA)とは ── 拾える回折光の角度を定める側
この記事の事実は次の一次資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- ASML「The Rayleigh criterion」公式技術ページ(2026年8月28日にリンク生存を実測、200)── CD = k1・λ/NA、各記号の意味、物理限界 k1 = 0.25、波長転換の重さ、計算リソグラフィによるk1低減
- ASML「Lithography principles」公式技術ページ(2026年8月28日にリンク生存を実測、200)── レチクルへ光を投影しパターンを縮小してウェハへ結像する構成
- SEAJ「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── σ=NAi/NApという定めと、σが大きいほど入射角を大きく取れること、ケラー照明とクリティカル照明の違い、斜入射照明の絞り形状(輪帯・ダイポール・四重極)とSMOでの任意形状、EUV反射照明光学系のFFMとPFMで光量を維持する構成、確率的影響の中身、MEEFの意味、位相シフトマスクとHTマスク・渋谷-レベンソンマスク、OPC、ILSとNILSとLWRの3σ、プロセスウィンドウと露光量裕度の±10%、ILTとSMOと Low k1露光、高解像レジストと金属酸化物レジスト
- ニコン「半導体露光装置 ラインアップ」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── NSR-2205iL1のNA0.45と解像度≦350nm、NSR-S220DのNA0.82と≦110nm、NSR-S322FのNA0.92と≦65nm、NSR-S636EのNA1.35と≦38nm
- ニコン「露光から計測・検査まで」公式技術ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── i線365nm、KrF248nm、ArF193nmという光源の波長
- ASML「EUV lithography systems」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── High NAが開口数0.55の光学系で13.5nmのEUV光源とあわせてより高いコントラストを与えること