バーンインとは
バーンインとは、出荷前に温度と電圧のストレスをかけ、初期故障を起こす個体を先に壊して取り除くスクリーニングです。 弱いものを、こちら側で壊しておく工程です。
故障率とバスタブ曲線の記事で示したとおり、半導体の故障率は使い始めがいちばん高くなります。ルネサス エレクトロニクスの信頼性ハンドブックによれば、この初期故障のほとんどは製造工程で生じた欠陥や不良な材料に起因し、動作開始後の温度や電圧といったストレスのもとで短時間のうちに故障として出ます。
短時間のうちに出るなら、出荷前に済ませておけばよいことになります。これがバーンインの発想です。
キオクシアの信頼性ハンドブックは、初期故障期であれば、スクリーニング(いわゆるバーンイン、エージング、ヒートランなど)や工程改善によって故障率を減らせるとしています。
ルネサスのハンドブックは、バーンインを電気的ストレスによる試験方法に分類し、ねらう欠陥として微細な異物や欠陥、薄膜中の汚染といったダイ内部の欠陥を挙げています。
同社の日本語版ハンドブック Rev.2.50は、この左端に目盛りを与えています。初期故障の期間は一般に約1年とされ、ワイブル分布の形状パラメータは初期故障期でm<1、偶発故障期でm≒1、摩耗故障期でm>1です。同書はスクリーニングを非ストレス法(外観検査、X線透視検査)、熱的(温度サイクル、熱衝撃)、機械的(落下衝撃、定加速度、PIND)、電気的(バーンイン、高電圧印加)の4区分で示し、バーンインの担当をダイ内部の欠陥としています。パッケージ側の欠陥は温度サイクルや熱衝撃の担当です。
どこまで落とすかを、先に決めます
Section titled “どこまで落とすかを、先に決めます”ここで選ぶのは、どれだけ強く、どれだけ長くかけるかです。
強くすれば弱い個体をより確実に落とせます。しかし強すぎれば、本来なら十分に使えたはずの個体まで消耗させることになります。時間を延ばせば、それだけ設備と時間の費用がかかります。
キオクシアのハンドブックが示している決め方は、出口から逆算するものです。ワイブルプロット解析を行い、スクリーニング後の残存故障率がその半導体製品の市場故障率を満足するようなスクリーニング条件を決定する、という手順です。
つまり「どこまで落とせば十分か」を先に決めて、そこから条件を選びます。バーンインの強さは、製品に許される市場故障率が決めています。
ルネサスの日本語版ハンドブックは、この出口をもう一段具体に書いています。顧客の品質要求と用途から初期故障率をppmとFITで目標設定し、それを超える故障率を持つ場合にスクリーニングを行う運用です。同書は、良品を劣化や損傷から守りつつストレスを加えるという条件も付けています。強さのつまみには、上限が最初から書き込まれています。
決めた条件は、あとで確かめます。同ハンドブックは、決めたスクリーニング条件を、スクリーニング後のEFR(Early Failure rate:初期故障率)の取得によって検証するとしています。見込みどおりに落とせたかを、実際の初期故障率で確かめます。
条件を選ぶには、加速の度合いが要ります
Section titled “条件を選ぶには、加速の度合いが要ります”同ハンドブックは、スクリーニング条件を検討するフローの例も示しています。おおよそ次の順です。
試験用のサンプルを集めます → ストレス条件を決めます(ダイナミックかスタティックか、配線間や絶縁膜へのストレス条件) → バスタブ曲線を取得します → 故障解析によって故障個所と故障原因を特定します → バスタブカーブと加速パラメータから偶発故障率を推定します → スクリーニング条件を選びます → スクリーニング後のEFR取得で検証します。
このうちバスタブ曲線の取得には但し書きが付いています。同ハンドブックは、加速パラメータが未知の場合には加速の度合いを求める検討を先に行うとしています。
これは順序の問題です。バーンインは「時間を先に進める」操作なので、条件を選べるのは、どれだけ進んだことになるのかが分かってからです。温度をこれだけ上げれば実使用の何時間ぶんに相当するのか ── その換算そのものを先に求める必要があります。それが加速試験の役割です。
換算の式と定数はルネサスの日本語版ハンドブックにあります。反応速度KをK=Λexp(−Ea/kT)で表し、Eaを活性化エネルギー(eV)、kをボルツマン定数8.6157×10のマイナス5乗eV/K、Tを絶対温度としています。同書はマイコン製品Aの高温動作試験をTa=125℃、VCC=5.5V、t=1,000時間で45個中0個の故障とし、実使用をTa=40℃、VCC=5.0V、Ea=0.80eVと仮定した推定例を載せています。この前提では温度加速係数が約561倍、125℃・1,000時間が40℃で約64年ぶんです(どちらもこちらで計算した値です)。
