ESD(静電気放電)とは
ESD(Electrostatic Discharge、静電気放電)とは、静電気が半導体製品へ放電し、劣化や損傷を起こす現象です。 相手になるのは、作業中に日常的に起きる現象です。
この現象の本質は、電圧の桁の違いにあります。
キオクシアが公開している信頼性ハンドブックは、酸化膜の絶縁破壊強度が一般に8〜10MV/cmと言われるとしたうえで、50nm厚の酸化膜であれば40〜50Vで絶縁破壊を起こす計算になると述べています。
この40〜50Vという値を、身のまわりの静電気と比べてみます。人が指先で「パチッ」と感じる静電気は数千Vの水準です。感覚が届くのは数千Vからで、素子の側から見れば40〜50Vで十分に過大な電圧になります。
壊す側と壊れる側で、桁が2つ以上ずれています。 だからESD対策は「気をつける」で済まず、工程と装置と人の動きすべてに組み込まれることになります。
帯電しているのは、どちら側か
Section titled “帯電しているのは、どちら側か”試験のモデルは、電荷が人体側と製品側のどちらに溜まっているかで、HBMとCDMに分類されます。ここを取り違えると、対策の向きも間違えます。
HBM(人体帯電モデル)について、キオクシアのハンドブックは、人体が静電気の発生源となり、そこから静電気放電が生じることで半導体製品に損傷を起こすモデルと記述しています。試験は100pF・1500Ωに設定したコンデンサ放電法で行うとしています。外から製品へ、電荷が入ってくる形です。
CDM(デバイス帯電モデル)について、同ハンドブックは、半導体製品が帯電した物体に近づくことで、あるいはスティックなどと摩擦することで、製品自身が静電気の発生源となり、リードを伝って急激な放電が起きるモデルと記述しています。試験は専用のCDM試験装置を用いて行うとしています。中から外へ、電荷が出ていく形です。
向きが逆ですから、対策の当て先も違います。人を接地すればHBMは減り、製品自身が搬送中に帯電するのを抑えるには、製品側の対策が別に要ります。同じ「静電気対策」という言葉が、まったく別の作業を指すことになります。
同ハンドブックは、この2つのほかに、MOSなどの絶縁構造の製品が高電界にさらされて誘導帯電を起こし、そこから放電する誘導電界モデルにも触れています。
モデルの定数は、壊し方を再現するために選ばれた値です
Section titled “モデルの定数は、壊し方を再現するために選ばれた値です”HBMの「100pF・1500Ω」は、壊し方を再現するために選ばれた試験の定数です。
ルネサス エレクトロニクスの信頼性ハンドブックは、実際の人体からの放電と試験機の放電を比較したうえで、人体の静電容量が直流測定法では約300pFだったとし、放電波形を解析すると、素子を壊す大電流が流れる期間の実効的な容量は数pFから数十pF程度であると述べています。
直流で測れば300pF、壊す瞬間だけを見れば数pF〜数十pFです。同じ人体でも、何を測るかで値が1桁以上変わります。
だから試験結果は、HBM合格・CDM合格のように、そのモデルが再現しようとしている壊れ方とセットで受け取る必要があります。TDDBの寿命が外挿の式とセットでしか読めなかったのと、同じ構造です。
壊れ方は絶縁膜破壊と熱破壊の2つです
Section titled “壊れ方は絶縁膜破壊と熱破壊の2つです”キオクシアのハンドブックは、半導体製品の主な静電気破壊メカニズムを2つに分類しています。
絶縁膜破壊は、ゲート酸化膜や層間配線間の絶縁膜が短絡して起こります。同ハンドブックは、MOS構造のゲート酸化膜を持つ半導体製品で多く発生するとし、熱伝導性が低い酸化膜に対して限界以上の電圧が印加され、損傷を起こすのに必要なエネルギーが消費された場合に生じる現象だと記述しています。
熱破壊(接合破壊)は、接合部を過度の電流が流れることで局部的に温度が上昇し、その熱で接合部が破壊される壊れ方です。同ハンドブックは、この壊れ方を表すモデルとしてWunsch & Bellのモデルが最も一般的だとし、印加されるパルス幅と素子にかかる電力密度から接合破壊現象が決まるモデルだと記述しています。
片方は電圧で決まり、もう片方はパルス幅と電力密度で決まります。同じ静電気でも、絶縁膜破壊なら電圧が、熱破壊ならパルス幅と電力密度が合否を左右します。試験のモデルが複数ある理由は、ここにもあります。
関連するデータ・ツール
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よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ESDとは何ですか?
静電気が半導体製品へ放電し、劣化や損傷を起こす現象です。キオクシアの信頼性ハンドブックは、静電気放電による半導体製品の劣化および損傷を重要な問題に挙げています。
どのくらいの電圧で壊れるのですか?
同ハンドブックは、酸化膜の絶縁破壊強度が一般に8〜10MV/cmと言われるとし、たとえば50nm厚の酸化膜では40〜50Vで絶縁破壊を起こすことになると記述しています。人が感じる静電気よりはるかに低い電圧です。
HBMとは何ですか?
人体帯電モデル(Human Body Model)です。人体が静電気の発生源となって放電するモデルで、同ハンドブックは試験を100pF・1500Ωに設定したコンデンサ放電法で行うとしています。
CDMとは何ですか?
デバイス帯電モデル(Charged Device Model)です。製品自身が静電気の発生源となり、リードを伝って急激な放電が起きるモデルで、試験は専用のCDM試験装置を用いて行うとされています。
HBMとCDMの違いは何ですか?
電荷がどちらに溜まっているかが逆です。HBMでは人体側に溜まった電荷が製品へ入り、CDMでは製品自身に溜まった電荷がリードから出ていきます。
人体の静電容量は本当に100pFなのですか?
試験の定数です。ルネサスの信頼性ハンドブックは、人体の静電容量が直流測定法で約300pFだったとしたうえで、放電波形の解析からは素子を壊す大電流が流れる期間の実効的な容量が数pFから数十pF程度であると述べています。
どんな壊れ方をしますか?
キオクシアのハンドブックは2つに分類しています。ゲート酸化膜や層間膜が短絡する絶縁膜破壊と、接合部を過度の電流が流れて局部的に温度上昇し破壊する熱破壊です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- TDDB(経時絶縁破壊)とは ── 時間をかけて絶縁膜が壊れる側
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- キオクシア「信頼性ハンドブック」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 酸化膜の絶縁破壊強度が一般に8〜10MV/cmと言われること、50nm厚の酸化膜では40〜50Vで絶縁破壊を起こす計算になること、HBMが人体を発生源とすることと100pF・1500Ωのコンデンサ放電法、CDMが製品自身を発生源とすることと専用試験装置、誘導電界モデル、故障メカニズムが絶縁膜破壊と熱破壊(接合破壊)の2つに分類されること、熱破壊にWunsch & Bellのモデルが最も一般的であること
- ルネサス エレクトロニクス「Semiconductor Reliability Handbook」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 人体の静電容量が直流測定法で約300pFであること、放電波形の解析から素子を壊す大電流が流れる期間の実効的な容量は数pFから数十pF程度であること