装置が出せる条件と、槽内の±3℃
Section titled “装置が出せる条件と、槽内の±3℃”レシピの数字と、装置が出せる数字は別です。エスペックはスタティックバーンインシステムを、温度と電気ストレスで異物や汚染や入力回路劣化のあるデバイスを取り除く装置として掲げ、温度範囲を下限+70℃/+20℃/−30℃/−55℃、上限いずれも+150℃の4区分としています。バーンインチャンバー側も同じ4区分です。上限が+150℃で揃うのは、パッケージ材料と電源の壁がここにあるためです。
同社は車載センサーバーンインシステムの仕様として、槽内の温度分布±3℃(有負荷 最大600Wまで)、昇温を40℃から125℃まで60分以内(無試料・無負荷)、印加電圧+5.5Vから7.0V、精度±0.1V以内、パワーサイクルを5秒から60秒単位のON/OFF、出力モニターを1スロット300個、ボードを1チャンバー48枚としています。
この±3℃は、加速の度合いそのものを動かします。ルネサスの式と定数、Ea=0.80eV、実使用40℃でそろえて計算すると、122℃で約470倍、125℃で約561倍、128℃で約668倍です(3つともこちらで計算しました)。槽の上下で1.42倍の開きになり、同じ48時間を通しても棚のどこに載ったかで進んだ時間がずれます。60分以内の昇温も48時間の2.1%にあたり(こちらで計算)、そのあいだ加速係数は561倍より小さい値です。試験時間を短く設計するほど、この目減りの割合が上がります。
バーンインはウェーハの状態でも通せます。東京エレクトロンはCellciaで、300mm対応プラットフォームの用途をメモリとウェーハレベルバーンインとし、真空コンタクト、セル数12または25、荷重200kgを掲げています。積層後に1段が初期故障を起こすと良品の残り段まで捨てるため、良品ダイで渡す製品ではこの前倒しが直接の得です。代わりにウェーハ1枚ぶんの発熱と荷重をウェハプローバー側の構造で受けます。
つまみと、その代償
Section titled “つまみと、その代償”- 温度を上げると加速係数が上がり、同じ時間で多くの弱い個体を落とせます。125℃から128℃へ3℃上げるだけで倍率は約561倍から約668倍へ動きます(こちらの計算)。代わりに良品側の消耗も同じ倍率で進み、上は+150℃の壁に当たります。下げると良品は守れる一方、同じ残存故障率へ届く時間が伸びます。
- 印加電圧を上げると絶縁膜側の欠陥が短時間で出ます。エスペックの車載センサー向けは+5.5Vから7.0V、精度±0.1V以内です。代わりに良品側でもTDDBの寿命を削り、ルネサスの「良品を劣化や損傷から守りつつ」という条件に当たります。下げると絶縁膜の弱点が市場へ持ち越されます。
- 時間を延ばすと残存故障率が下がりますが、チャンバーの占有が伸び、48枚のボードが埋まる間は次のロットが待ちます。短くすると回転は上がる一方、60分以内の昇温が占める割合が上がり、実効の加速倍率が設計値から離れます。
- ダイナミック(動作させながら)とスタティック(電圧だけ)を切り替えると、ねらう欠陥が動きます。動作させれば内部配線にも電流が流れてエレクトロマイグレーション側の弱点まで届きますが、パターンを与える回路とボード配線が要ります。スタティックならボードは安く済む一方、動作時にだけ出る弱点が残存します。
本来は、欠陥を減らすほうが筋
Section titled “本来は、欠陥を減らすほうが筋”キオクシアのハンドブックは、初期故障率を下げるために、まず工程改善によって欠陥自体を低減させる施策を行うとしています。そのうえで、低減には時間を要する場合があるため、欠陥低減施策と並行してスクリーニングにより故障率を減少させる対策をとることがあると述べています。
順番があります。選別は、欠陥が残っているあいだの手当てです。悪いものを見つけて捨てるより、初めから良いものを作るほうが安く済みます。歩留まりの改善が結局は初期故障率まで下げるのは、この構造のためです。
ただし例外があります。エスペックは車載センサーバーンインシステムの公式製品ページで、自動車の安全性に関わる姿勢制御用ユニットなどに載るセンサーが極めて高い信頼性を要求され、その品質管理のために出荷全数へのスクリーニングが必要になると記しています。車載グレードでは、歩留まりが良くなっても全数という枠は続きます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”バーンインとは何ですか?
出荷前に温度と電圧のストレスをかけ、初期故障を起こす個体を先に壊して取り除くスクリーニングです。キオクシアの信頼性ハンドブックは、初期故障期ではスクリーニング(いわゆるバーンイン、エージング、ヒートランなど)や工程改善によって故障率を減少させることができるとしています。
何を取り除いているのですか?
ルネサスの信頼性ハンドブックは、バーンインを電気的ストレスによる試験方法として挙げ、ねらう欠陥として微細な異物や欠陥、薄膜中の汚染といったダイ内部の欠陥を示しています。
なぜ初期故障を落とせるのですか?
初期故障の原因が、もともと入っていた欠陥だからです。同ハンドブックは、ほとんどの初期故障が製造工程で生じた欠陥や不良材料に起因し、動作開始後の温度や電圧のストレスのもとで短時間のうちに故障として出るとしています。時間を先に進めて、その分を出荷前に済ませる操作です。
条件はどう選ぶのですか?
市場故障率から逆算します。キオクシアのハンドブックは、ワイブルプロット解析を行い、スクリーニング後の残存故障率がその半導体製品の市場故障率を満足するようなスクリーニング条件を決定すると述べています。
決めた条件はどう確かめるのですか?
同ハンドブックは、決定されたスクリーニング条件が、スクリーニング後のEFR(Early Failure rate:初期故障率)の取得によって検証されると記述しています。
加速の度合いが未知の場合はどうするのですか?
同ハンドブックのフロー例では、加速パラメータが未知の場合には加速の度合いを求める検討を先に行うとされています。スクリーニング条件を選ぶには、どれだけ時間を進められるかを先に求める必要があります。
初期故障期はどのくらい続くのですか?
ルネサスの日本語版信頼性ハンドブックは、初期故障の期間が一般に約1年とされるとし、この期間ではワイブル分布の形状パラメータがm<1になると記しています。偶発故障期間はm≒1、摩耗故障期間はm>1です。
125℃で1,000時間の試験は、実使用の何年ぶんですか?
ルネサスの日本語版ハンドブックの計算例に沿って、実使用40℃、活性化エネルギー0.80eVとしてアレニウスの式に入れると、温度加速係数は約561倍、1,000時間は約64年ぶんになります(どちらもこちらで計算した値です)。
バーンイン装置は何度まで出せるのですか?
エスペックはバーンインチャンバーとスタティックバーンインシステムの温度範囲を4区分で掲げ、上限をいずれも+150℃、下限をH形の+70℃からU形の−55℃までとしています。車載センサーバーンインシステムでは槽内の温度分布を±3℃(有負荷 最大600Wまで)としています。
全数にやるのですか?
製品によります。キオクシアのハンドブックは、工程改善による欠陥低減には時間を要する場合があるとし、欠陥低減施策と並行してスクリーニングにより故障率を減少させる対策をとることがある、としています。エスペックは、自動車の安全性に関わるセンサーについて出荷全数へのスクリーニングが必要になると記しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 故障率とバスタブ曲線とは ── バーンインが切り落としている領域
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- キオクシア「信頼性ハンドブック」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200。2026年9月3日の再実測も200)── 初期故障期のスクリーニングと工程改善、欠陥低減に時間を要する場合の並行運用、ワイブルプロット解析での条件決定、EFR取得での検証
- ルネサス エレクトロニクス「Semiconductor Reliability Handbook」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200。2026年9月3日の再実測も200)── 初期故障の大半が製造工程の欠陥や不良材料に起因し短時間で出ること、ダイ内部の異物・欠陥・汚染をねらう電気的ストレス試験
- ルネサス エレクトロニクス「信頼性ハンドブック Rev.2.50」公開PDF(日本語、2026年9月3日に実測、200)── 本文で引いた初期故障期間・形状パラメータ・ppmとFITの目標設定・スクリーニングの4区分・アレニウスの式と定数・高温動作試験と実使用条件の各値
- エスペック「スタティックバーンインシステム」公式製品ページ(2026年9月3日に実測、200)── 対象は異物・汚染・入力回路劣化のあるデバイス、温度範囲の4区分
- エスペック「バーンインチャンバー」公式製品ページ(2026年9月3日に実測、200)── 温度分布性能と許容発熱負荷特性、温度範囲の4区分
- エスペック「車載センサーバーンインシステム」公式製品ページ(2026年9月3日に実測、200)── 出荷全数スクリーニングと、本文で引いた槽内温度分布・昇温時間・印加電圧・パワーサイクル・出力モニター・搭載枚数の各値
- 東京エレクトロン「Cellcia」公式製品ページ(2026年9月3日に実測、200)── 用途のメモリとウェーハレベルバーンイン、セル数12/25、荷重200kg
- 約470倍・約561倍・約668倍、1.42倍、約64年、2.1%は、上記資料の式と仕様値からこちらで計算した値です